大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

やくもあやかし物語・2・003『入学式』

2023-08-18 11:07:18 | カントリーロード

くもやかし物語・2

(『やくもあやかし物語』続編『せやさかい』姉妹作品)

003『入学式』 

 

 

 部屋の窓から王宮が見える。

 

 見えると言っても、林を隔てて距離もありそうなんだけど、おっきいので近くにあるように思えるんだ。

 王宮の他には湖、ヤマセン湖、ヤマセンブルグは小さな国だけど宮殿も湖も大きい。

 それ以外には湖の向こうに山が見えるだけ。

 観察すれば、宮殿にも湖にも森や山々にも、おもしろい! とか、なんだろう? とかがいっぱいあるんだろうけど、今のわたしは、そんな余裕はないよ。

 到着して、すぐに自分の部屋を指示されて、ベッドの上に置いてあった真新しい制服に着替えて、時間まで待機。

 

『時間になったので、新入生諸君は講堂に集合してください』

 

「はい!」

 館内放送に返事してしまって、廊下に出る。

 廊下には、親切なRPGみたいに矢印が浮かんでいて、ていねいに80mと距離まで出ている。

 他のドアからも新入生たちが出てきてるんだけど、お喋りする者はいない。80mの下には――静かに――とアラームが付いているし。

 足音もしない……と思ったら、モスグリーンのカーペットが敷かれてる。来た時も通ってるはずなんだけど憶えてない。緊張してたんだよね。

 矢印は、階段を下りて一階の廊下を示し、一階はエンジのカーペット、天井は二階よりも高い。壁の所どころには油絵が掛けてあって、ランプは彫刻の妖精が捧げ持っている。

 外見もそうだったけど、学校は古い洋館。矢印が10mを示して講堂の入り口。5mのサインに変わって、ごっつい木製のドアが開く……自動ドアみたい。

 講堂は三階分の高さがあって、シャンデリアが六つもぶら下がってる。執事さんみたいなのとメイドさんみたいなのが両脇の柱ごとに並んでる。

 正面は30センチほどの壇になっていて、壇の上には国旗と校旗(たぶん)が並んで掛けられて、溢れんばかりの花を生けた花瓶が演壇の横に置かれている。

 座席には、それぞれ新入生の名前が浮かんでいて――Yakumo Koizumi――の席に着く。

 

「ただいまより、ヤマセンブルグ王立民俗学学校第一回入学式を挙行いたします。一同、起立!」

 

 メイド長みたいなおばさんが凛とした声で宣言。ザザっと一同が立つと、壇の奥のドアが開き、軍服の将軍みたいな人と、王女さまが入場してきた。

「ヤマセンブルグ王立民俗学学校、初代学校長、フィリップ・カーナボン卿ご登壇!」

「諸君、栄えあるヤマセンブルグ王立民俗学学校第一期生としての入学おめでとう。余がヤマセンブルグ王立民俗学学校初代校長のフィリップ・カーナボンである……」

 見かけ通りの硬い感じのおじいさん、たぶん名誉職なんだろうね、スピーチ眠たいし。

「次に、ヤマセンブルグ王立民俗学学校、初代総裁、プリンセス、ヨリコ スミス メアリー アントナーペ エディンバラ エリーネ ビクトリア ストラトフォード エイボン マンチェスター ヤマセン殿下のお言葉を賜ります、一同、アテーンショーーン!!」

 ビシ!!

「みなさん、ご入学おめでとう(^▽^)」

 パチパチパチとにこやかに拍手、すると校長や他のスタッフもそれに倣って拍手してくれて、やっと歓迎されているんだという感じになったよ。

「まずは座ってくださいな。このわたしとしては少し長い話をしますので、リラックスして聞いてください。あ、でも、足や腕を組むのは勘弁してくださいね。あそことあそことあそこと……他にもカメラがあって、わたしのお祖母ちゃんが見ていますので。コホン、では、お祖母ちゃん、いくわね……」

 チャーミングに、そして少し緊張した笑顔でスピーチされる。

 みんなに分かるように英語で話されてるんだけど、わたしには日本語のニュアンスで聞こえたよ。

 この春までは大阪のミッションスクールに通われていたし、それまでは、日本とヤマセンブルグとの二重国籍でいらっしゃった。それと、お人柄だと思う。せっかく縁があっていっしょになったんだから、お互い仲良く、でも、しっかり高め合っていきましょうという感じ。

「この校舎は78年間モスボールされていたものをリニューアルしたものです。その前身は王立魔法学校。イギリスの魔法学校に負けないくらい歴史と伝統のある魔法学校でした。わたしたちは、魔法や魔術も含めての民俗学、人の行いの全てが民俗学の対象だと考えています。むろん、適性や本人の希望や事情があります。このヤマセンブルグの風土と伝統が、みなさんの、そして世界の人々の相互理解、そして発展と平和に繋がればと願ってやみません。えと……以上です。キャリバーン教頭、次は教職員の紹介……わたしがやってもいいですか? 足りないところが合ったら補足していただくということで」

「はい、お任せします、殿下」

「ありがとう、それでは……」

 王女は、スピーチで湧いた暖かさのまま先生たちを紹介。

 みんな個性豊かな先生たちなんだけど、特に、若い陸軍中尉さんが目に留まった。

 

 ソフィア・ヒギンズ

 

 ほんの十日前に講師の辞令をもらったばかりで、人を教えるのは初めてらしい。

 でも、家は代々の王室付き魔法使いの家系だとか。

 年齢は分からないけど、二十歳前後かな?

 キビキビした軍人さんなんだけど、どこか同類という気がした。

 そして、もう一人。

 

 酒井 詩(さかい ことは)さん。

 

 この人は車いすの聴講生。

 大阪からやってきた留学生なんだけど、王女さまのご学友でもあり、女王陛下にも仕えておられるとか。

 二人とも、ぜんぜんタイプは違うんだけど、広い意味で同類さん。

 こんな風に人に興味が持てるのは、わたし的にはすごい事なんだよ。

 今までは、人間じゃないものたちとの付き合いばかりだったからね。

 

 むろん、生徒の中にも面白い人やら、すごい人やらがいっぱい。

 それは、ボチボチとね。

 

 ちょっと遅れたけど、わたしの、わたし的には高校生活が始まったよ。

 

☆彡主な登場人物 

  • やくも        斎藤やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生
  • ヨリコ王女      ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
  • ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
  • メグ・キャリバーン  教頭先生
  • カーナボン卿     校長先生
  • 酒井 詩       コトハ 聴講生

 

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RE・かの世界この世界:192『的にも運にも』

2023-08-18 06:07:15 | 時かける少女

RE・

192『的にも運にも』テル 

 

 


 与一に会ってみたいぞ!

 

 ツボにはまったヒルデが虫を起こす。

「時間は大丈夫でしょうか?」

 あるじの我がままに、タングニョーストが気を遣う。

「大丈夫ですよ(⌒∇⌒)」

 イザナギは穏やかに応える。

 一刻も早く黄泉の国に向かって、イザナミを取り返したいはずなのに。

 日本人というのは、もう、神代の昔から、こうなんだ。

「では、さっそく!」

「わたしから連絡しましょうか?」

 ペギーがスマホをヒラヒラさせる。

「スマホ、使えるの?」

「アハハ、業務用ですから」

 どうやら、源氏の陣地にスタッフを派遣しているようで、すぐに話がついた。

 


「こんなに端っこなのか?」

 


 与一の陣屋は源氏の陣地の端の端。学校で言えば校舎裏、ゴミの集積場か学級菜園でもありそうなところだ。

「わざわざ来てくださってありがとうございます。幔幕だけの狭い陣屋ですが、どうぞ奥に……」

 ツギハギだらけの幔幕は、わたしが見てもみすぼらしいんだけど、ヒルデは感心している。

「うん、パッチワークのようで、なんだかオシャレだ!」

 シャイな与一はお茶の用意をしながら微笑むばかりだ。

 なんだか、潰れる寸前の喫茶店の気弱なマスターという感じで、とても華々しく扇の的を射落とした英雄には見えない。

「あれは、狙ってやったことなのか?」

 ヒルデがドストレートな質問をする。

「狙わなきゃ当たらないよ」

 なにをバカな質問という感じで、ケイトが茶々を入れる。

「ハハ、ほぐしてくれてありがとう。慣れないことをやって、ちょっと緊張していましたから」

 アハハハ

 与一の正直で穏やかな態度に、微笑みが湧いてくる。

「地元での呼ばれ方は『与太郎なのです』」

「ヨタロウ?」

 日本語の機微が分からないヒルデは、自然な疑問を呈する。

「ゲゲゲの与太郎!」

 ケイトのスカタンが続く。

「日本では、長男を『太郎』と呼びます」

「そうね、次男は『二郎』で三男は『三郎』という感じね」

 わたしが続ける。

「そうか、義経の九郎義経っていうのは九男という意味になるんだ」

「まあ、そんな感じですね」

「与一の与は?」

「はい、十番目以下という意味です。十一郎というのは語呂が悪いですから」

「上に、十人も兄が居るのか?」

「はい、家を絶やさないために、どこの武士も大勢子供を作ります。でも、普通は五六人。八人も居れば多い方で、十人以上というのは珍しいですね」

「与というのは『余りもの』という響きがありますね」

「はい、だから、普通は与太郎という呼び方が多いようです」

「与一と与太郎、どう違う?」

「それは……」

 答えにくそうに俯くので、わたしが後を続ける。

「与太郎と云うのは落語なんかに出てくる、憎めないが、どこか抜けている三枚目に付ける名前だよ」

「お恥ずかしい(^_^;)、まあ、それで戦に出る時などは『与一』と、ちょっとオシャレな名乗りにしております」

「そうか……しかし、あれは見事だった。単に命中させただけではなく、殺伐とした戦場を戦士の美学で飾った。奇襲に負けた平家にも一掬の華が残った。ブァルキリアの戦士としても、教えられるところが多かったよ」

「は、恐縮です」

「どのくらいの自信があったのですか?」

 タングニョーストが身を乗り出した。

「半々というところです。元来が与太郎ですから、外したら笑われておしまいです。もう、これ以上落ちることもありますまいから」

 なんか自虐的だ。

「わたしは十一男ですし、母は、兄たちの母と違って低い身分の出なので、父の遺産の相続は見込めません。行く末は、兄たちの郎党になって戦働きをするするか、百姓をするしかありませんが、母が病弱なもので……」

「……そうか、名を上げて収入を増やすしかないのだな」

「はい、実は、今度の事で兄たちとは別に領地がいただけそうで、ちょっと嬉しいんです」

「そうか、それは何よりだったな」

「与一どの、あなたの弓を見せていただけませんか」

 タングニョーストが戦士らしい申し出をする。

「あ、はい。遠目には綺麗な弓に見えていますが……」

 与一が差し出した弓は、あちこち塗が剝げているが、手入れはきちんとされていて好感が持てるものだ。

「これは……なかなかの強弓ですね」

「はい、五人張りです」

「五人針?」

 ケイトがスカタンな質問。

「弦を張るのに五人の力が要るという意味です」

「す、すごいんだ!」

「強い弓でないと、的にも運にも届きませんから」

「的にも運にもなぁ……」

 ヒルデが、しみじみと嚙み締めた。

 

☆ ステータス

 HP:10000 MP:400 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・1000 マップ:1000 金の針:1000 福袋 所持金:450000ギル(リボ払い残高0ギル)
 装備:剣士の装備レベル55(トールソード) 弓兵の装備レベル55(トールボウ)
 技: ブリュンヒルデ(ツイントルネード) ケイト(カイナティックアロー) テル(マジックサイト)
 白魔法: ケアル ケイト(ケアルラ) 空蝉の術 
 オーバードライブ: ブロンズスプラッシュ(テル) ブロンズヒール(ケイト)  思念爆弾

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

    テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
 ブリュンヒルデ     主神オーディンの娘の姫騎士
 タングリス       トール元帥の副官  ブリの世話係
 タングニョースト    トール元帥の副官  ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
 ポチ          シリンダーの幼体 82回目で1/12サイズの人形に擬態
 ペギー         異世界の万屋
 ユーリア        ヘルム島の少女
 ナフタリン       ユグドラシルのメッセンジャー族ラタトスクの生き残り
 その他         フギンとムニン(デミゴッドブルグのホテルのオーナー夫婦)

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・046『みんなで万博・1・船場センタービル』

2023-08-17 15:10:57 | 小説

(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記

046『みんなで万博・1・船場センタービル   

 

 

 無理をして新幹線にした。

 1970年、新大阪までの新幹線の特急料金は片道2000円。

 学食のランチが100円だからね、高校生としては贅沢をした。

 先月、直美さんと来た時は、機材が多いので車だった。身銭をきってみると大阪までの距離がよく分かる。

 

 座席に付いたら窓の下と座席のひじ掛けに吸い殻入れが付いているのには驚いた。

 発車すると、二つ前のオッサンが、さっそく喫いはじめたんだけど、煙は広がる前にダクトに吸い込まれて、すぐ横にでも座っていなければ被害は無いんだけど、列車の中で喫煙するという行為そのものが犯罪的に感じる。

 でも、三島を過ぎて富士山が見え始めて「キャー、富士山!!」「うわあ!」「待ってました!」とJK五人がキャピキャピ騒ぐと、タバコのオッサンは腰を浮かせて横顔で睨んできて、そのままシートに沈んでしまった。

 まあ、お互いさま。

 五人ともバイトに精を出したので、高校生の旅行としては余裕。

 チケットは真知子のお母さんが尽力してくださって二日分を確保できている。

 万博といっても、高校生は600円だから、二日分ゲットしても新幹線の特急料金よりも安いよ。

 令和の再来年、2025年万博は8000円だとか。物価の上昇を考えても8000円はクレージーだ。パビリオンの建築も遅れに遅れて、着工どころか建築契約も出来ていない国が多い。ひょっとしたら、年内には第三次世界大戦になってパリオリンピックも大阪万博も吹っ飛んでしまうという噂まである。半世紀以上経っているのに人類の進歩と調和は退化してる。

 

「「「「「お世話になりまーーす!」」」」」

 

 五人揃って元気に挨拶したのは、朝ドラのオープンセットかという感じの古いお店。いや、元お店。

 大阪に船場センタービルというのが出来て、船場の繊維関係のお店が大挙して移転したのが、この三月。

 たいていは移転と同時に元のお店は区画整理とかで取り壊されたり売りに出されたり。

 その中で、権利関係やら保存問題やらで宙ぶらりんになったお店があって、ちょうどお盆の時期で人も居なくなるので、光熱費の負担だけで泊まらせてもらえることになった。

 これも真知子のお母さんのお蔭。

ロコ:「うわあ、これ三和土(たたき)って言うんじゃないですか!?」

 ロコが、入ったところのコンクリートに感激する。

たみ子:「なに、タタキって?」

佳奈子:「カツオか?」

ロコ:「土に消石灰とニガリを混ぜて叩き固めた舗装なんです。コンクリートよりも吸湿性に優れていて風合いがちがうんです(^▽^)」

真知子:「玄関で泊まってちゃダメでしょ、奥に行くわよ」

 功労者は、ツカツカト奥に進んで行く。

 三和土の横は板の間で、先生の机みたいなのが並んでいて、お店が現役だったころは、ここが事務所だったみたい。

 真知子に続いて奥に行くと長細いお台所のようになっていて、天井は吹き抜けで梁や柱がむき出しで、その間に天窓が覗いている。

ロコ:「昔はオクドサンとかがあって、薪でご飯炊いてたんでしょうねえ」

わたし:「ほんとだ、梁も柱も黒光りしてるよぉ」

佳奈子:「ここから上がるみたい」

 上がり框の前に真知子の靴がある、それに倣って隣接する板敷と畳敷きに上がる。

ロコ:「昔は、ここでご飯食べたんですね。畳のところが旦那さんと家族、板敷が番頭さん手代さん、三和土のところは丁稚さんたちですね」

佳奈子:「え、身分別だったの?」

ロコ:「ですよ。っていうか、空間的には同じ場所で食べてるんで、大阪はすごいんです。宮之森もそうですけど、関東とかじゃ、主人一家は奥の別室ですからね。商売に対する姿勢が違うんです。主人や番頭は、食事の場でもみんなの健康状態やモチベーションを見て、なんというか、一体感がすごいんですよ!」

わたし:「いや、ロコのモチベーションこそすごいよ(^_^;)」

ロコ:「いいえ、せっかく大阪の町家づくりに泊まるんで、下調べしてきたんです。このお家、基本的に適塾と同じ作りのようです」

社員さん:「いやあ、お嬢ちゃんら、すごいねぇ。これだけ感心してもろたら、値打ちあるわあ。適塾は、ちょっと行ったとこにあるねんけど、今は老朽化して公開はしてへんさかい。ここで間に合うんやったら、よう見といてください」

みんな:「「「「「はい」」」」」

 

 それから、奥の部屋やら坪庭、寝具の在りか、お風呂の沸かし方から戸締りの仕方を教えてくれて、社員さんは船場センタービルの方に帰って行った。

 

佳奈子:「さて、ちょっと早いけどお昼食べて、どっか行こうか?」

 万博は二日目からと決めているので、初日は余裕だ。

真知子:「社員さんが、センタービルの地下にいろいろ食べ物屋さんがあるって言ってたよ」

佳奈子:「よし、じゃあ、センタービルに直行だ!」

みんな:「「「「おお!」」」」

 

 徒歩5分ほどで船場センタービルに到着。またまた感動した。

 

みんな:「「「「「うわあ……」」」」」

 感嘆の声を上げて、五人で見上げた。

 ビルとして見ると、三階建とか四階建で、驚くほどのものじゃないんだけど、めっちゃ長い。

 首を左右に振っても端っこが見えない!

ロコ:「幅42メートル、全長は1000メートルあるんです!」

みんな:「「「「「1000メートル」」」」」

ロコ:「地下鉄の駅を二つ跨いで、まだ東の方に続いていますからね」

たみ子:「ということは、これを縦にしたら、世界で一番のノッポビルになるよね!」

ロコ:「はい、エンパイアステートビルを三つ重ねて、まだ足りません!」

 わたしたちの驚きは、それだけじゃなかった。

 

 シュイーーン シュ シュ シュイーーン……

 

 ビルの上には高速道路が走っていて、耳を澄ますと、ひっきりなしに車が走っていく音がする。

ロコ:「最初に、高速道路の計画が出来て、移転するお店や会社がいっぱい出てきたんですです。引っ越し用のビルの計画があったんですが、床面積がぜんぜん足りなくて、高層化すると上の方は人が来なくて条件悪いです。そこで、考えたんです『いっそ、高速道路の真下をビルにしたら全部入ってお釣りが出るやろ!』って」

みんな:「「「「なるほどぉ」」」」

ロコ:「それに、地下二階まであって、食べ物屋やら呑屋がいっぱいあります!」

みんな:「「「「おお!」」」」

 宮之森の図書館で調べてきたという図面に目を剥いて、とりあえず現場に急行、30分近く目移りして、夜は呑屋、昼間はランチというお店で美味しくお昼を頂く。

 

 午後は、大阪城と難波と心斎橋を堪能して、いよいよ明日の万博突撃に備えて英気を養った。

 

☆彡 主な登場人物

  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校一年生
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         1年5組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            1年5組 副委員長
  • 高峰 秀夫             1年5組 委員長
  • 吉本 佳奈子            1年5組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            1年5組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 藤田 勲              1年5組の担任
  • 先生たち              花園先生:4組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。

 

 

 

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RE・かの世界この世界:191『屋島の戦い・3・扇の的』

2023-08-17 06:26:10 | 時かける少女

RE・

191『屋島の戦い・3・扇の的』テル 

 

 

 一丁艪の小船には水手(かこ)と女官が乗っていて、ゆるゆると進んでくる。

 

 海の平家と浜の源氏の間に至ると船足が停まり、女官がすらりと立ち上がる。

 口が開いたかと思うと、静かに舞い始めた。

 

 謡曲か何かなのだろうけど、口の動きだけでは令和の高校生には分からない。

 いや、たとえ聞こえても源平時代の謡曲など分かりようもないんだけど、さすがは源氏の武者たち。

 女官の口の動きと舞の所作で分かるみたいで、静かに見いっている。

 冴子と舞ったお神楽を思い出す。わたしと冴子の舞も、こんなに人をひきつけることができたんだろうか、こんなに美しかったんだろうか。ほとんど義務感でやっていたけど、もう一度、この女官のように舞えたら……知らず知らずのうちに女官の手足の捌き方、腰の据え方に見入ってしまう。

「これが戦なのか?」

 半ば呆れたようにタングニョーストは腕組みをする。

 ヒルデは柵ギリギリのところまで出て、腰に手を当てて女官の舞を注視する。

「揺れる船の上で足を取られることもなく舞っている、なかなかのものだ……」

 ケイトも食べかけのうどんを箸に挟んだまま腰を浮かし、うどん屋の女亭主は、そんな我々を後ろで見ながらニコニコしている。

 

 見事に舞い終ると、舞扇を閉じて帆柱の赤字に白丸の扇を示した。

 

 ヒルデとタングニョーストは、器用に柵の上に飛び乗り、揃って小手をかざす。

「ほう、あの扇を射落としてみろというわけだな」

「700ヤードはあります、ゴルフで言えばパー5のロングホールをホールインワンで決めろと言うようなものです」

「アルテミス(ギリシア神話の弓の女神)でも無理だろ」

「ウル(北欧神話の弓の男神)でも尻込みします」

「欧州の勇者は、感想をいっただけでもカッコいいなあ……」

 イザナギさんは苦笑いして頭を掻いた。

 国生みの男神としては、いささか威厳に欠けるんだけど、初代日本のお父さん的な力の抜け方は好ましい。


 源氏の軍勢は、この徴発を受けてざわめいていたが、やがて、一人の武者が現れたかと思うと、ジャブジャブと馬にまたがったまま海に乗り出した。

「あれを射落とそうというのか!?」

「姫、暴れては、柵から落ちます!」

「構うな!」

 タングニョーストはタングリスの入った背嚢を担いでいるので、暴れられてはかなわない。

 イザナギさんとケイトが手を差し伸べて背嚢を預かろうとするが、タングニョーストは困りながらも――けっこうです――と手を振る。

『やあやあ、遠からん者は音にも聞け、近くば寄って目にも見よ! 我こそは、那須の国の住人にして御家人の末席を汚す那須与一宗隆なり。今より、あの軍扇を射落さんとするものなり、源平いずれの方々も、両の眼(まなこ)豁然と開いて御覧じろ。もし、この与一、一閃にて射落とさずんば、腹掻っ捌いて高松の浜の魚の餌になろうぞ。いざ、平家の女官殿、勝負勝負!』

 見事な名乗りに、源平双方から感嘆の声が上がる。

「か、カッコいい!」

「手に汗を握ります!」

「来たるべきラグナロクで、あれをやってみよう!」

 ヴァルキリアの主従は興奮の絶頂になった。

 

 キリキリキリ……

 

 丘の上のここまで弓を引き絞る音が聞こえるような気がする。

 与一がいっぱいいっぱいまで弓を引き絞ると、源平双方のみならず、丘の上の我々も呼吸を忘れて見入ってしまう。

 うどん屋の釜の湯気さえ停まったかと思う瞬間、与一の矢が放たれた。


 ヒョーーーーーーー


 鏑矢は、獲物に飛びかかる鷹の声のように音を引いて飛んでいく!


 フ


 音もなく扇が吹き飛び、一瞬遅れて命中の音。


 トス


 ひらりひらりと舞いながら扇は海面に落ちて、やっと、源平両軍から歓声の声やら船端やら箙(えびら)やらを叩く音が、高松の海と浜と空に満ちた。

「か、かっこいい! めちゃくちゃカッコいいぞ!」

 ヒルデは、柵の上で飛び上がったりバク転をしたり、涙さえ浮かべて感激した。

 タングリスも惜しみなく拍手を送る。

 ケイトもうどんの鉢を持つ手はそのままに、脚を震わせている。

「よし、今日は、うどんの無料奉仕だよ!」

 うどん屋のカミさんが吠える。

 吠えた、その顔をよく見ると、荒れ地の万屋のペギーだったりした。

 

☆ ステータス

 HP:10000 MP:400 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・1000 マップ:1000 金の針:1000 福袋 所持金:450000ギル(リボ払い残高0ギル)
 装備:剣士の装備レベル55(トールソード) 弓兵の装備レベル55(トールボウ)
 技: ブリュンヒルデ(ツイントルネード) ケイト(カイナティックアロー) テル(マジックサイト)
 白魔法: ケアル ケイト(ケアルラ) 空蝉の術 
 オーバードライブ: ブロンズスプラッシュ(テル) ブロンズヒール(ケイト)  思念爆弾

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

    テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
 ブリュンヒルデ     主神オーディンの娘の姫騎士
 タングリス       トール元帥の副官  ブリの世話係
 タングニョースト    トール元帥の副官  ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
 ポチ          シリンダーの幼体 82回目で1/12サイズの人形に擬態
 ペギー         異世界の万屋
 ユーリア        ヘルム島の少女
 ナフタリン       ユグドラシルのメッセンジャー族ラタトスクの生き残り
 その他         フギンとムニン(デミゴッドブルグのホテルのオーナー夫婦)

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

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せやさかい・428『お盆にパニクル』

2023-08-16 09:38:41 | ノベル

・428

『お盆にパニクルさくら   

 

 

 8月15日は申し合わせたわけでもなく、あたしも留美ちゃんも家に居てる。

 

 15日は、本山でも戦没者追悼法要が行われてて、末寺の如来寺でも法要と講和をやりました。

 お花まつりみたいな華やかさやら、落語会みたいなウキウキ感もないけど、お寺には大事な行事。

 言われんでも家の手伝いするのが当たり前になってます。

 お寺というのは、世間では保守の筆頭みたいに思われてるけど、そうでもありません。

 うちはやってないけど、他のお寺では『安倍政治を許さない!』て習字の見本みたいなビラ貼ってるとこもあったし、教団の連合では『靖国神社公式参拝中止の要請』っちゅうのを出したりしてる。

 ちょっとズレてるなあ……いう気はすんねんけど、おばちゃんも詩ちゃんの世話でヤマセンブルグに行ってしもてる。

 女手は、うちと留美ちゃんだけやし、例年通りにお世話させてもろて、やっと一息の本堂。

 

 ナマンダブナマンダブ…………

 

 二人、阿弥陀さんにトドメのお念仏で手ぇ合わせて、ちょっとボンヤリ。

 

 いつの間にかセミの声もせんようになって、その分、どこからか甲子園の実況放送が微かに聞こえる夏休みの後半戦。

 

「留美ちゃん、ドラマに出るねんてぇ?」

「え……あ……えと……(-_-;)」

 なんや、俯いてモジモジ。

「ミケメが言うてた」

「ミケメ?」

「あ、高瀬川さん、ミケメの声優やねんけど、休憩中に留美ちゃんといっしょにドラマに出ることになった言うてたし」

「あ…………えと…………」

「アハハ、なんや、昔の留美ちゃんに戻ってるしぃ」

「あ……たこ焼きテレビのディレクターから話があって……ね……『台詞なんか喋れません(-_-;)』って言ったんだけどね、『だいじょうぶ、喋れない女の子の役だから(^▽^)』って、『あ、でも、演技なんてできませんから(;'∀')』って言ったら、『だいじょうぶだいじょうぶ、車いすの設定だから(^▽^)』って……決まってしまって……どうしよう、さくらぁ(##゚Д゚##)!!」

 もう、完全にパニクっております。

「ああ、だいじょうぶだいじょうぶ! うちでも立派に声優やってんねんし(立派いうのはハッタリやけど)、単発のドラマやねんし、青春の記念イベントや思て楽しんだらええ!」

「ダメダメダメ!」

「そうやて!」

「でもでも、進路のことだってあるんだよ、スグに三年生になっちゃうし。間に合わなくなっちゃうし(>人<)!」

「あ、大丈夫やて」

「ああ、ずっと考えないようにしてきたのにぃ……(;゚Д゚) ああ、もう夏休みも半分過ぎちゃったよぉ。らしくないよね、なにごとも先回りして解決しなきゃいけないのに、先手必勝の榊原留美なのにぃ!」

「ちょ、留美ちゃん(^_^;)」

「ウグググ……」

 ああ歯ぎしりして……思たよりこじらせてるっぽい。

 さすがのうちも、次の言葉が出てこーへん。

 

 ブブブ ブブブ……

 

 二人のスマホが、同時に鳴った。

 そろっと見てみると、学校から緊急メール。

 

「え、あ、そうだ、修学旅行なんだ!!」

 留美ちゃんの目に火が灯った!

 メールは、修学旅行日程の最終決定のお知らせ。

 中学は流行り病のために修学旅行は無しになって、小学校以来の修学旅行。

『宇宙戦艦三笠』の収録も調整してもろて、前後合わせて一週間は天音(うちの役)は出んでええようにしてもろてる。

 大筋はフランス、イギリスの四泊五日……やねんけど、フランスでは暴動があったりして、ちょっとコースの見直しがやられてたんや。

「夏休み中には最終案出るって、先生言ってたよ」

「パソコンで見よ!」

 さっそく部屋に戻ってパソコンを点ける。こいうのは大きな画面で見た方がええ。

 学校のウェブサイトを開いてアクセスキーを打ち込む。

 ブタネコダミアが『遊んでくれぇ~』と寄って来るけど、邪険にベッドの上に放り上げて操作続行。

『在校生のみなさんへ』をクリックして、修学旅行のページへ。

 

 ええ!?

 

 二人とも、頭のてっぺんから声が出た!

 

 なんと、フランスは宿泊無しの一日だけで、パリを見物したあとはイギリスとヤマセンブルグに二日ずつになってた!

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら      この物語の主人公  聖真理愛女学院高校二年生
  • 酒井 歌        さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観       さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念       さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一       さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは)   さくらの従姉 聖真理愛学院大学三年生 ヤマセンブルグに留学中 妖精のバンシー、リャナンシーが友だち 愛称コットン
  • 酒井 美保       さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美       さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子       さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 愛称リッチ
  • ソフィー        ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍中尉
  • ソニー         ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
  • 月島さやか       中二~高一までさくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり)  さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 百武真鈴(田中真央)  高校生声優の生徒会長
  • 女王陛下        頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首
  • 江戸川アニメの関係者  宗武真(監督) 江原(作監) 武者走(脚本) 宮田(制作進行) 
  • 声優の人たち      花園あやめ 吉永百合子 小早川凜太郎  
  • さくらの周辺の人たち  ハンゼイのマスター(昴・あきら) 瑞穂(マスターの奥さん) 小鳥遊先生(2年3組の担任) 田中米子(米屋のお婆ちゃん) 瀬川(女性警官)
  •   

 

 

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RE・かの世界この世界:190『屋島の戦い・2・讃岐うどん』

2023-08-16 06:09:15 | 時かける少女

RE・

190『屋島の戦い・2・讃岐うどん』テル 

 

 


 高松の海と町を見下ろす丘からカツオ出汁のいい匂いがしてくる。

 讃岐うどんに違いない(^▽^)!

 匂いにつられて丘に上がって見ると、全国展開している讃岐うどんの出店が湯気を立てている。

 

 神代の時代に千年先の源平の合戦が見られることも不思議だが、我々の空腹に合わせて讃岐うどんの出店が現れるのは、もっと不思議だ。

「アメノミナカヌシ(天之御中主神)さまのご依頼で、時間限定で出店しています」

 なんだか懐かしい雰囲気の女性店長が、釜の火を調整しながら説明してくれる。

「アメノミナカヌシの神が!?」

 イザナギさんが感激して目を潤ませる。

「アメノミナカ……って?」

 ケイトが首をひねる。

「イザナギさんの前に出てきた神さまで、カオスの世界を天と地に分けた方だよ」

「あ、ケイトが出てくる前の……」

 そう言えば、この世界に放り込まれた時は、イザナギさんも出現していなくて、わたし一人だったな。

 ほんの少し前の事なのに、ひどく懐かしく感じる。

「たこ焼きもよかったが、この匂いは、いっそう食欲をかき立てるなあ」

「姫、よだれが」

「ああ、すまん」

 タングニョ-ストが差し出したハンカチでヴァルキリアの姫騎士がよだれを拭き終わると、女店長がバイト店員といっしょにトレーを運んでくる。

「はい、讃岐うどんの朝定食セットで~す(^O^)/」

 バイト店員も店長に負けない明るさでメニューを説明してくれる。

「ハイカラうどんとご飯、お味噌汁、生卵、ちくわの天ぷら、お新香、味付け海苔のセットになりま~す。ご飯は、おかわり自由ですから~(^▽^)/」

「この、ヌードルの上でクネクネしているものはなんですか?」

 タングニョーストが、ちょっと気味悪そうに聞く。

「鰹節です。讃岐うどんはカツオ出汁ですから、トドメのおいガツオってとこです」

「なんだか、かんなクズのような……」

「魚を干して削ったものだよ、試しに、それだけ食べてみ」

 勧めてやると、一つまみ口の中に入れるタングニョ-スト。

「……なんと豊かな香りと味わいだ!」

「「「「「いただきまーーす!」」」」」

 声を揃えて朝ごはんをいただく。

 

 眼下の陸と海では源氏と平家の軍勢がにらみ合っている。

 沖の方には、ようやく対岸からやってきた源氏の軍船も姿を現わして、陸の義経軍と挟撃の構えをとりつつある。

「平家の方には勝ち目はないのではないか?」

 真っ先に食べ終わったヒルデが身を乗り出す。

「うん、でも、このままでは終わらないと思う……」

 乏しい知識が、これでは終わらなかったと呟いている。

 

 あれ?

 

 ちょっとしたことに気が付いた。

 義経軍と源氏の船団は白、平家は赤のシンボルカラーの旗や幟(のぼり)をなびかせている。

 これに不思議はないんだけど、源平双方に、ネガとポジと言っていい扇が竿の先に掛けられているのに気が付いた。

 扇は一つではなく、海上では船ごとに、陸では一個小隊に一つという具合に数が多い。

 さらに、多くの将兵が、ヨロイの袖に同じ意匠の小布(こぎれ)を付けている。

「敵味方の識別のためだな……」

 さすがにヒルデは察しがいい。

 ヴァルキリアでは、甲冑も衣装も同じ意匠のものを使っている。いわば制服で、敵味方の識別は一発で出来る。

 ところが、日本の将兵は、個人個人の武装で、見た目には敵味方の区別がつきにくい。

 そこで、扇や袖印で区別をしているんだ。

 

 気を引かれたのは、その、両軍の扇だ。

 

 源氏は白地に赤丸。

 平家は赤地に白丸。

 

 実に分かりやすい。

 ええと……わたし自身、なにかこだわりがあったような気がするんだけど、すぐには思い出せない。

 なんだったんだろう……?

 思っているうちに、平家の軍船が一艘だけ進み出てきた。

「あの小舟はなんだ?」

 ヒルデも同じように興味を持った。

 舟には、漕ぎ手の他には装束を整えた女官が乗っていて、不安定な舟の上だとは思えないくらいに優雅に舞っている。

「「ほほう……」」

 ヒルデとイザナギさんが揃って腕を組んだ……。

 

☆ ステータス

 HP:10000 MP:400 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・1000 マップ:1000 金の針:1000 福袋 所持金:450000ギル(リボ払い残高0ギル)
 装備:剣士の装備レベル55(トールソード) 弓兵の装備レベル55(トールボウ)
 技: ブリュンヒルデ(ツイントルネード) ケイト(カイナティックアロー) テル(マジックサイト)
 白魔法: ケアル ケイト(ケアルラ) 空蝉の術 
 オーバードライブ: ブロンズスプラッシュ(テル) ブロンズヒール(ケイト)  思念爆弾

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

    テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
 ブリュンヒルデ     主神オーディンの娘の姫騎士
 タングリス       トール元帥の副官  ブリの世話係
 タングニョースト    トール元帥の副官  ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
 ポチ          シリンダーの幼体 82回目で1/12サイズの人形に擬態
 ペギー         異世界の万屋
 ユーリア        ヘルム島の少女
 ナフタリン       ユグドラシルのメッセンジャー族ラタトスクの生き残り
 その他         フギンとムニン(デミゴッドブルグのホテルのオーナー夫婦)

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

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銀河太平記・176『虎ノ門前派出所』

2023-08-15 11:03:56 | 小説4

・176

『虎ノ門前派出所』須磨宮心子内親王 

 

 

 扶桑の首都は扶桑府です。

 

 首都だから『都』と書かなきゃおかしんだけれど、扶桑の首都は『府』になっている。

 初代将軍の一仁さまが、建国にあたって『扶桑府』とされた。

 宗主国の日本に遠慮されたからだと言われているわ。

 日本の感覚だと『府』は『都』の格下という感覚でしょ。『都』は東京都が一つだけだけど『府』は大阪府と京都府の二つがある。法的には『都』『府』『県』は同等だけど、東京都民は潜在的に二つの『府』よりも偉いと思ってる。高等部の時、親友のチエが「お上りさんのふりしてタクシーに乗ってみよう(^▽^)/」言いだして、チエはお母さんの出身地である大阪弁で通すと運転手さんは得々と東京の自慢をして、可笑しかった。

 初代将軍の一仁さまも、正確な読み方は『もとひと』。

 皇族男子の名前は『〇仁』と書くのが普通で、読み方は訓読み。だから征夷大将軍にお成りになるにあたって重箱読みの『かずひと』に変えられた。つまり、もう皇族ではないというお気持ちがこめられている。

 扶桑府の整備に当っては、中央に『御城』を置いて、その周囲の地名は江戸の街に倣った。

 道隆さまに寮生活仲間を紹介されたのは、東京と同じく御城の北にある飛鳥山公園だったし(127『火星の春もたけなわ』)、お休みの日に遊びに行ったのは渋谷、原宿、秋葉原に浅草。浅草には本家の浅草ではとっくに無くなった奥山という歓楽街さえありました。ちなみに歌舞伎町は無いんです。本家の歌舞伎町は大東亜戦争後に生まれたものだから。

 つまり、扶桑府のモデルは、どちらかというと江戸なんですね。

 扶桑の人たちも、日ごろは扶桑府とは呼ばずにエドと呼ぶ人たちが多い。

 一つには、国名と首都名がいっしょなので扶桑ではややこしい。扶桑府と呼ぶと「府」一字が微妙に長いし。

 でしょ、東京の人は、日ごろ「東京都」とは呼ばないでしょ、「東京」で済ましてる。

 大阪も京都も同じよね。

 エドって言うのは、独立前の都市記号が「ED」だったことからきているって言われているわ。

 Eは、五番目に作られた街だから。Dは防衛機能に特化した街で、ディフェンスの頭文字からきているんだそうです。

 これほど江戸の街にあやかっているのに、一つだけ意識的に外された地名がある。

 

 虎ノ門

 

 御城そのものが桜田門が外縁で、その外側になる虎ノ門が存在していなくて、神谷町まで霞が関の地名が続いている。

 東京では三丁目までしかない霞が関は五丁目まで設定されていて「エドは東京の半分の規模だから」という言い訳と矛盾する。

「初代一仁さんが『虎ノ門』というのを忌避されたんです」

 道隆さまに聞くと、そうおっしゃった。

「あ……ひょっとして、虎の門事件ですか?」

 お聞きすると苦笑いされた。

 虎の門事件というのは、大正時代に、当時摂政宮とおっしゃった昭和天皇が狙撃された事件。

 幸い、摂政宮にお怪我はなかったけど、皇太子時代とはいえ天皇が襲撃されたのは、これが初めて。

 それを憚って『虎ノ門』という地名は使われなかった。

 

 それが、昨年、霞が関の官庁街を護るためにゲートが作られて『虎ノ門』と名前が付けられ、四丁目五丁目も虎ノ門の地名に変更された。

「まあ、虎の門事件では摂政宮殿下はご無事だったし、犯人を捕まえたのは、その場に居た市民の人たちだったし……まあ、いいでしょう(^_^;)」

 道隆さまは、いっそうの苦笑いで締めくくられた。

 

 わたしは、その虎ノ門前にできた虎ノ門前派出所に居ります。

 

「ココさん、巡回に行きますよ」

 わたしと同じ同心(日本の巡査)で、寮仲間でもあった穴山彦くん。

 彼も言わないし、わたしも聞かないけど、ヒコくんが交番勤務になったのは、わたしのガード役というか守り役。

 隠密課という書院番(将軍補佐官)としては異色なんだけど、それだけ、将来を期待された人。

「混住が始まって三か月、いろいろ出てくる時期だから、よく見ておいて。そして深入りしないようにね」

「「了解」」

 ボスの胡蝶さんに敬礼して、地域パトロールに出るココでした。

 

☆彡この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)   今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  • ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス

 

 

 

 

 

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RE・かの世界この世界:189『屋島の戦い・1・奇襲』

2023-08-15 06:22:16 | 時かける少女

RE・

189『屋島の戦い・1・奇襲』テル 

 

 

 

 義経軍は未明の高松の町に火を放ちつつ屋島へ殺到しようとしている。

 瀬戸内海の対岸、兵庫県の一ノ谷から逃れて四国の屋島に籠った平家は、海の方角だけを警戒していた。

 まさか、背中を向けていた高松の山手から攻めてくるとは思ってもいない。

 まして、昨夜来の嵐は、明け方になって、ようやく静まり始めたところだ。一ノ谷から船を出して追ってきたとしても、到着は昼過ぎになるだろうと平家は踏んでいる。

 それが、もう背中に匕首(あいくち)を突き刺す勢いで迫ってきているのだ。

 火を背景に迫って来る軍勢は、実際よりも多く見えるし、狂暴に感じる。

 一ノ谷でも、海を警戒していたら背後の鵯越(ひよどりごえ)の崖の上から襲い掛かられ、ほうほうの態で屋島に逃げてきたのだ。その大敗北の記憶が、火を背景に迫って来る軍勢をいっそう大きく凶暴に見せている。

「げ、源氏の軍勢だあ!」

 平家の軍勢は、ほとんど手向かいすることもなく、蟻のように海に逃れ、海に張り出した天然の要害・屋島は易々と義経の手に落ちた。

 

「鮮やかな勝ちっぷりだ!」

 

 ヒルデが大感激のあまり、ブルブルと身を震わせている。

 横目で、チラリと覗うと、突然の恋に落ちた少女のように頬を染め、目を潤ませている。

「姫以外に、あのような戦いができる武人がいたのですねえ、それも、こんな遥か極東の地に……」

 タングニョ-ストも信じられないという顔をして、ヒルデの後ろに控えている。

「義経をブァルキリアの戦士に、いや、一方の将軍に迎えたい!」

「わたしも同感です!」

 主従の意見が感動と共に一致して、学食のランチの列を目指す三年生のように地を蹴った。

「待って! あれは幻だから!」

「グ、幻!?」

 呼び止めると、つんのめりながら振り返り、止めたわたしを敵のように睨んでくる。

「あれはね、イザナギさんの国造りがうまくいけば、千年ほど先に見られる戦いなんだ。いわばPV、予告編だ」

「よ、予告編か」

「せめて、大将・義経の顔を拝みたいものですねえ」

 タングニョ-ストも歴戦の軍人らしく残念がる。

「義経てのは、反っ歯の小男で(^▽^)/……」

 ケイトがバラしそうになる。

「なにを、デタラメなことを(^_^;)」

「ちょ、なんで……フガフガ……」

 口を塞いでひっくり返してやる。

「なんで、そんなことを知って……」

「小学校のころ『マンガ日本の歴史』で……」

「そうか、でも、夢を壊すな!」

「う、うん」

「そうか、わたしが作ろうとしている国は、そういう英雄が大活躍する偉大な国なのだな……心してかからなければな」

 イザナギさんが神妙な顔になって、帯と太刀の緒を締め直して、キリリとした。  

 さすがに国生みの神、キリっとするとなかなかのもので、大河ドラマの主役のように見える。

 

 グウウウウウ

 

 と、思ったら、派手にお腹が鳴って、締めたばかりの帯と太刀の緒がずり下がって、ポッコリとお腹を出してしまう。

 ま、まあ、愛すべき神さまと理解しておこう(^_^;)。

「そう言えば、朝食もまだだった。このあたりは、讃岐うどんが美味しいはずだな……」

 日本神話の英雄は、再び帯と太刀の緒を揺すりあげると、彼方を窺いながら鼻をクンクンさせた。

 

☆ ステータス

 HP:10000 MP:400 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・1000 マップ:1000 金の針:1000 福袋 所持金:450000ギル(リボ払い残高0ギル)
 装備:剣士の装備レベル55(トールソード) 弓兵の装備レベル55(トールボウ)
 技: ブリュンヒルデ(ツイントルネード) ケイト(カイナティックアロー) テル(マジックサイト)
 白魔法: ケアル ケイト(ケアルラ) 空蝉の術 
 オーバードライブ: ブロンズスプラッシュ(テル) ブロンズヒール(ケイト)  思念爆弾

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

    テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
 ブリュンヒルデ     主神オーディンの娘の姫騎士
 タングリス       トール元帥の副官  ブリの世話係
 タングニョースト    トール元帥の副官  ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
 ポチ          シリンダーの幼体 82回目で1/12サイズの人形に擬態
 ペギー         異世界の万屋
 ユーリア        ヘルム島の少女
 ナフタリン       ユグドラシルのメッセンジャー族ラタトスクの生き残り
 その他         フギンとムニン(デミゴッドブルグのホテルのオーナー夫婦)

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

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滅鬼の刃・34『朝顔と西瓜・1』

2023-08-14 09:25:08 | エッセー

 エッセーラノベ    

34『朝顔と西瓜・1』   

 

 

「ほう、懐かしいなあ」

 

 声に振り返ると半玉のスイカをぶら下げた武者が立っています。

「せやけど、こんな北向きで育つんか?」

「昨日までは三階のベランダに置いたんだけどな、育ちすぎるんで移したんだ」

「なるほど、抑制栽培というわけか」

「まあな」

 栞が近所の小学生に分けてもらった朝顔の種を鉢に入れ、日の当たるベランダに置いていたらノンノンと育ちました。

 この調子では育ちすぎてしまうので、昨日から北側の玄関前に移したのです。

 北向きなので、もう花は開かないかと思ったのですが、まだ余力があるのか、キチンと咲いています。

「栞ちゃんのやろ?」

「ああ」

 付き合いの長い武者には、こういうことが似合わないジジイだと見抜かれています。

「昨日から、泊りがけでアルバイトに行ってるんで、ピンチヒッターだ」

「まあ、水と日当たりさえありゃ勝手に育つからなあ」

 

 今日は一階の元ガレージだった和室で喋ります。

 エアコンの電気代節約と、さっきの朝顔が見えるからです。

 

「子どもじみた花やけど、朝顔っていうのは、けっこう大人なんやなあ」

「ああ、大人だから、夏休みの自然観察にも使われる」

「そこへいくと、スイカいうのは、手のかかる子どもみたいなもんやろなあ……」

 ペペ

 ジジイ二人そろって種を吐き出します。

「わしらも朝顔みたいなもんやったなあ」

「ヒネた朝顔だ」

「教室いう植木鉢と、窓の日当たりさえあったら三年で卒業していった。あ、大橋は四年やったなあ」

「教室の日当たりが悪かったからなあ」

「ホームルームなんか、全部生徒でやってたなあ。学期の始めのホームルームでホームルーム計画話し合ったやろ」

「担任は横に座って聞いてるだけ」

「そうか、時どき口挟んでなかったか?」

「え、そうだったか?」

「グランドでバレーボールとかサッカーしたい言うたら使用許可とれよとか、音楽室借りてレコード鑑賞に決まりかけたら『音響機器は視聴覚部の許可』とか、お菓子買って来て茶話会言うたら『生活指導』と相談しとけとか」

「ああ、そういう意味か」

 武者は逆説めいた言い方をしているのだと気付きました。

「憶えてるか、社会のS先生、卒業式でクラスの生徒の名前読み間違えたの」

「あ、せやったか?」

「東(ひがし)って男子を(あづま)って読んじまって、横の先生に『そのまんまヒガシです』って注意されて」

「あはは、もう二十年後やったら大爆笑やったやろなあ」

「下の方の名前は、もう詰まりまくりで、さすがにヒンシュクものだった」

「ああ、せやったっけ」

「あ、ああ……すまん、講師時代の話だった」

 わたしは母校で三年間講師をしていたので、記憶がごっちゃになっています。

「て、いうか、S先生て担任したことあったんか?」

「え、ああ……」

 このあたりは武者の方が記憶が正確です。わたしは――有ったこと――は聞憶えていますが――無かったこと――については曖昧です。

 武者は在学した三年間でS先生が一度も担任していないことを憶えていたのです。武者は一二年上の先輩たちとも付き合いがあって、いろいろ情報を知っていたので、S先生が、ちょっと札付きであったことを生徒の頃から知っているようです。

 それから二三の先生を思い出しながら、半玉のスイカの半分を平らげました。

「ええ話もあったよなあ」

 先生の棚卸ばかりでは詰らないので方向を変えます。

「ええと……野球部が府大会で優勝した!」

「え、せやった?」

「応援賞で、一位とったぞ」

 高校野球というのは部活動に励みが出るようにと、優勝・準優勝の他にも各賞を用意しています。

 その中に応援賞というのがありました。

 特に応援団やチア部があるわけでもなく、吹奏楽さえ廃部状態だったので、有志の生徒たちが自主的にチームを作って応援したことが評価されて応援賞をもらったことがありました。

「ああ、三島由紀夫の事件があった年かぁ……」

 三島事件と重なったので、みんなの記憶から消えている……という、武者の気遣いなのですが、三島事件は11月。高校野球は7月でしたから、ハナから記憶にないのでしょう。

 

 武者を見送って振り返ると、朝顔はすでに萎んでいました。

 蕾が三つ四つあるので、まだまだ咲くでしょう。

 せめて、午後だけでもと心変わりして、三階のベランダに戻してやりました。

 明日の朝には一階に戻します。

 

 

☆彡 主な登場人物

  •  わたし        武者走走九郎 Or 大橋むつお
  •  栞          わたしの孫娘 
  •   武者走                   腐れ縁の友人

 

 

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RE・かの世界この世界:188『疾走! 屋島を目指せ!』

2023-08-14 05:50:37 | 時かける少女

RE・

188『疾走! 屋島を目指せ!』テル 

 

 

 嵐の中、義経軍を追うように西北西に進む。


 右手に見えるのは鈍色の海と空。

 ようやく背後から夜が明け始めているんだけど、今が盛りの嵐のために空と海の狭間も定かではなく、砕けた波しぶきが雨と混ざって五人とも濡れネズミ。

 身に着けた衣類も背中の背嚢も水を含んでグッショリと重くまとわりつく、しかし不快には思わない。

 小学校の水泳でやった着衣泳、服を着たままプールに入るのが新鮮で、高揚したのを思い出す。

 ムヘンでの冒険にも高揚感はあったけど、それとは違う。

 異世界とはいえ、ここは日本だ。

 自分の国の風土の中で冒険するというのは格別……思うけれどもしまい込む。

 一刻も早く、瀬戸内海を渡って本州の土を踏み黄泉の国を目指さなければならない。イザナミを連れ戻してイザナギとの国生みを完遂させなければ、この物語は破綻……いや、消滅してしまうかもしれない。

「嵐が収まったのか、対岸が見えるぞ」

 ヴァルキリアの姫騎士には戦の嗅覚がるのだろう、疾走しながらも周囲の景色や状況が冷静に見られているようだ。

「あれは小豆島です。後にミカンの名産地になります」

 イザナギが横顔のまま教えてくれる。

「ミカン……オレンジのことですか?」

「はい、オレンジよりも小振りですが、味がいい」

「オレンジ以外にも懐かしい香りが……」

 タングニョ-ストも、疾駆しながら余裕の観察。

「オリーブの栽培でも有名になります」

「美しい海だ。名前はなんと?」

「瀬戸の海、つづめて瀬戸内海とも言います」

「うん、やさしい響きだ」

「船に乗って嫁ぐ花嫁と島の分教場が似合う海よ」

 自分で言って感動。

『瀬戸の花嫁』と『二十四の瞳』

『瀬戸の花嫁』は曽祖母ちゃんのオハコ、『二十四の瞳』は曽祖父ちゃんの好きな映画だった。

「中国の役人が初めて瀬戸内海を通った時に『日本にも大きな川があるではないですか』と褒めたことがあります」

「川だと?」

「晴れていれば、真ん中を通っても両岸が見えます。大陸の感覚では黄河とか長江なんでしょうね」

「フフ、大きければいいというものでもないだろうに」

「あれは、なんですか?」

 タングニョーストが、島に広がる緑の縞模様を指さした。

「中国の役人も同じことを聞きました。同行した日本の役人がデッキから指さして『段々畑です』。島の農民が撫でるようにして段々畑を営んでいることが、役人には嬉しい。誇るべき勤労の成果なんですね」

「それは分かる、ブァルキリアの北欧でも、僅かな平坦地でも利用して畑を作っているからな」

「中国の役人は、こう記録しました『耕して天に至る』」

「大げさだなあ」

「続きがあります」

「「続き?」」

 ヒルデとタングリスの声が揃う。

「『貧なるかな』、『耕して天に至る、貧なるかな』と。島々の山の頂まで耕さなければならないのは、国が貧しいからだと憐れむんですね」

「失礼な役人ですね!」

「フフ、面白い話だ」

 タングニョーストは憤慨し、ヒルデは面白がる。イザナギが時空を超えて日本のあれこれを知っているのも床しいことだけど、ケイトは話に付いていけない。

「なんだか授業を受けているみたいだ(^_^;)」

 わたしは、こういう会話が懐かしい。

 いつか冴子と、こんな感じで話ができる日々が戻れば……思った頃に高松の町が臨める峠に着いた。

 
 え!?

 

 眼下に見える高松の家々から火の手が上がり、数十秒で町全体を呑み込むような炎と煙になった。

「フフフ……義経というやつ、なかなか面白いことをやる……」

 ヒルデが、同類を見つけたように笑った。

 

 

☆ ステータス

 HP:10000 MP:400 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・1000 マップ:1000 金の針:1000 福袋 所持金:450000ギル(リボ払い残高0ギル)
 装備:剣士の装備レベル55(トールソード) 弓兵の装備レベル55(トールボウ)
 技: ブリュンヒルデ(ツイントルネード) ケイト(カイナティックアロー) テル(マジックサイト)
 白魔法: ケアル ケイト(ケアルラ) 空蝉の術 
 オーバードライブ: ブロンズスプラッシュ(テル) ブロンズヒール(ケイト)  思念爆弾

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

    テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
 ブリュンヒルデ     主神オーディンの娘の姫騎士
 タングリス       トール元帥の副官  ブリの世話係
 タングニョースト    トール元帥の副官  ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
 ポチ          シリンダーの幼体 82回目で1/12サイズの人形に擬態
 ペギー         異世界の万屋
 ユーリア        ヘルム島の少女
 ナフタリン       ユグドラシルのメッセンジャー族ラタトスクの生き残り
 その他         フギンとムニン(デミゴッドブルグのホテルのオーナー夫婦)

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

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くノ一その一今のうち・70『まあやはマッタリ日常系が好きなんだけど』

2023-08-13 09:56:01 | 小説3

くノ一その一今のうち

70『まあやはマッタリ日常系が好きなんだけど』そのいち 

 

 

 日本人をバカにしてんのか!?

 

 十日ぶりの撮影所、台本を読んでムカついた。

 歴史活劇ドラマ『吠えよ剣』は、甲州の回を終わって江戸に戻ってきている。

 幕府も遅まきながらも、勝海舟を実質的な総裁にして陸軍を創設した。

 その幕府陸軍の教官として多数の教官がフランスから送られてくるんだけども、その一人がミッヒ。

 ミッヒはジョルジュっていうフランス軍少尉の役。

「なんで、ドイツ人がフランスの軍人やってんのよ!?」

「フランスとドイツは地続きなんだぜ、国境付近は歴史的にもドイツになったりフランスになったりってところがあって、不思議じゃないよ」

「だって、ジョルジュって完ぺきフランス人の名前でしょうが」

「ドイツ語読みならゲオルグだよ」

「ああ、そう」

 ドン

 自販機のカフェオレのスイッチを乱暴に叩く。

 ゴロン、ピピピピピピ……ピ……パンパカパーン!

「あ、当たった!」

 自販機のルーレットが当たりになって、二つ目のカフェオレをゲット。

 

「あら、二人とも仲良しになったのね(^▽^)」

 

 まあやが次の撮影に備えて移動してきた。

「あ、ごめん、遅くなって。て、こいつとは仲良しじゃないから」

「そーお、先週は、仕事以外口もきいてなかったのに」

「え、あ、そうだっけ?」

「おはようございます、まあやさん」

「ボンジュール」

「あ、こいつドイツ人だし」

「役はフランス人でしょ、雰囲気よ雰囲気。三十分後、衣装合わせだから、よろしくね」

「うん、これ飲んだら行く」

 一人で次のスタジオに向かうまあや。

「ミッヒ、あんた、わたしとは口きかなかったの?」

「あ、だって、社長や嫁持ちさんが化けたソノッチだっただろう」

「え、分かってたの?」

 二人とも細胞レベルの変身名人だから、めったにバレることはないんだけど。

「そういうのを見抜くのが、僕の特技であったりするわけだよ」

 こいつの、ランツクネヒトとしての力は奥が深いようだ……。

 

 ドラマは、幕府陸軍の教官としてやってきたジョルジュ少尉が千葉道場に通って北辰一刀流を勉強するという設定になっている。

 

 衣装合わせの後、道場での稽古風景。

 10人5組で、打ち合い稽古。その後は門下生みんなでご飯をいただくシーン。

「日本のごはん、どれも美味しいけど、これは慣れませ~~ん」

 と納豆をかき混ぜるジョルジュ。

「あら、こないだはくさやの干物に打ち勝ったのに?」

「ジョルジュ、納豆を食べんと北辰一刀流の精神は理解できんぜよ」

 龍馬に意地悪を言われるジョルジュ。

「それなら、ムッシュ龍馬もエスカルゴを食べるべきだぞ(,,>∀<,,)!」

「でんでん虫は食いもんじゃなかろうがあ」

「納豆も食いもんじゃないよ、ムッシュ!」

「なにを言う、納豆は大豆だ、仏蘭西でも納豆はたべるじゃろうがあ!」

「じゃ、今度はエスカルゴの納豆和えを作ります」

「「それは勘弁!」」

 さな子の提案に日仏の剣術使いが音を上げて、一発でOKが出る。

 

「来週分、一部差し換えになります」

 

 監督が、新しい台本の束を置いた。

「あらら、江戸城の回が最初にくるのね」

 まあやが、ちょっと残念そう。

 しばらくは千葉道場のシーンが続いて、いまみたいな『千葉道場の日常』的なやり取りが続くことになっていたから。

 まあやは、ドラマでもリアルでも、みんなで仲良くマッタリというのが好きなんだ。

 わたしも、台本を繰ってみて気が付いた。

 ミッヒとわたしの出番が、しばらく無い。

 

 ひょっとして、また裏の仕事……それも、ミッヒといっしょだったりするぅ(;'∀')?

 

 気配に顔を上げると、脚本の三村紘一がニヤニヤ笑ってる。

 言うまでもなく、三村紘一は徳川物産の課長代理服部半三の仮の姿で、徳川忍者団のフィクサーなんだ。

「あら、わたしの出番も……」

 まあやもビックリした。

 なんか、いやな予感しかしないよ(-_-;)。

 

☆彡 主な登場人物

  • 風間 その        高校三年生 世襲名・そのいち
  • 風間 その子       風間そのの祖母(下忍)
  • 百地三太夫        百地芸能事務所社長(上忍) 社員=力持ち・嫁持ち・金持ち
  • 鈴木 まあや       アイドル女優 豊臣家の末裔鈴木家の姫
  • 忍冬堂          百地と関係の深い古本屋 おやじとおばちゃん
  • 徳川社長         徳川物産社長 等々力百人同心頭の末裔
  • 服部課長代理       服部半三(中忍) 脚本家・三村紘一
  • 十五代目猿飛佐助     もう一つの豊臣家末裔、木下家に仕える忍者
  • 多田さん         照明技師で猿飛佐助の手下
  • 杵間さん         帝国キネマ撮影所所長
  • えいちゃん        長瀬映子 帝国キネマでの付き人兼助手
  • 豊臣秀長         豊国神社に祀られている秀吉の弟
  • ミッヒ(ミヒャエル)   ドイツのランツクネヒト(傭兵)
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RE・かの世界この世界:187『大毛島 義経軍の幻と共に』

2023-08-13 06:16:49 | 時かける少女

RE・

187『大毛島 義経軍の幻と共に』テル 

 

 

 二キロ足らずの鳴門海峡を全力疾走で渡った。

 

 対岸の大毛島の砂浜に立って振り返ると、狭い海峡にはいくつも渦が巻いている。

「ここを走ってきたんですね……」

 歴戦の下士官であるタングニョーストも背嚢を揺すりあげて感心した。

 カサリ

「背嚢のタングリスも感心してるよ」

 骨と皮だけになったタングリスと、それを背負っているタングニョーストを気味悪がったケイトだけども、共に海峡を走破するという偉業をなし終えて、骨のこすれる音にも懐かしさを感じている(^_^;)。

「タングリスがもうちょっと復活して肉が付いていたら渡れないところでした」

「タングニョースト」

「なんだい、テル?」

「わたしにも、戦友の温もりを感じさせてはくれないか」

「テルが?」

「うん、四号に乗ってムヘンの血を乗り切れたのは、いつも隣にタングリスが居たからなんだ。最初は、タングリスが操縦手で、砲手のわたしは、いつもタングリスの背中を見て戦った。ノルデン鉄橋でタングニョ-ストが転属してからは、車長席で、それこそわたしの背中に居た。それを少し偲べればと思ってね」

「そうか、それなら戦友も喜んでくれるだろう……」

 背中を向けて触らせてはくれる。少し持ち上げて見ると、少し復活したのかズシリと重い。

「わたしにも!」

「ああ、優しく、そっとな」

「おい、あれは!?」

 ヒルデが岩を挟んだ隣の砂浜を指した。

 イザナギが軽々と岩に登って様子を窺う。

「あれは義経の軍勢です。浜に乗り上げて、馬と兵を下ろしています」

「時空が錯綜している、義経がここに来るのは千年先のことだよ」

 歴史オンチのわたしでも、それくらいの事は知っている。

「話題にしていたのは我々です、呼び寄せてしまったようですね」

 目の前の浜で隊列を整えているのは幻だ。

 幻だけれど、まんまと平家の裏をかいた義経は一の谷に次いで奇襲に成功し、平家を壇ノ浦に追い詰める。

 これから、黄泉の国を目指してイザナミを取り返そうとする我々の心を大いに鼓舞してくれる。

 

 いざ、進め!

 

 紫裾濃(むらさきすそご)という、紫系のグラディエーションがオシャレな大鎧、その袖を翻して進撃の檄を飛ばす義経。

 ピカッ ゴロゴロッ!!

 折から起こった雷光が、兜の鍬形を煌めかせる。

 

 オオ!!

 

 雷鳴に和して、総勢百あまりの軍勢が北西に進路を取って駆け出した。

「威勢はいいが、100ほどの中隊規模でしかないぞ。テル、平家の軍勢は何人ほどだ?」

「ええと……」

 さすがに、高校生の知識では、そこまでは分からない。

「二万近くがいるはずです」

「分かるんですか、イザナギさん?」

「源氏も平家も、わたしの裔の者たちですからね、ああやって幻でも現れると分かるようです」

 そうだ、源氏は桓武天皇の、平家は清和天皇の子孫だ。

「さあ、我々も出発しようか」

 ヒルデが拳を上げて、我々五人の黄泉遠征軍も腰を上げる。

「タングニョ-スト、高松までの前方を偵察してくれないか」

「承知した! しばらくタングリスを頼んだぞ」

 身軽になったタングニョ-ストに、歴戦の下士官に相応しい役割を与える。

 ヒルデが寄り添ってきて、そっと呟くように言った。

「よく、言ってくれた。ただ、交代しようと言うだけでは背嚢を渡さんかったよ、タングニョーストは」

「あ、いや……(^_^;)」

 さすがはヴァルキリアの姫騎士、全て読まれている。


 我々は、義経軍の後を追うようにして高松を目指した。

 

☆ ステータス

 HP:10000 MP:400 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・1000 マップ:1000 金の針:1000 福袋 所持金:450000ギル(リボ払い残高0ギル)
 装備:剣士の装備レベル55(トールソード) 弓兵の装備レベル55(トールボウ)
 技: ブリュンヒルデ(ツイントルネード) ケイト(カイナティックアロー) テル(マジックサイト)
 白魔法: ケアル ケイト(ケアルラ) 空蝉の術 
 オーバードライブ: ブロンズスプラッシュ(テル) ブロンズヒール(ケイト)  思念爆弾

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

    テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
 ブリュンヒルデ     主神オーディンの娘の姫騎士
 タングリス       トール元帥の副官  ブリの世話係
 タングニョースト    トール元帥の副官  ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
 ポチ          シリンダーの幼体 82回目で1/12サイズの人形に擬態
 ペギー         異世界の万屋
 ユーリア        ヘルム島の少女
 ナフタリン       ユグドラシルのメッセンジャー族ラタトスクの生き残り
 その他         フギンとムニン(デミゴッドブルグのホテルのオーナー夫婦)

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

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鳴かぬなら 信長転生記 137『信長版西遊記・玉門関・2』

2023-08-12 10:03:14 | ノベル2

ら 信長転生記

137『信長版西遊記・玉門関・2信長 

 

 

 大手門の前に着くと、市の猪八戒が腕組みして高札を睨んでいる。

 

「どうした八戒、玉門関の由来でも書いてあるのかウキ」

「違うブヒ『僧侶及び僧侶を伴う旅行者は入城後南曲輪で待機すべし』と触書が出てるブヒ」

「もう、情報が洩れてるんじゃないかッパ?」

「それで、怪しい旅行者は取り調べてるとか思うのかウキ?」

 ちょっと違うんじゃないかと思ったが『玉門関』の名前でおちょくったばかりなので、穏やかに聞いてやる。

「しかし、取り調べのためなら、城外でやるッパ」

 思い出した。酉盃に潜入するときも城門の前に列を作らされ、チェックの済んだ者だけ城内に入れていた。

 俺は、早くから楽市楽座にして、関所などサッサと廃止していたから、市も疎いんだ。茶姫は取り締まる側だったから直ぐに見当がつくようだ。

「南曲輪というのも、一般的には行政エリアだ、そうそう不穏なことは無いと思うッパ」

「そうだな、取りあえず入城するウキ」

 俺たちの他にも旅の坊主がチラホラいて、見かけで僧侶だと分かると、そのまま入城させてくれる。それ以外の旅行者は酉盃同様に根掘り葉掘り聞かれ、積荷も検められている。

「あ、眩しいブヒ!」

 商人の積荷が開かれてキラキラしている。

「あれが、玉門関の由来だッパ」

「宝石ブヒ?」

「ああ、西域からの輸入品には宝石貴石、高級ガラス製品が多いんだ。そういうものをまとめて玉という。その玉が入って来る関だから玉門関だッパ」

「なんだ、そうなのかブヒ(^_^;)」

 楼門を潜ろうとすると、ひげを蓄えた偉そうな役人がガシャガシャと音をさせながらやってきた。

「あの甲冑は玉門都尉、関門司令だ。なにかあったなッパ?」

 そのまま入城してもよかったんだが、玉門都尉は今川義元の来襲を報告した物見のように緊張した顔をしているので、思わず振り返った。

 

「間もなく黄風大王がやってくる! 通関は省略! 荷が軽く足の速い者は自儘に逃げよ! 逃げる方向は自由! 西は避けよ、黄風大王は西からやって来る! 自信の無い者は城内に入れ! ただし、城内とて安全は保障の限りではない。全て自己責任、この瞬間に判断し行動せよ!」

 え!?

 周囲の者たちが一斉に息を呑む。

 数秒騒めいた後、半分ほどは馬に鞭を当て南北に逃げ、残りの者が城内に入って行く。

「御坊、御坊には申し訳ないが、南曲輪に急いでくれ」

「南曲輪で、なにをするんだ、ウキ?」

「悪鬼退散、妖魔調伏、敵国降伏、満願成就、家内安全……そういう祈祷をしていただく。御坊らで、ちょうど百人目、お願い申す!」

 そう言うと、あちこち指示を飛ばしながら本丸の方に走って行った。

 ギーーーガチャン!

 背後で門が閉じられ、成りたて西遊記の俺たちは、さっそく災厄に巻き込まれてしまった。

 

☆彡 主な登場人物

  • 織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生  ニイ(三国志での偽名)
  • 熱田 敦子(熱田大神) あっちゃん 信長担当の尾張の神さま
  • 織田 市        信長の妹  シイ(三国志での偽名)
  • 平手 美姫       信長のクラス担任
  • 武田 信玄       同級生
  • 上杉 謙信       同級生
  • 古田 織部       茶華道部の眼鏡っ子  越後屋(三国志での偽名)
  • 宮本 武蔵       孤高の剣聖
  • 二宮 忠八       市の友だち 紙飛行機の神さま
  • 雑賀 孫一       クラスメート
  • 松平 元康       クラスメート 後の徳川家康
  • リュドミラ       旧ソ連の女狙撃手 リュドミラ・ミハイロヴナ・パヴリィチェンコ  劉度(三国志での偽名)
  • 今川 義元       学院生徒会長
  • 坂本 乙女       学園生徒会長
  • 曹茶姫         魏の女将軍 部下(備忘録 検品長) 曹操・曹素の妹
  • 諸葛茶孔明       漢の軍師兼丞相
  • 大橋紅茶妃       呉の孫策妃 コウちゃん
  • 孫権          呉王孫策の弟 大橋の義弟
  • 天照大神        御山の御祭神  弟に素戔嗚  部下に思金神(オモイカネノカミ)
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RE・かの世界この世界:186『淡路島阿那賀岬に立つ』

2023-08-12 06:31:40 | 時かける少女

RE・

186『淡路島阿那賀岬に立つ』テル 

 

 

 

 淡路島の南岸を歩いて西の端に出た。

 

 海を挟んだ四国との間には、幅四キロほどの海が横たわっている。

「ちょっとあるなあ……」

 ケイトが独り言めいてこぼす。

 ケイトの優しさなのだ。

 タングニョーストは背中にタングリス(骨と皮だけど)を背負い、命からがら向こうの世界から来たばかりだ。水分補給とたこ焼きで人心地ついたとはいえ、実質は敗残兵の逃避行。ちょっときびしい。

 我々は、オノコロジマから淡路島までは海の上を走ってきた。

 右足を出したら、その右足が沈まないうちに左足を出し、出した左足が沈まないうちに右足を出して進むという、超人的な技で走ってきたのだ。

 顔にこそ出さないが、けっこうキツイ。

 加わったばかりのタングニョーストはキツイどころの話ではないだろうし、たとえ思っていても、言い出しにくいだろう。イケイケのヒルデは気が付きもしないし、自分が言わなければと思ったのだろう。ちょっと成長したかな。

「海岸沿いに北に進むと阿那賀岬というのがあります。そこからなら半分の距離。行ってみましょう」

 さすが、国生みのイザナギノミコトだ、まだできたばかりの国土を名前ごと掌握している。

 スマホもろくに使えない、この世界。高校二年生の地理的知識は小学生と変わりない。東京近辺ならともかく、関西の地形や地名には、ひどく疎い。

「ミサキとはなんですか?」

 タングニョーストが素朴な質問をする。

「ええと……」

 素朴すぎてイザナギは返答に困る。

「英語ではCAPEだね」

 たまたま憶えていたので答える。

「うん、そうなんですが、最初だから、もうちょっと突っ込んで説明します」

 イザナギは、異世界からやってきた下級将校に出来のいい転校生に対するように接する。

「海に突き出た陸地の事でね、大きいのを半島といいます」

「ああ、半島なら分かります」

「その小さいのを岬と呼ぶんだけど、もともとの意味は陸地の先っぽを表わす『先(さき)』でしかありません。その上の『み』は、尊敬の意味の『御』の字がくっついたものです」

「地形を尊敬するのですか!?」

「はい、海を行くときに目印になるのが岬なんですよ。岬を見て『目的の港が近い』とか『もう少しで目的地』だとか分かるでしょ。だからね、日本人は岬そのものを神さまのように感じて、岬の前を通過する時にはお酒を供えて手を合わせたりするんです」

「そうなのか!?」

 今度はヒルデが感動した。

「岬の周辺は岩礁ばかりで遭難することが多いので、我々の世界では悪魔が住んでいるというぞ」

「それは……そちらの世界の人たちが冒険心に富んでいるからでしょう。日本人は、そういう点では少し大人しいのかもしれません」

「冒険心も度が過ぎると、わたしのように勘当されたりもするがな」

 アハハハ……神さま同士の労りなのだろうけど、少しばかりヒルデの傷を見たような気がした。

 

「おお、これなら距離は半分以下だ!」

「はい、これならなんとか!」

 

 阿那賀岬の先に立って、ヒルデもタングニョーストも頷いた。

「のちの時代、源義経が四国に逃げた平家を追って海を渡ったところでもあるんです」

 イザナギがものを投げるような仕草をすると、阿那賀岬の前を五隻の船で海峡を渡る義経軍の姿が浮かんだ。

「それって、屋島の戦いですか?」

 乏しい日本史の知識と結びついた。

「ええ、一の谷の戦いで海に追い落とされた平家は、高松の屋島に陣地を布いて、海から攻めてくる源氏に備えるんですが、義経は裏をかいて、ここから阿波の国に渡って陸地から平家を攻めるんです」

「なるほど……」

 ヒルデはタングニョーストと説明を聞きながら砂浜におおよその地図を描いて納得している。

 さすがはヴァルキリアの姫騎士ではある。

 わたしも、参加してみたい気分になって、乏しい知識を喋ってしまう。

「二十世紀の終わりには、橋が掛けられてね、とっても便利になるんだよ」

「ああ、本四架橋!」

 ケイトが嬉しそうに同調してくれる。

「え! ここに橋を架けるのか!?」

「うん、神戸から淡路島へも橋が掛けられて、本州と四国は船を使わなくても行き来できるようになる」

「それは……」

「なんか、つまらんなあ」

 どうも、神さまと人間では感覚が違うようだ。

 
 我々は、タングニョ-ストの荷物や装備を分けて持ち、右! 左! と、気合いを入れて海の上を走って対岸の讃岐に渡ったのだった。

 

☆ ステータス

 HP:10000 MP:400 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・1000 マップ:1000 金の針:1000 福袋 所持金:450000ギル(リボ払い残高0ギル)
 装備:剣士の装備レベル55(トールソード) 弓兵の装備レベル55(トールボウ)
 技: ブリュンヒルデ(ツイントルネード) ケイト(カイナティックアロー) テル(マジックサイト)
 白魔法: ケアル ケイト(ケアルラ) 空蝉の術 
 オーバードライブ: ブロンズスプラッシュ(テル) ブロンズヒール(ケイト)  思念爆弾

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

    テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
 ブリュンヒルデ     主神オーディンの娘の姫騎士
 タングリス       トール元帥の副官  ブリの世話係
 タングニョースト    トール元帥の副官  ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
 ポチ          シリンダーの幼体 82回目で1/12サイズの人形に擬態
 ペギー         異世界の万屋
 ユーリア        ヘルム島の少女
 ナフタリン       ユグドラシルのメッセンジャー族ラタトスクの生き残り
 その他         フギンとムニン(デミゴッドブルグのホテルのオーナー夫婦)

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
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やくもあやかし物語・2・002『やくもの旅立ち』

2023-08-11 10:27:44 | カントリーロード

くもやかし物語・2(『やくもあやかし物語』続編『せやさかい』姉妹作品)

002『やくもの旅立ち』 

 

 

 

 流行り病は世界中の予定を狂わせてしまった。

 

 わたしもヤマセンブルグの王立民俗学学校に入ることになっていたんだけど、入学は夏の盛りになってしまった。

「かえって、やきもきさせてしまったね。申し訳ない」

 この春に、よその中学の校長になった教頭先生は、わざわざ羽田まで見送りに来てくださった。

「わざわざのお見送り、ありがとうございます(-_-;)」

 付き添いのお母さんはペコペコお化けになってしまった。

「いえいえ、ヤマセンブルグを紹介したのはわたしですから、見送りは当然です。王立学校ですからなにも心配することはありません。ちゃんと高卒の資格もとれますし、そのまま進めば大卒にもなれます」

「はい、奨学金もお手配いただいて、ほんとうにお礼の申し上げようもありません」

「将来は、日本とヤマセンブルグの懸け橋になるような人材に……というのが大きな狙いだそうですが、まあ、お国柄からいってもノビノビ過ごせると思いますよ。総裁はヨリコ王女殿下、日本人とのハーフで、高校までは日本で過ごされました。やくもさん、しっかり勉強もしなきゃならないでしょうが、しっかり楽しんでもください。楽しければ身につくことも二倍三倍になりますよ」

「はい!」

 

 お母さんのヤキモキと教頭先生のウキウキに見送られて、ロンドン経由ヤマセンブルグ行の飛行機に乗った。

 

 エコノミーだと覚悟していたんだけど、ビジネスクラスの席でラッキーだった。

 ビジネスクラスは、微妙にハイソ。

 時おり聞こえてくる乗客やCAさんの会話、ぜんぶ意味が分かる。みんな国際語の英語を喋ってる。

 飛行機に乗るのは、じつは初めて。

 あやかしと付き合っていたころは、ハートの飛翔体なんかに乗って空を飛んだんだけど、飛行機はべつものだよ。

 いっぱい人が乗ってるしね。

 無意識にポケットをまさぐる。

 ハンカチに隠れてお守りの感触。

 神田明神のお守り。病魔やら業魔やらにやられて青息吐息の将門さんにもらって、正直効くのかなあと思ってたけど(なんせ、将門さんじたいわたしに業魔退治を頼んでたからね)、あれから事故にも遭ってないし病気もしてないし、やっぱ効き目はある……と信じる(^_^;)。

 お財布の中にはお地蔵のお守り石。いったんは返したんだけど、もう一回借りてきた。

 前と違って、お地蔵さんはうんともすんとも言わない。でも、お守りはお守りだからね。

 それと、手荷物の中に、もう一つ。

 黒電話が入ってる。

 長年、うちの物置の中で眠ってたのをフィギュアの感覚で机の上に置いていた。

 電話の中には、むかし樺太で電話交換手をやっていたおねえさんが入っていて、あやかしからの伝言やら取次をしてくれた。

 いまは神保城の仕事が忙しくて、メイド王のもとで逓信大臣とかえらい役職に就いている。

 まあ、電話がかかって来ても、能力を失ったわたしは、交換手さんの声も聞こえないんだろうけど。

 でも、これもお守り。

 水平飛行になると、とたんに手持無沙汰。

 むかしだったら、チカコがチョッカイを出してくる。

 むろん、チカコも居ない。

 もし、出てきても『チカコ』なんて気やすくは呼べない。

 チカコの正体は徳川十四代将軍家茂さんの奥さんの和宮親子内親王だった。

 正しくは、和宮の左手。

 彼女は、将軍に嫁ぐ途中、板橋の縁切り榎の傍を通り――自由に生きたい――という気持ちを左手に籠めて、左手のスピリットを預けてきたんだ。

 むろん、物理的な左手は消えてはないんだけど、スピリットが無いから写真には写らない。改葬のためお墓を開けた時も和宮の左手首の骨は消えていたしね。

 で、「自由に生きたい!」って気持ちのかたまりだったから、めちゃくちゃ生意気でわがままだったよ(^_^;)

 そのチカコも、家茂さんが150年の月日のあとに迎えに来てくれて、夫婦円満になって、わたしのもとを去って行った。

 他にも六条御息所とか俊徳丸さんとか、他にもいろいろお世話になったあやかしたち。

 もう、とっくに、そういうあやかしたちは見えなくなってしまって、心の整理もついていたと思ったのに。

 飛行機が、どんどん日本から離れていくと、ふかくにも涙が滲んでくる。

 

 カッコ悪いんで、モニターで映画を観る。

 

 評判の良くなかったアメリカのアニメ映画をやっている。

 言語はいくつもあって、最初は日本語、ちょっとしてから英語に切り替える。

 両方分かる。このバイリンガルはありがたい。この能力が無ければ、ヤマセンブルグ行きは決心できなかったよ。

 他にも言語があるので切り替えてみる。

 ドイツ語、フランス語、スペイン語、イタリア語、中国語…………え…………ええ!?

 全部分かるんですけど!

 ドリンクのオーダーを取りにきたアジア系のCAさんにジュースを注文。「まあ、きれいな韓国語をお話になりますねぇ」と喜ばれてしまった( ゚Д゚)。

 

☆彡主な登場人物 

  • やくも       斎藤やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生

 

 

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