『哲学者のランプ』
テーブルの脚に絡みつき蛇のようにくねくねした火のついたロウソク、そして長く伸びた男の鼻先がパイプに入っている、そのパイプを吸っている(銜えている)こちらを向いた男。
奇怪な絵である。
パイプの絵を描いて「これはパイプではない」とメッセージを残し「第一これでタバコが吸えますか」といったマグリットは、虚実・イメージとは何かを追及し、伝達・媒介の意味を世界を拡げ論破している。
神(聖書)によって、最も狡猾とされた蛇、木の実が善悪を知る者となると教えた蛇は、神によって呪われ腹で這いあるき、一生ちりを食べるであろうと宣告される。
この対峙、この問いかけが起こした波紋によって、一生逃れられない自問自答を繰り返さざるを得ないマグリットは、蛇が女に言った言葉で受けた神からの罰に思い至る。
しかし、マグリットは蛇であるはずもなく、彼自身の意思をもって真理の扉を開けたのである。
バックは漆黒の闇、混沌の中で真理は確かに存在するが、蛇の灯りで見えることはない。
マグリットの自負はパイプをもって始まり、その証明のために自問自答に心血を注いでいる。つまり、『哲学者のランプ』は、自身の思考であり、掲げた指標は自身の中で巡り続けている。
(写真は国立新美術館『マグリット』展・図録より)
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