『天の筋肉』
切り紙細工のように切られた天(暗雲垂れこめた不穏な空気層)の末端が床面に生き物のごとく立ち降りている。地上は漆黒の闇であり、床面と思われる領域だけに光が差している。その床面は浮いているのか、固定されているのかは不明である。
筋肉は主にタンパク質から生成されているが、天(空気層)にタンパク質があるとは考えにくい。もちろん比喩であるが、質的変換を図った構想は何を表明しているのだろう。
あけがた近くの苹果の匂が/透明な紐になって流れて来る(青森挽歌より)
物質全部を電子に帰し/電子を真空異相といへば/いまとすこしもかはらない(五輪峠より)
「青空の脚」といふもの/ふと過ぎたり/かなしからずや 青空の脚(「歌稿」より) 〔宮沢賢治全集/ちくま文庫より〕
賢治の考えに酷似した世界観。たとえば不特定な流動体を不特定な平面に質的変換を試みる。
筋肉は運動神経(脳)が動かすもので、天(自然)に精神の働きを認めることは不可であるが、形態は類似から機能をイメージし、あたかも伸縮自在な筋肉を想起させることも可能である。
天という気体(気圏)は、形を切断・二次元に固定されることな絶対あり得ない。断じてあり得ないものを、あり得る形に固定して見せるという反逆。
マグリットは存在そのものの反逆を試行している。存在と不在、見えることと見えないことの明らかな亀裂を精神界のエネルギーを駆使して接合し、世界の本質を問うている。
(写真は『マグリット』西村書店刊より)
最新の画像[もっと見る]
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます