中川典子さんの講演会
「木に生きる」~現代の銘木師を目指す~と題して銘木師、中川典子さんの講演会が7月9日(土)午後4時から神戸酒心館ホールで開かれた。「安倍元首相が昨日、亡くなられました。本日、神戸酒心館の安福会長にご縁をいただき、第130回目「酒蔵文化道場」での講演会に立っています。もし今回の事件の容疑者が文化という世界に少しでも気持ちを寄せる人であればと思うと残念です。」と話をはじめた。
「ご縁と言えば、平成7年の阪神淡路大震災のあと酒心館ホール建設工事に、大学を出て、自身初めての仕事として参加したときのことが蘇って来て、懐かしく思い出されます」と話を続けた。
「木のある暮らし、それは自然を取り入れた空間です。日本における本格的な「木の目利き」の歴史は室町時代からはじまります。茶室、社寺建築など日本建築と呼ばれる木造建築は、世界にない日本独自の高度な木材製材技術、誂える意匠建築、そして木の文化を作ってきました。銘木屋という職業は木の国、日本にしかない職業です。世界に誇れる木の仕事を振り返りつつ、木の建築を未来につなげていくお話をしたい。」と話を進めた。
「日本建築は丸いものと四角いものとを組み合わせることが出来ることが特徴です。取り併せてできる文化です。製材は「木取り」から始めます。木の皮はとっておきます。ハリーポッターの物語は森に悪魔がいるという話です。ところが、日本は森には神様がいらっしゃる。神様が天から松のてっぺんに降りて来られます。「木取り」は年に2~3回行います。木の一本一本の命をいただくという仕事です。初めに手を合わせ作業をはじめます。木には水が通る道があります。切って行く途中水がどっと出てきます。ただ一つ作業を中止することがあります。ハプニングが起こることがあるのです。なんだと思われますか?」と話しを止めて「手を挙げて下さい」と呼びかけた。手は上がらなかった。
「木は自分の身を削りながら大きくなります。成長の途中で打ち込まれたのだと思いますが5寸釘が出て来た時は作業を中止し、神官に来ていただいてお祓いをしてから作業を続けます。」との答えのあと、得も言われぬ空気が会場を支配した。
会場に配布されたレジメによれば、講師の中川典子さんは、木屋町三条、江戸時代から続く材木商「酢屋」に生まれた。古くは高瀬川による運搬を利用して酢屋は創業300余年、幕末には坂本龍馬を匿ったことでも知られる老舗。現在は株式会社千本銘木商会歳て家業を継承している。女性には珍しく岐阜、奈良吉野での修行を経て、文化財建築材納入、京の町屋の再生、茶室・床の間の建築施工、モダンな木の空間、家具・建具制作に従事して来た。銘木加工による床の間制作技術を生かした木のコーディネーターが人気を博し、マンションや戸建て住宅、店舗に活用されている」とあった。
講演の中で「桜やもみじが紅葉しなくなった。秋がなくなっている。寒さがないと紅葉出来ない。恐ろしいことだ。地球温暖化の話につながっていく。」「丸太作りの出来る大工さんがいなくなり材木店が倒産、先日、契約をキャンセルした。日本は国土の70%を森林が占める。それを活かせていない。深刻な後継者不足が起こっている。」という話が印象に残った。
中川典子さんは現在、未来の床の間づくりで立命館大茨木教室でも大学生に指導しておられる。「木の加工メンバーを通じて職人を増やしていきたい。一人でも多くの人に木に触れて欲しい。木のある暮らしを作るコーディネーターとして未来につなげていきたい。」と話を結んだ。貴重な機会を企画いただいた神戸酒心館、安福会長にひたすら感謝である。
講演の後、恒例によりお猪口一杯の新酒をいただき、ご機嫌で帰路についた。(了)