思索の日記 (クリックで全体が表示されます)

武田康弘の思索の日記です。「恋知」の生を提唱し、実践しています。白樺教育館ホームと共に

人類の良心・魂の歌「ナーズム オラトリオ」 作曲とピアノ ファジル・サイ  少女・広島・アメリカ原爆

2024-05-30 | 芸術

 
(2004年の演奏会の会場は、イスタンブールの古代円形劇場)


 2001年初演のファジル・サイ作曲「ナーズム・オラトリオ」は、ベートーヴェンの第九以来の人類的な普遍性をもつ曲・詩(うた)でしょう。


 魂を震わせるこの1時間20分は、ヒロシマにアメリカが投下した原子爆弾で死んだ少女の主題が繰り返されます。名もなき少女の純粋な魂を詠んだナーズムの詩 「・・・・・あなたにお願い   紙切れみたいに燃えたわたしは      戸をたたくのはわたし  みなさん署名をどうぞしてちょうだい   炎が子どもをやかないように  甘いあめ玉をしゃぶれるように 」(最後に全文を載せておきます)につけたサイのメロディーが繰り返し流れます。オーケストラと歌手と少女によって歌われます。心の奥深くに染みわたり震えます。

 ナーズム・オラトリオには、現代曲のもつ難しさがまったくありません。親しみのある分明な曲です。第九の主題が極めて簡明なメロディーであるように、少女の主題も極めて簡明です。なお、この「少女」は、日本でも清瀬保二ら数名により作曲されています。

 強く激しい行進曲は、人間のもつおぞましさを吹き飛ばすパワーで圧倒します。快感と感動をもたらし、幾度でも聴きたくなります。少女の歌とともにわたしは毎日聴いています。また、通常のオラトリオと違い、長老による語りが長く、その表現力が凄くて引き付けるのです。釘付けになります。

 2001年の初演にはトルコ第10代大統領アフメト・ネジデト・セゼルも列席し、また2004年イスタンブールの古代円形劇場での演奏会は、YouTubeで104万回再生されています。2016年の演奏は高解像度・高音質で録画録音され、今年2024年にYouTubeで見れるようになりました。

fazıl say nazım oratoryosu で検索



 共産主義者ということで都合17年間(求刑は35年)もトルコの獄中で過ごしたナーズムは、ソビエトに亡命した世界的な大詩人で、ナーズムを解放せよという運動は、フランスのパリでサルトルらにより始められ、ソビエトはもちろんアメリカなど西側諸国にも広がりましたが、最愛の夫人と子どもとはむごいことに1年間しか共に過ごすことかできなくて、再度ソビエトに亡命し、モスクワで1962年に死去しました。トルコ文化庁は、詩人への贖罪の意味で、桁違いの天才ファジル・サイに「ナーズムオラトリオ」の作曲を依頼したと推察されますが、わずか30才のサイは、共感する詩人の魂=イデーに導かれて、迷いなく強い思いで作曲した為に、稀にみる名曲となりました。(追記・後日分かりましたが、ナーズムの詩に少年時代から親しんでいたファジル・サイが、ナーズム・ヒクメットの詩から16篇を選び、オラトリオにしたとのことです)。

 ナーズム(1901-1963)の詩を読み、生涯を知ると(生まれは上流階級で貧民への強い同情と政府への憤り)、彼は、思想的には実存論者で、主義としては、「人間主義=自由主義の共産主義者」といえると思います。一人の少女への深い追悼が、アメリカをはじめとする世界の国家主義・軍国主義を圧倒するのです。実存は世界に先立つのです。組織・国家ではなく、人間、一人ひとりの人間が黄金や権力や権威を上回るのです。ブッダの中心思想=天上天下唯我独尊(誰もが我一人尊い存在として生まれてきた)と重なる人間主義(神ではなく人間)の徹底です。

 トルコでは各地で繰り返し演奏され、国民的な曲となっているようですが、このオラトリオは、世界で人類的な曲として繰り返し演奏されるべきものとわたしは確信します。(クリック)

( ファジル・サイは、かつて娘を幼稚園(保育園)に送り迎えし、学芸会では、バレーにサイが伴奏をかってでたとのことですが、生活世界からもたらされる想念がこの曲を支えているのかもしれません。)


 ナージム・ヒクメットは、日本語版の「ヒクメット詩集」の冒頭に、「日本の読者の皆さんに」として以下のように書いています。共感・共鳴します。

「私の考えでは、建築から舞踊にいたるあらゆる芸術がまず第一に人間に役立つものです。パンのように、住居のように、リキュール酒のように、くさぐさの革命の唄のように、祭日のように、人間に役立つものです。今世紀の技術の発展は、世界の人々が詩を読み、理解し、愛することができるようになるための土壌を準備し、それをじっさい可能にしているからこそ感嘆するの値することだと私には思われます。もし、技術、社会的な革命、人々の生活水準の向上がこのことに奉仕しないならば、だとすればそれらのことは私にはまったく無意味です。」


                        (作曲とピアノ ファジル・サイ)







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現在、日本語で読めるのは以下の2冊です。
上は、2002年刊(旧版は1963年刊)
下は、2020年刊
世界中で翻訳されていますが、トルコで出版が許可されたのは、死後十数年経った1970年代後半です。



少女  ナーズム・ヒクメット

開けてちょうだい たたくのはわたし
あっちの戸 こっちの戸 わたしはたたくの
こわがらないで 見えないわたしを
だれにも見えない死んだ女の子を

わたしは死んだの あのヒロシマで
あのヒロシマで 10年前に
あのとき七つ いまでも七つ
死んだ子はけっした大きくならないの

炎がのんだの わたしの髪の毛を
わたしの両手を わたしのひとみを
わたしのからだはひとつかみの灰
冷たい風にさらわれてった灰

あなたにお願い だけどわたしは
パンもお米もなにもいらないの
あまいあめ玉もしゃぶれないの
紙きれみたいに燃えたわたしは

戸をたたくのはわたし
みんさん、署名をどうぞしてちょうだい
炎が子どもを焼かないように
あまいあめ玉をしゃぶれるように

(1955年)

武田康弘

訂正・追記

ファジル・サイがトルコ文化大臣から委嘱されたのは、オラトリオの作品ですが(2001年初演)、それが【世界的な大詩人】で【一神教への徹底した批判者】であり、トルコ政府に無神論者・共産主義者として35年の禁固刑をいい渡され、サルトルらが呼びかけた国際的な運動で釈放され、ソビエト連邦に亡命した【ヒクメット】の詩を用いた【ヒクメットオラトリオ】であるのは、
 ファジル・サイが決めたこと(小さい時から彼の詩集を読み共感・感動していたため)を、以下の日本初演のパンフレットで知りました。
 名古屋で2022年9月に初演されたのをネットで昨夜遅くに知り、フォレストホール(名古屋市)に電話で確かめて、実際に演奏されたことが分かりました。
 ヒクメットの詩から16篇を、「青年期」「獄中にて」「人間について」「故郷について」の4つに区分し、中核をなす「人間について」では、ヒロシマへのアメリカ軍による原爆投下、同じくアメリカによるビキニ環礁水爆実験を告発しています。「死んだ女の子」(日本でも清瀬保二ら数名が作曲している)は、深い感動が襲い言葉を失います。

 

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ソクラテスによる【恋知者=哲学者の魂の定義】

2024-05-25 | 恋知(哲学)
昔から書いていますので繰り返しですが、ソクラテスによる【恋知者=哲学者の魂の定義】は、
「真実在をこれまに最も多く見た魂は、知を求める人、あるいは美を愛する人、あるいは楽(音楽と詩)を好むムーサのしもべ、そして恋に生きるエロースの徒となるべき人間の種の中へー」です。(「パイドロス」185ページ岩波「プラトン全集5」)

哲学=恋知の象徴は、エロースです(ルーブル美術館蔵・ラコステ人形)プラトンの学園「アカデメイア」の主祭神はエロース。


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検察庁の組織と人事を元から変えないと、日本は独裁国と同じ。袴田氏に再び死刑を求刑!

2024-05-22 | 社会批評

袴田被告(有罪とされた証拠は警察の捏造であったことが明白になっている)に再び死刑を求刑した検察は、理性も人間性も共に崩壊している。検察庁の組織と人事を元から変えないと、日本は独裁国と同じ。戦前の警察・検察国家と変わらない。最低最悪だ。

武田康弘(元 参議院行政監視委員会調査室・客員調査員・哲学と憲法を講義)

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米軍から渡された武器によりイスラエル軍のジェノサイドが続く。それでOKなのが日米政府!(憤)

2024-05-11 | 社会批評

アメリカ製の武器=爆撃機も弾薬もで、イスラエル軍のジェノサイドが続く。それを見過ごしてOKとする日米政府要人と官僚=人間のクズで、これがロシアなら他国の兵器で!!とか言う(満点大笑いではなく大怒り!!)頭と心が汚れてひん曲がっています。

武田康弘

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国連職員も報道記者もみな殺し!!ネタニヤフのイスラエル軍の悪辣さを報道しないNHKは、酷すぎます。

2024-05-04 | 社会批評

ハマスじゃないですよ!イスラエルのネタニヤフ政権が、イスラエル軍により、国連職員も報道関係者もかつて例がない規模で殺害しています。ハマス!?は一つも関与していないのに、NHKは完全に嘘の報道をする、デタラメも度が過ぎます。なぜですか???

武田康弘

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北朝鮮からミサイルが発射された!?(笑)ロケットとの違いも知らない(呆)NHKと民放もすべて。

2024-05-02 | 社会批評

また大嘘の各局テレビ局! 北朝鮮からミサイルが発射された!(笑)

人工衛星を打ち上げるロケットをミサイルだと嘘をつく。

秒速8キロメートルに達さなと衛星にならないので、ミサイルでは到底無理で、多段ロケットなのです。

わざわざ嘘を言い、国民を不安にさせて、軍事力増強をさせる意図でしょうが、

もし、ほんとうにミサイルとロケットの違いが分からないなら、頭が悪すぎで、よく大学受かったもの(笑笑)

昔の大本営発表と同じですね。いまだ知能が低すぎですね~~~

==============================

 わたしは天文少年でしたので、小学生の時に人工衛星やロケットに興味をもち(60年前!笑)第1宇宙速度は、地球の重力で地表に落ちず地表を回る人工衛星打ち上げの速度で秒速7.9キロメートル以上。
第2宇宙速度は、地球の重力を振り切る秒速11.2キロメートル以上、
第3宇宙速度は、太陽の重力も振り切り、太陽系外にまで飛行できる秒速16、7キロメートル以上というのを知り、小学生の記憶は忘れないので、今日まで(笑)。

 秒速7.9キロメートルというのは、恐ろしいスピードで、これは最新のロケットでも全然無理なので、3段ロケット(あるいは4段)で段々スピードをあげる(足し算する)ほかないのです。1秒間で隣町まで到達するスピードを出すことは凄いことなのです。ミサイルとか大砲とかピストルの弾は、それに比べるとノロノロなのです。

 以上は、基礎的な話しですが、確認です。

 なお、話題となっている超高速ミサイルといえども、秒速2キロメートルに達するものはありません。たとえ将来そこまで出たとしても人工衛星打ち上げに必要なスピードの4分の1でしかありません。
 

 

 

植田貴敦
ミサイルもロケットも同じ物です。
基本私もロケットだと思っていますが、国連決議で北朝鮮はロケットもミサイルも発射してはダメという事になってますからね。
 
 
植田貴敦
日本の事にはいちいち噛みついてくるくせに、北朝鮮の軍拡には何も言おうともしない。
貴方方は北朝鮮のために動いているんでしょうか?
 
 
 
武田 康弘
植田さん、そのように言葉の定義を変えるなら、種子島からミサイルが発射されました、というのですか。冗談もほどほどに。

自国の問題を問題にするのは、あまりにも当然です。

北朝鮮の政治体制は、私を含めて誰もがよくないと思うでしょう。その話と、嘘をふりまくマスコミ(どこかで統一し方向を決めて国民を誘導してる)への批判は別次元です。

ただし、人工衛星打ち上げまで禁止しているのは誤りでしょう。また、ミサイル実験を多くの国で行っておいて、北朝鮮だけはダメ、というのは原理次元で考えればおかしな話でしかないです。国連決議云々の以前の話しで、それをいうなら今まで桁違いの国連決議違反をしてきたのはアメリカです。

アメリカは、気に食わないと指定した国を次々と軍事力で制圧してきました。朝鮮戦争では、地上の上には何もない、という徹底した破壊(米ジャーナリストが報告)で、地下で人々は暮らしましたが、今は、地下まで貫通させる兵器で、どこに逃げようが殺す、という戦術です。そんな国に睨まれては、対抗手段を考えざるをえないはずです。わたしは北朝鮮の政治に反対していますが、アメリカの謀略は、全然桁違いであることを忘れてはならないはずです。世界の良心=言語学の天才のチョムスキー氏(米国人)は、「世界最大のならず者国家はアメリカだ」と証言しています。
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