「東大病」の三回目です。 第1回(クリック) 第2回(クリック) もご覧下さい。
京都で新しい教育に取り組む平野慶次さん(お会いしたことはありません)からの質問メールを受けて、私と山脇直司さん(東大教授)との間でのやりとりです。
武田さん 平野慶次@京都です。
「東大病」という言葉は使ったこともありませんでしたが、なるほどと思いつつ
読んでおりました。
線形的に過ぎる思考は、パッチワークが如く公式化されている。思考は、もっと
自由だ、と。
こんな感じで理解していて良いのでしょうか?
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平野様。
武田です。
そうですね。思考が「型はまり」なら思考ではなくパターンですものね。
おおもとに戻して、具体的経験から立ち上げる「知」(ソクラテス的な知)ではなく、既存の理念や公式から出発する「知」(受験勉強的な知)のことで、これは東大の問題ではなく、日本の教育一般の問題ですが、象徴的に「東大病」と言えば分かりよいと思います。
東大以外は大学ではない、という親がたくさんいます。一元的な価値信奉のヒステリーは「狂っている」としか言いようがありません。わたしの周りでも悲劇が何件も起きています。自殺者も出ています。序列意識がつくる権威主義の支配は市民運動にまで及びます。
こういう同一価値観による一極集中は、みなを不幸にします。エロースが広がりません。東大関係者はじめ皆が「東大病」の解決に取り組むことが必要です。受験力ではなく人間力を育てること、人間の知的能力の多様さを深く自覚することが重要だと思います。問題解決の「はじめの一歩」は、この社会的ヒステリーをはっきり「病気」と認識することでしょう。
ブログの記事ー「東大病」もそういう意味で書いています。
「思索の日記」http://www.doblog.com/weblog/myblog/29972
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私にも一言:
山脇です。
武田さん、平野さん
私は一度も東大で学ぼうと思ったことがないまま、めぐり合わせで東大教員になった者ですが、東大卒の思考力の訓練が他の大学より劣るとは必ずしも思いません。政治家でも、中曽根、後藤田、宮沢らの東大卒は、石原(一橋)、小泉、橋本、竹中(慶応)、森、海部(早稲田)、安倍(成蹊)などより、政治的狡猾さを中心とした思考力(型にはまらないという点を含んで)では上だと思っています。ですから、すべてを「東大病」というのは、ある意味では痛快ですが、ある意味ではミスリーディングで、真面目な少数の東大生が可哀想だと思います。一元的な価値のヒステリーは、受験業界に多くの責任があるでしょう。
また、この問題は科挙制の伝統に通じるかもしれません。ちなみに、韓国や中国や台湾の受験戦争は、日本以上にすさまじいと聞いています。
山脇直司
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山脇さんへ。
武田です。
この問題は、経験的次元でどこがいい、悪いという話とは違うのです。(私は「慶応」の福沢主義の問題を批判し続けてきました。)
「一元的な価値信奉は人間を幸福にしない、旧・帝大中心の日本の教育政策には大きな問題がある、いくつもの違ったよさをもつ大学を育てなければいけない、、、」ということを東大の人も非東大の人も、心ある人は皆が一緒になって言わなければ、と思いますが、どうでしょうか?「官の支配」ということは、この問題と直結しているのですから。「公共善」をつくるためには各自が自分の所属する世界を相対化する営みが必要です。
佐々木毅学長が率先して、日本人の「東大病」を改める必要とそのための具体的方策を提言すれば、ふつうの市民の側に立つ健康な精神をもつ大学として、より東大の価値が上がるのではないでしょうか?
「東大病」とは、日本人の多くが東大絶対の信仰をもっていることを指す言葉なのですから、東大関係者が率先して、「東大病を治しましょう!」と言うのがよいと思います。ぜひそうしましょう。
笑って自己変革のできる余裕のある精神が底力のあるほんものの「公共哲学」を生むと思います。内と外のラディカルな変革を共にしましょう!真面目な東大生は私の提言に賛同してくれると思います。心配無用です(笑)。
では、また。失礼。
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武田さん
お返事に納得しました。
あと蛇足ですが、佐々木毅さんはこの3月末で退任し、現在の学長は工学部出身です。ちなみに、佐々木毅さんは、思想史家としては大変優秀な方でしたが、公共哲学に関して言えば、私と違って「市民的公共性」と「政府の公」を峻別しようとしません。そのせいでしょうか、学長職にあっても、法学部的発想の域を出ず、期待はずれに終わった感じがします。あと、東大法学部のど真ん中で学んだ小林正弥さんにも、現在は平和運動やCOEでご多忙でしょうが、東大論をこのMLで書いてもらえれば面白いでしょう。
山脇直司