アメリカ政府公認の証券ディーラーで、国内外の投資ファンドとファンドの組成、運用を行うファンドマネージャーの今田栄司さんの話が、今朝の東京新聞「こちら特報部」に載っています。
「デスクメモ」には、
『かつて金融機関の日銀幹部への接待疑惑が起きたとき、お座敷の格によって「ざぶん」「どぼん」の隠語があった。
一連の不祥事を受けて、当時の福井副総裁は松下総裁とともに引責辞任したのではなかったか。一千万円投資の見返りに倍以上の利益があるとは「ノーパンしゃぶしゃぶ」接待よりたちが悪い。 』(蒲)
と記されています。
以下に
全文〔クリック〕を貼り付けます。
福井投資問題 プロが見たうまみとは
ゼロ金利時代に、一千万円もの大金を村上ファンドに投資し、約六年で一・五倍の運用益を上げていたことが判明した福井俊彦日本銀行総裁。投資理由は「村上氏の志を応援したかった」そうだが、だったら誰もが「応援」したいのでは? 業界のファンド・マネジャーがみる“市場の番人”による投資のウマミとは。 (大村歩、坂本充孝)
ご登場願ったのは、米国政府公認証券ディーラーで、国内外の投資ファンドとファンドの組成、運用を行うファンド・マネジャー今田栄司氏(43)。邦銀、外資系の投資銀行を渡り歩き、現在は三世商事不動産ソリューション事業部長として村上ファンドの動きをつぶさにウオッチしてきた。「図解でわかる投資ファンド」の著者でもある。
――福井総裁のようにもうかる投資は誰でも参加できるのか。
■投資歴や地位審査も厳正に
一般の銀行や証券会社に行っても、こうした私募型ファンドに入れるわけではない。対象は企業のオーナーとか一部上場企業の社長。法人であれば例えば米雑誌「フォーブス」が発表する世界の企業上位五百位に入っている会社などだ。もちろん公職と企業役員の間を行き来する福井氏のような人も対象となりうるし、今回のファンドの中に福井氏クラスの重要人物が出資者になっている可能性は非常に高い。
■
ある種の『秘密クラブ』 こうしたお金持ち同士の紹介者がファンド運営者に出資者を紹介し、ファンドはその出資者を審査し、出資を受け入れる。一種の「秘密クラブ」だ。審査は厳正で、これまでのファンド投資歴や社会的地位などを考慮する。もし金融当局の検査で怪しい投資者がいることが分かれば、その投資ファンドが市場から退場させられるためだ。現在では、日本国内のファンドであれば最低一億円から。海外であれば十億円ぐらいからしか、受け付けない。
――出資者にとってのメリットは。
出資者は投資組合の組合員となるが、組合は代表者以外は匿名。出資者は自分以外だれが組合員となっているのかも分からない。「自分がどこにどれだけ出資しているかの情報自体が公表されてはまずい。こっそり利益を上げたい」という需要がある。また、投資に対する収益は課税されずに出資者のもとに直接渡る。どう税を支払うのかが出資者に任されているのもメリットだろう。あくまで一般論としてだが、「裏保証」もありうる。証券取引法違反になるがね。
――「裏保証」とは?
書類には一切残さないが「10%の利回りは保証します」などとファンド運営者側が出資者に口頭で約束することだ。はっきり言ってもうけを期待しないでファンドに出資する人などいない。だからそうやって利回り保証を言わなければ出資してもらえない。通常あり得ることだ。
――福井総裁は「村上氏の志を激励する趣旨で出した」と出資目的を説明しているが。
村上ファンド設立当時の資金繰りは非常に厳しかったと聞いている。百万円でも村上氏は頭を下げて借りたはずだ。当時のこのファンドの規模からすれば、一千万円は非常に大きかっただろう。だが、聖人君子ではないのだから、純粋に志だけで一千万円のカネを出すなどということはないと思う。
二〇〇一年以降、福井氏の出資した一千万円はオリックス証券が募集し村上ファンドが運営する「アクティビスト投資事業組合」に移行している。福井氏としては公募型ファンドに移行したという感覚を持っていたかもしれない。だが、これは以前と同じの私募型ファンドにすぎない。
――福井総裁のような特別な出資者の場合、仮に運用益が出なかったとしてもファンド側が利益を付けることがありうるのか。
ありうる。というのは投資組合の組合員同士はお互いを知らないから、ある組合からある組合への利益の付け替えを行っても、ほかの組合員には分からないからだ。村上ファンドの場合、組合員には半年に一回、運用実績の報告書が届くが、仮に、これを改ざんしてしまえばほかの組合員に知られずに特定の組合員をお手盛りで優遇することは可能だ。
――福井総裁は内規違反ではないとしている。
内規の問題を言い出すと、福井総裁と同様の問題は、政策委員会のメンバーの中にもある可能性があるからだろうか。
福井総裁がなぜ今年二月になって出資を解約したのか、あるいは解約できたのかもナゾだ。当時すでにライブドア事件が発覚し、次の検察の標的は村上ファンドではないか、といううわさが業界ではかなり広まっていた。金融の最高の番人である日銀総裁に、村上ファンドのうわさが入っていない方が不自然だ。
『究極インサイダーでは』 二月で解約せずに今まで出資を続けていたら、運用益は減っていた可能性もある。もし、それを知って解約したのだとしたら、最高にいい時期に、自分だけ、「いち抜けた」をやったことになる。こうしたことが事実なら、これこそ究極のインサイダーだ。
福井総裁の釈明会見の翌二十一日、総裁の責任問題を記者団に問われた小泉純一郎首相は開口一番「ま、いいんじゃないですか」。辞任については「そう思ってません。何か問題があればすぐに辞めればいいという問題じゃない」と一蹴(いっしゅう)した。
信用失墜どう回復■FRBなら即罷免
「村上ファンドの研究」の著書がある経済ジャーナリストの水島愛一朗氏は「日銀の金融政策に影響を与える地位にいながらファンドに投資すれば、インサイダー取引にかかわる可能性は十分に予測できた。その意味で〇三年に日銀総裁に返り咲いた時点で、一千万円は引き揚げるべきだった。日銀総裁の立場を最優先にしなかったのは間違いだ。日本銀行法は設置目的に『信用秩序の維持』を掲げている。自分のために失墜した日銀の信用を回復するため、唯一の方法が辞任でしょう」と指摘する。
「目で見てわかる日銀の大常識」の著書がある経済ジャーナリストの持田直人氏は「従来、日銀総裁といえば清廉、高潔のイメージがあったが、とうとう俗人が登場してしまったか、とがっかりする」と手厳しい。
<デスクメモ>
かつて金融機関の日銀幹部への接待疑惑が起きたとき、お座敷の格によって「ざぶん」「どぼん」の隠語があった。一連の不祥事を受けて、当時の福井副総裁は松下総裁とともに引責辞任したのではなかったか。一千万円投資の見返りに倍以上の利益があるとは「ノーパンしゃぶしゃぶ」接待よりたちが悪い (蒲)