人生の裏側

人生は思われた通りでは無い。
人生の裏側の扉が開かれた時、貴方の知らない自分、世界が見えてくる・・・

お化け病院の怪(後)

2020-08-10 12:14:11 | 創作
私はそれまで"コワイ話"は沢山聞いているが、自分自身がそういう体験したことは無かった。
しかし、そのネタとなるであろうものをこの手で掴んでしまったことに、何とも拭い去れないものを感じながら家路に向かっていた。
あの石灰状の無機質ながらも、"有機"リンだかが混じってそうな感触...葬式でも素手で触ることは無いというのに...
そして、モヤモヤした頭で、チョイと買い物をしようとして気が付いたのである。
"財布が無いi...そ、そうか...あの腰を下ろした時、ズボンの後ろポケットからずり落ちたのだi それ以外に考えられないi...戻ろうi しかし、大分暗くなって来たではないかi コワイよ~...だけど、今の私の全財産だぞ!(と言っても数千円の話だが)...どうすりゃいいんだi、明るくなってから出直す?..."
とか、迷いながらも気が動転しつつ、勝手に足は再びそこに向いていたのだった。"行くっきゃないi"
日中のぽかぽか陽気とはうって変わって薄ら寒い..."早く見っけないとi"
気が急いているのだが、依古田川の遠回りの外周がやたら長く感じる...
"暗くてよく分からないけど、ここがあの呪われた城の入り口だったっけかなあ?"
すると..."きゃっ、きゃっ"と赤ん坊の笑い声が聞こえて来たではないかi...そしてそれをあやしているママさんらしい笑い声も...
こんなところで、しかも真っ暗なのに、どうして?
"出たかi"
しかし、暗くてあの財布を落とした場所が分からない...無我夢中で周囲を探していたのだが、骨どころじゃない、もっとヤバイものに遭遇するんじゃないかと思うと気が気で無かった。
して、赤ん坊は?、女の人は?...姿は見えないし、いつの間にか声もしなくなった。
その代わりにその謎の声が聞こえる方で、可愛い鳴き声と共にお目見えしたのは、一匹の子猫だった。
あれは、もしかしてこの子の鳴き声だったのだろうか?...猫をあやしていたのだろうか?...いや、確かに複数の違う種類のトーンだったはずなのだが...とにかく可愛いのでもっと近づいて見ると...実に人懐っこく逃げる素振りも見せず、ゴロゴロと喉を鳴らし、スリスリし始めていた。
そして、分かったのだi、見つけたのだi...正にこの子が居たところにそれはあったのだi 全くこの猫が守護霊に思えてきた。
その嬉しさ、安堵感もあったのか、猫としばらくじゃれているうちにさっきまでの恐怖感が、いつの間にか薄らいでしまっていた。
それにしてもあの赤ん坊、ママさんは?...もしかしたらあの骨はそういう曰くのあるものだったのかもしれない。
死してもなお、親子の愛というものは消え去らないものなのか、それともやはり浮かばれない思いとかなんだろうか?
考えると、とても切ない気持ちになってきた。この感じはさっきまでのコワイ感じとは全く異質のものだった。
そして、このもふもふ感やゴロゴロは、すべての"生あるもの"の印のように思えて、何だか急に心強くなってきた。
この子とさっきの謎の声はどういう因果が有るのか、無いのか分からないが、幽霊かなんかだとしても赤ん坊のそれだったらちっともコワくないi...多分それは邪気ってものが無いからだろう。大人の女性のはやはりコワイが...その時の私の頭の中の霊的存在は、謎の猫の出現と相俟って、完全に無邪気なものに主役は奪われていたのだった。
私は、こうして一寸した怪奇現象に遭遇した訳だが、皮肉にもそれにより、言い知れないコワイ思いから解放されたのだった...。

帰り道で、も一つ気がかりなものを思い出した。"あのエロ本はどうしただろう? シェークハンドはしたくない、あの友人が持っていったのだろうか...だとしたら実に惜しいことだ"...
で、財布を取り戻して気を良くした私は、古本屋さんへ寄って、エロ本を買おうと思ったのだが、店主のじいさんに険しそうに睨まれ「お前さん、年はいくつだi(16...かな?i)」などと訊かれたので、決まり悪く諦めたのだった...。
大人の年くった男はじっつにコワイ...
(終)

(このお話は、半分くらいは現実にあったことで、件の場所も地名こそボカしていますが、実在したものです。現在では某区内でも広域な公園として整備されておりますが...今でも一部には心霊スポットとして知られているそうですi
廃墟も近代的な総合病院として生まれ変わりましたが...コロナ禍でクラスターが発生したことで有名になりました。
先月だったか、読売新聞の読書欄で「あなたが夏に読むのは、納涼、"コワイ話、怪談派"、それとも心暖まる"ほっこり派"、どっち?」という読者への問があり、私は"どっちもじゃダメかなあ?"と考えているうちに着想が浮かんだものです。ー作者)
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