ハードバピッシュ&アレグロな日々

CD(主にジャズ・クラシック)の感想を書き留めます

アート・ブレイキー/ア・ジャズ・メッセージ

2025-02-09 18:55:24 | ジャズ(ハードバップ)

本日はアート・ブレイキーです。ブレイキーと言えば何と言ってもジャズ・メッセンジャーズ。1950年代半ばに結成して以降、メンバーを順次入れ替えながら1990年にブレイキーが亡くなる直前まで30年以上にわたって活動を続けました。もちろんブレイキーはドラマーとしても超有名でしたので、サイドマンとして他のジャズマンの作品に参加することはありましたが、自分がリーダーを務める作品は基本ジャズ・メッセンジャーズ名義でした。ただ、いくつか例外があり、以前に当ブログでもご紹介したベツレヘム盤「アート・ブレイキー・ビッグバンド」と言ったビッグバンド作品、ブルーノートに残した「オージー・イン・リズム」「ホリデイ・フォー・スキンズ」等の打楽器アンサンブルによる実験的作品がそれに当たります。それらは楽器の編成や音楽的内容からジャズ・メッセンジャーズとは全く異なる活動だったことがわかりますが、実はスモールコンボで1枚だけ残されているものがあり、それが今日ご紹介する1963年7月録音のインパルス盤「ア・ジャズ・メッセージ」です。

当時のジャズ・メッセンジャーズはウェイン・ショーター、フレディ・ハバード、カーティス・フラーの3管編成でモードジャズを強力に推進していた頃。一方、本作はソニー・スティットをサックスに迎えたワンホーン・カルテットで内容もごく普通のハードバップ。どういう経緯でこのアルバムが吹き込まれたのかわかりませんが、いろいろな意味でブレイキーのキャリアの中でも”浮いている”作品であることは確かです。そもそもブレイキーとソニー・スティットの組み合わせ自体がかなりレア(若い頃に共演歴アリとのこと)ですし、さらにピアノには当時ジョン・コルトレーン・カルテットでブイブイ言わせていたマッコイ・タイナー、ベースにも元コルトレーン・カルテットのアート・デイヴィスと、こちらもジャズ・メッセンジャーズともブレイキーとも無縁のメンバーが集まっています。おそらくこのアルバムを制作するときに意図的にジャズ・メッセンジャーズ的な要素を切り離したのでしょうね。その割にはタイトルが「ア・ジャズ・メッセージ」とジャズ・メッセンジャーズを連想させる言葉が使われているのが面白いですが・・・

全6曲。オリジナルとスタンダードが3曲ずつと言う構成です。最初の2曲はブレイキーとスティットの共作による"Cafe""Just Knock On My Door"。オープニングからどこかで聴いたことのあるメロディが流れてきますが、コルトレーンの”Mr. P.C."そっくりですね。スティットはテナーとアルトを使い分けますが、この曲ではテナーで力強いソロを取ります。続いてマッコイが鮮やかなピアノソロを聴かせ、アート・デイヴィスのベースソロ→ブレイキーとスティットの掛け合いと続きます。いや、なかなかの名演です。続く"Just Knock On My Door"はいかにもスティット節全開と言ったミディアムテンポのブルースでアルトで彼特有の音数の多いテロテロフレーズを存分に披露します。3曲目はガーシュウィンの”Summertime”ですが、ちょっとモーダルな曲調ですね。マッコイのソロが秀逸です。

4曲目はマッコイのオリジナル”Blues Back”。彼の1962年のリーダー作「リーチング・フォース」でも演奏されていた曲です。オリジナルはもう少しモーダルな感じでしたが、スティットのアルトが入るとブルース色が強まりますね。ラストの2曲はスタンダードの"Sunday"と"The Song Is You"で、どちらもリラックスした感じの演奏。歌心たっぷりのソロを繰り広げるスティットが素晴らしいですね。マッコイも肩の力を抜いた感じの洒落たピアノを聴かせてくれます。ブレイキーはリーダーではありますが、派手なドラムソロを取る場面もなく、スティットとマッコイの2人を前面に立てて、的確にリズムをコントロールする役割に徹しています。この頃のジャズ・メッセンジャーズは3管編成のエネルギッシュな演奏を持ち味にしていましたが、それらと違ってワンホーンで軽くまとめた本作はブレイキーに取って良い気分転換になったのかもしれません。

コメント

デクスター・ゴードン&スライド・ハンプトン/ア・デイ・イン・コペンハーゲン

2025-02-07 21:32:50 | ジャズ(ヨーロッパ)

昨日に引き続き今日もMPSレコードの作品です。同レーベルの主力がアメリカからヨーロッパに渡ってきたジャズマンだったことは前回ご説明した通りです。60年代になると本場アメリカではいわゆるメインストリームのジャズが時代遅れと見なされるようになり、多くの大物ミュージシャン達が仕事を求めてヨーロッパに渡って来ました。特に黒人ジャズマン達にとっては本国での根強い人種差別から逃れられることもヨーロッパ移住の大きな理由だったようです。

今日ご紹介する「ア・デイ・イン・コペンハーゲン」もそう言った移住組を中心に構成されています。タイトル通り1969年3月10日にデンマークのコペンハーゲンで録音されたセッションには、合計6人のジャズマンが参加しています。リーダーはデクスター・ゴードン。モダンジャズ界を代表する名テナー奏者の彼も1962年にヨーロッパに移住、この頃はコペンハーゲンに身を落ち着けていました。彼のヨーロッパ時代の録音はデンマークのスティープルチェイスレーベルに集中していますが(過去ブログ参照)、本作が唯一のMPS録音です。共同リーダーのスライド・ハンプトンもトロンボーン奏者兼ビッグバンド・リーダーとしてアトランティック等にリーダー作を何枚か(「ジャズ・ウィズ・ア・ツイスト」がおススメ)残した後、1968年にヨーロッパに移住しています。

その他もピアノのケニー・ドリュー(1961年にパリ、その後コペンハーゲンに移住)、ドラムのアート・テイラー(1963年にフランスに移住)もそれぞれハードバップの屋台骨を支えた名手でしたが、この頃はヨーロッパに活躍の場を求めていました。その他、トランペットのディジー・リースはジャマイカ出身。ニューヨークに進出してブルーノートに「スター・ブライト」「サウンディン・オフ」等を残しますが、元々はロンドンを中心にヨーロッパでプレイしていました。この時は一時的に帰欧していたのでしょうか?ベースのニールス・ヘニング・ペデルセンだけが地元デンマークの出身です。

(表面)          (裏面)

 

全6曲。歌モノスタンダードが3曲、スライド・ハンプトンのオリジナルが3曲です。ハンプトンは作曲以外にもホーンアレンジも担当しており、このアルバムの音楽的リーダーシップを実質的に担っていたようです。表ジャケットには知名度抜群のデクスター・ゴードンが使われていますが、一応裏面は同じ構図のハンプトンが写っています。

内容はどちらかと言うとオリジナル曲の方が良いです。特におススメがオープニングトラックの"My Blues"。曲名にブルースとありますが実際はドライブ感抜群のハードバップで、ゴードン→ドリュー→リース→ペデルセン→ハンプトンと軽快にソロをリレーします。1曲目にして本作のベストトラックと思います。3曲目”A New Thing”はあまり特徴のない曲ですが、ラストの"A Day In Vienna"もなかなか良いです。コペンハーゲンなのに"ウィーンの一日”とはこれいかに?と言う感じですが、曲自体は60年代後半らしいモード風のジャズです。一方、スタンダードの方は"You Don't Know What Love Is"”What’s New""The Shadow Of Your Smile"と定番曲が揃っています。特に前者2曲は通常はスローバラードで演奏されるところを、ミディアム~アップテンポで料理していますが、ちょっとハンプトンのアレンジが鼻に付くかな。その点"The Shadow Of Your Smile"は直球のバラード演奏でゴードンがワンホーンでダンディズム溢れるテナーソロを聴かせてくれます。ゴードンの演奏はあまりアレンジに凝らない方が持ち味が出ますね。

 

コメント

アニー・ロス&ポニー・ポインデクスター/オール・ブルース

2025-02-06 18:12:49 | ジャズ(ヨーロッパ)

本日は少し趣向を変えてドイツのレコード会社であるMPSレコードの作品をご紹介します。ハンス=ゲオルク・ブルンナー・シュヴェーアと言う人物が設立したレーベルで、地元ドイツのジャズマンの作品もありますが、メインはどちらかと言うとアメリカのジャズマン達の作品です。本ブログでも過去にオスカー・ピーターソンジョー・パスの作品を紹介していますね。60年代も中盤以降になると本場アメリカではジャズシーンの変化によりメインストリームのジャズが下火になりつつありましたが、ヨーロッパでは引き続き伝統的なジャズが愛好されていました。そのため、多くのアメリカ人ジャズマン達が仕事を求めてヨーロッパを訪問し、このMPSに録音を残しています。

今日ご紹介するアニー・ロス&ポニー・ポインデクスターもそのうちの1枚。1966年5月1日にフランクフルトで行われたジャズフェスティヴァルの模様を録音したもので、リーダーの2人を含めて合計9人のジャズマンが参加しています。まず、リーダーのアニー・ロスはイギリス生まれのアメリカ人女性歌手。ワールド・パシフィックに「ア・ギャサー!」等の作品を吹き込んでいます。この人は通常のヴォーカリストと言うより楽器のソロを真似て歌うヴォ―カリーズの名手で、デイヴ・ランバート、ジョン・ヘンドリックスと組んだランバート、ヘンドリックス&ロスの一員としても知られています。楽器のソロの声版と言えばスキャットを思い浮かべますが、あちらは♪ドゥビドゥバ~、と歌詞がないのに対しヴォ―カリーズは歌詞を付けて歌うのが特徴です。コ・リーダーのポニー・ポインデクスターはニューオーリンズ出身のサックス奏者。お世辞にもメジャーとは言えませんが、プレスティッジ系列のニュージャズに「ガンボ!」等のリーダー作を残しています。本作では本職のサックスに加え、ヴォーカルも披露しています。

サイドマンもなかなか通好みのメンバーです。カーメル・ジョーンズ(トランペット)は西海岸で活躍した黒人トランぺッターで、ホレス・シルヴァーの名盤「ソング・フォー・マイ・ファザー」への参加で知られています。レオ・ライトはディジー・ガレスピー楽団で活躍したアルト奏者でアトランティックに何枚かリーダー作も残しています。彼らに加えてクラーク=ボラン・ビッグバンドで活躍したジミー・ウッド(ベース)がアメリカ出身。後はヨーロッパ人で、オーストリア出身のフリッツ・パウアー(ピアノ)、カリブ海のグアドループ島出身のフランス人アンドレ・コンドゥアン(ギター)、そして地元ドイツのジョー・ネイ(ドラム)と言う国際色豊かなラインナップです。

アルバムはルイ・ジョーダンがヒットさせたジャンプ・ブルース"Saturday Night Fish Fry"で始まります。前回ブログで取り上げた「ディジー・ガレスピー・アット・ニューポート」の"School Days"も同じくジョーダンの曲で、こちらもヒップホップやラップを先取りしたような曲です。アニーとポニーが掛け合いながら歌う楽しい曲ではありますが、あまりジャズって感じはしません。この時点で少し先行き不安を感じますが、続く"All Blues"で良い意味で期待を裏切られます。ご存じマイルス・デイヴィス「カインド・オヴ・ブルー」の名曲にオスカー・ブラウンが歌詞を付けたもので、11分を超す大曲です。冒頭まずポニーがソプラノサックスによるテーマ演奏とヴォーカルを聴かせ、その後は8分間にわたって各プレイヤー達がスリリングなソロを繰り広げます。順番はカーメル・ジョーンズ→ポニーのソプラノ→アンドレ・コンドゥアン→レオ・ライト→フリッツ・パウアーでそれぞれ素晴らしいソロを聴かせてくれます。ずばり名演と言って良いでしょう。なお、アニー・ロスはお休みです。

3曲目はホレス・シルヴァーの名盤「スタイリングス・オヴ・シルヴァー」から”Home Cookin'"。アニーがヴォ―カリーズ、ポニーがスキャットでファンキーに盛り上げ、間にレオ・ライトのソロも挟まれます。4曲目”Jumpin' At The Woodside"はご存じカウント・ベイシー楽団の名曲。ランバート、ヘンドリックス&ロスがベイシー軍団と組んだ「シング・アロング・ウィズ・ベイシー」でも歌われていました。アニーが早口でヴォ―カリーズを披露し、ポニーがスキャットで続きます。カーメル・ジョーンズとレオ・ライトのソロも聴き逃せません。

5曲目”Moody's Mood For Love"はサックス奏者ジェイムズ・ムーディの”I'm In The Mood For Love"の美しいテナーソロにエディ・ジェファーソンが歌詞を付けたもので、多くの歌手にカバーされた名曲です。私が好きなのはずっと後の1995年のクインシー・ジョーンズ「Q’sジューク・ジョイント」でブライアン・マックナイトとテイク6が歌ったバージョンです。この曲はアニー・ロスが歌いますが、彼女は「ア・ギャサー!」のところでも述べましたが、正直そんなに歌が上手くないですよね。6曲目"Goin' To Chicago"もベイシー楽団の持ち曲で、歌手のジミー・ラッシングと歌ったものが有名だそうです。ラストは"Twisted"。バップ期のテナー奏者ワーデル・グレイの曲に1952年にロスがヴォ―カリーズの歌詞を付け、彼女が注目されるきっかけとなった曲です。この曲も”All Blues"同様に各人のソロがたっぷり収録されており、アニーのヴォ―カリーズの後、カーメル・ジョーンズ→レオ・ライトのフルート→ポニーのアルト→パウアーとファンキーなソロを取り、演奏を締めくくります。個人的にアニー・ロスのヴォ―カリーズはそれほど好みではないのですが(あまり声が好きではない)、それを埋めて余りあるぐらい器楽ソロが充実しており、ヴォーカル作品としてよりむしろインストゥルメンタル作品として評価したいアルバムです。

コメント

ディジー・ガレスピー・アット・ニューポート

2025-02-04 19:21:13 | ジャズ(ビッグバンド)

先日、アニタ・オデイを取り上げた際に映画「真夏の夜のジャズ」とその舞台となったニューポート・ジャズ・フェスティヴァルのことを書きました。ロードアイランド州の海辺のリゾートで開かれるこのフェスは1954年に始まり、現在でも行われている有名な音楽祭です。映画に記録されているのは1958年のフェスの模様ですが、その前年の1957年にはヴァーヴ・レコードが同フェスに密着し、コンサートの模様を合計14枚ものレコードに記録しています。その顔ぶれは錚々たるものでビリー・ホリデイ、エラ・フィッツジェラルド、カウント・ベイシー、コールマン・ホーキンス、ソニー・スティット、ジジ・グライス&ドナルド・バード、セシル・テイラーetcとまさにスイングジャズからフリージャズまで様々なライブの模様を記録に残しています。日本人ピアニストの秋吉敏子の演奏も録音されているようです。

本日ご紹介する「ディジー・ガレスピー・アット・ニューポート」もそのうちの1枚で、ディジー・ガレスピー率いるビッグバンドのライブの模様を記録したものです。1940年代にチャーリー・パーカーとともにビバップの中心人物として活躍したガレスピーですが、わりと初期からビッグバンドでの活動も並行して行っており、50年代中旬以降はむしろスモールコンボよりビッグバンドの方に軸足を置いていました。

本ライブに参加したメンバーは合計15人。全員列挙はしませんが、トランペットにリー・モーガン含め4人、トロンボーンにアル・グレイ含め3人、サックスにベニー・ゴルソン、ビリー・ミッチェル、アーニー・ヘンリーら5人、リズムセクションはウィントン・ケリー(ピアノ)、ポール・ウェスト(ベース)、チャーリー・パーシップ(ドラム)と言う布陣です。なお、このメンバーからモーガン、グレイ、ミッチェル、ケリーらが抜け出したセッションが以前ご紹介した「ディジー・アトモスフェア」です。

曲はオリジナルLPで計6曲、CDにはボーナストラックで3曲が追加されています。ライブ録音と言うことでガレスピーの陽気なおしゃべりも入っているため演奏時間は長めでLPで48分、CDだと72分もあります。

1曲目はアレンジャーのA・K・サリームが書いた”Dizzy's Blues"。オープニングを飾るにふさわしいド派手な曲で、爆発するホーンセクションをバックにボスのガレスピーが火の出るようなトランペットソロを聴かせ、次いでバリトンのピー・ウィー・ムーア→アル・グレイ→ウィントン・ケリーとソロをリレーします。ガレスピーこの時39歳。まだまだ若い連中に負けてられん!と張り切っていますね。つづく"School Days"はブルース歌手のルイ・ジョーダンがヒットさせたジャンプ・ナンバーで、ここではガレスピーがヴォーカルを披露。お世辞にも上手いとは言えないのですが、独特のリズムでちょっとヒップホップとかラップみたいになっています。ウィントン・ケリーとビリー・ミッチェルがソロを取るのですが、こちらもノリノリでもはやジャズを飛び越えてロックンロール的な縦ノリですね。もちろん観衆は大喜びです。3曲目はホレス・シルヴァーの名曲"Doodlin'"。演奏に先だってガレスピーがユーモアたっぷりにピー・ウィー・ムーアを紹介します。彼は他ではあんまり見ない名前ですが、バンドでは人気者だったのでしょうか?ムーアが重低音バリトンで印象的なイントロのメロディを吹きますが、ソロを取るのは彼ではなくガレスピーです。

4曲目は40年代にガレスピーがコンガ奏者のチャノ・ポゾと共作したアフロ・キューバン・ジャズの名曲”Manteca"。いかにもラテンリズムの賑やかな曲ですが途中で現れるロマンチックなメロディが個人的には好きです。ベニー・ゴルソンが少しだけソロを取ります。5曲目はゴルソンが前年に亡くなったクリフォード・ブラウンに捧げて書いた”I Remember Clifford"。ガレスピーはブラウンと共演経験はありませんが、ブラウンが20歳の時に会ったことがあり、彼にプロのミュージシャンを目指すよう助言したと言うエピソードがあります。ここではガレスピーがバラードをじっくり歌い上げます。6曲目”Cool Breeze"はタッド・ダメロンの作曲したガレスピー楽団の持ち曲で、エネルギッシュな伴奏をバックにアル・グレイ→ガレスピー→ビリー・ミッチェルと存分にソロを取ります。

ここから先はボーナストラックで、詳しい解説は端折りますが、7曲目”Zodiac Suite"は女流ピアニストのメアリー・ルー・ウィリアムズが作曲した組曲でケリーの代わりに彼女がピアノを弾きます。続く”Carioca"はラテン調のスタンダード。最後の”A Night In Tunisia"はガレスピーの代表曲ですが、ここでトランペットソロを取るのはこれまで出番のなかったリー・モーガン。メンバー最年少でこの時まだ18歳でしたが堂々としたソロを聴かせ、その天才ぶりを見せつけます。後を受けるゴルソンもなかなかの熱演です。以上、少し長いですがライブならではの熱気に満ち溢れた傑作だと思います。

コメント

ドナルド・バード/オフ・トゥ・ザ・レイシズ

2025-02-03 19:09:24 | ジャズ(ハードバップ)

本日はドナルド・バードの記念すべきブルーノート第1作「オフ・トゥ・ザ・レイシズ」をご紹介します。バードについては先日「バード・イン・パリ」で述べたように、デビューしてから数年は主にサイドマンとしての活動で多忙を極めていました。ブルーノートとも関係は深く、1956年と57年の2年間だけでポール・チェンバース「ウィムズ・オヴ・チェンバース」「ポール・チェンバース・クインテット」、ホレス・シルヴァー「シックス・ピーシズ・オヴ・シルヴァー」、「ソニー・ロリンズVol.1」、ルー・ドナルドソン「ウェイリング・ウィズ・ルー」「ルー・テイクス・オフ」、ハンク・モブレー「ハンク」、ソニー・クラーク「ソニーズ・クリブ」等に参加し、時には主役を食うほどの素晴らしいトランペットを聴かせてくれます。これほど重宝されていたのにリーダー作が1枚もなかったのは不思議ですが、この頃のバードはとにかく多忙で、プレスティッジやサヴォイ、リヴァーサイド等レーベルを問わずあちこちのセッションに顔を出していましたので、一つ所に腰を落ち着けるよりフリーランスで活動することを本人が選んでいたのかもしれません。

ただ、そんなバードも1958年にブルーノートと専属契約を締結。12月21日録音の本作を皮切りに60年代から70年代にかけて合計25枚ものリーダー作を同レーベルから発表します。反面、他レーベルでの録音やサイドマンとしての活動は相対的に減っていきますので、ある意味ブルーノートで"身を固めた"と言う表現がピッタリくるかもしれません。

本作のメンバーはまず白人バリトンサックス奏者のペッパー・アダムス。バードとはデトロイト時代からの盟友で、ブルーノート含め多くの作品で共演しています。一方、他レーベルのアダムス名義の作品にはバードがサイドマンとして参加していますので、実質は2人の双頭コンボだったと言って良いでしょう。本作にはさらにアルトのジャッキー・マクリーンも参加。バードとマクリーンもジョージ・ウォーリントン・クインテット時代からの旧知の仲ですね。リズムセクションはウィントン・ケリー(ピアノ)、サム・ジョーンズ(ベース)、アート・テイラー(ドラム)。バードのブルーノート初リーダー作にふさわしい豪華メンバーが名を連ねています。

全6曲。うち4曲がバードのオリジナル、残りが歌モノとバップスタンダードが1曲ずつです。オープニングは有名スタンダードの"Lover, Come Back To Me"。日本でも"ラバカン"の愛称で親しまれる超定番曲をバードらは高速テンポで料理します。高らかに鳴り響くバードのトランペット、重低音をブリブリ吹き鳴らすアダムスのバリトン、いつもながらの独特のマクリーン節を聴かせるマクリーン、そして彼らを後ろから煽り立てるウィントン・ケリー・トリオ。これぞブルーノート・ハードバップとでも言うべき名演ですね。

続く2曲目ですが、私の持っている日本版CDの解説書にはアイナー・アーロン・スワン作曲のスタンダード”When Your Lover Has Gone"と記載されています。この曲も有名なスタンダード曲なんですが、う~ん、どう考えてもメロディが全然違いますよね?おっかしいなあと思って原文のライナーノーツを読むとLoverではなくてLoveで、バード自身が作曲した"When Your Love Has Gone"と書いてあります。解説書いた人しっかりしろよ!と言いたくなりますね(ちなみにWikipediaも全く同じ間違いをしています)。なお、曲自体は哀愁漂うバラードで、バードがワンホーンで吹いています。3曲目は”Sudwest Funk"で、バード自作のファンキーチューン。sudwestとはフランス語でsouthwestの意味です。バードは翌年にファンキー色の強い「フエゴ」を発表しますので、その前触れかな?

B面1曲目はソニー・ロリンズの名曲"Paul's Pal"。バードは「バード・イン・パリ」でもこの曲を演奏していたのでお気に入りだったんでしょうね。演奏も素晴らしく、特にバードとケリーが最高です。続くタイトルトラックの”Off To The Races"も「バード・イン・パリ」収録曲で、そこでは”At This Time”と言う曲名でした。同じ58年発表のペッパー・アダムス「10・トゥ・4・アット・ザ・ファイヴ・スポット」では”The Long Two/Four"と言う曲名になっていますが、全て同じ曲です。マーチ風のファンキーチューンでアート・テイラーのドラムが重要な役割を果たしています。ラストは再びコテコテのファンキージャズ”Down Tempo"で締めくくり。以上、バードの栄光のブルーノート時代の幕開けを飾るにふさわしい充実の1枚です。

コメント