本日はアート・ブレイキーです。ブレイキーと言えば何と言ってもジャズ・メッセンジャーズ。1950年代半ばに結成して以降、メンバーを順次入れ替えながら1990年にブレイキーが亡くなる直前まで30年以上にわたって活動を続けました。もちろんブレイキーはドラマーとしても超有名でしたので、サイドマンとして他のジャズマンの作品に参加することはありましたが、自分がリーダーを務める作品は基本ジャズ・メッセンジャーズ名義でした。ただ、いくつか例外があり、以前に当ブログでもご紹介したベツレヘム盤「アート・ブレイキー・ビッグバンド」と言ったビッグバンド作品、ブルーノートに残した「オージー・イン・リズム」「ホリデイ・フォー・スキンズ」等の打楽器アンサンブルによる実験的作品がそれに当たります。それらは楽器の編成や音楽的内容からジャズ・メッセンジャーズとは全く異なる活動だったことがわかりますが、実はスモールコンボで1枚だけ残されているものがあり、それが今日ご紹介する1963年7月録音のインパルス盤「ア・ジャズ・メッセージ」です。
当時のジャズ・メッセンジャーズはウェイン・ショーター、フレディ・ハバード、カーティス・フラーの3管編成でモードジャズを強力に推進していた頃。一方、本作はソニー・スティットをサックスに迎えたワンホーン・カルテットで内容もごく普通のハードバップ。どういう経緯でこのアルバムが吹き込まれたのかわかりませんが、いろいろな意味でブレイキーのキャリアの中でも”浮いている”作品であることは確かです。そもそもブレイキーとソニー・スティットの組み合わせ自体がかなりレア(若い頃に共演歴アリとのこと)ですし、さらにピアノには当時ジョン・コルトレーン・カルテットでブイブイ言わせていたマッコイ・タイナー、ベースにも元コルトレーン・カルテットのアート・デイヴィスと、こちらもジャズ・メッセンジャーズともブレイキーとも無縁のメンバーが集まっています。おそらくこのアルバムを制作するときに意図的にジャズ・メッセンジャーズ的な要素を切り離したのでしょうね。その割にはタイトルが「ア・ジャズ・メッセージ」とジャズ・メッセンジャーズを連想させる言葉が使われているのが面白いですが・・・
全6曲。オリジナルとスタンダードが3曲ずつと言う構成です。最初の2曲はブレイキーとスティットの共作による"Cafe""Just Knock On My Door"。オープニングからどこかで聴いたことのあるメロディが流れてきますが、コルトレーンの”Mr. P.C."そっくりですね。スティットはテナーとアルトを使い分けますが、この曲ではテナーで力強いソロを取ります。続いてマッコイが鮮やかなピアノソロを聴かせ、アート・デイヴィスのベースソロ→ブレイキーとスティットの掛け合いと続きます。いや、なかなかの名演です。続く"Just Knock On My Door"はいかにもスティット節全開と言ったミディアムテンポのブルースでアルトで彼特有の音数の多いテロテロフレーズを存分に披露します。3曲目はガーシュウィンの”Summertime”ですが、ちょっとモーダルな曲調ですね。マッコイのソロが秀逸です。
4曲目はマッコイのオリジナル”Blues Back”。彼の1962年のリーダー作「リーチング・フォース」でも演奏されていた曲です。オリジナルはもう少しモーダルな感じでしたが、スティットのアルトが入るとブルース色が強まりますね。ラストの2曲はスタンダードの"Sunday"と"The Song Is You"で、どちらもリラックスした感じの演奏。歌心たっぷりのソロを繰り広げるスティットが素晴らしいですね。マッコイも肩の力を抜いた感じの洒落たピアノを聴かせてくれます。ブレイキーはリーダーではありますが、派手なドラムソロを取る場面もなく、スティットとマッコイの2人を前面に立てて、的確にリズムをコントロールする役割に徹しています。この頃のジャズ・メッセンジャーズは3管編成のエネルギッシュな演奏を持ち味にしていましたが、それらと違ってワンホーンで軽くまとめた本作はブレイキーに取って良い気分転換になったのかもしれません。