ジャズピアノには”エヴァンス派”と呼ばれる人達がいます。文字通りビル・エヴァンスに影響を受けたピアニスト達のことで、60年代以降に登場したピアニストの多くがそれに該当します。私がパッと思い浮かぶのはクレア・フィッシャーやデニー・ザイトリンですが、70年代以降のミシェル・ペトルチアーニやリッチー・バイラーク等もそう呼ばれていますね。ま、私は前から言っているように70年代以降のジャズはよく知らないので、彼らについて多く語ることはできないのですが・・・
今日ご紹介するドン・フリードマンもその1人で、特にこの「サークル・ワルツ」に至ってはエヴァンス派ピアノ・トリオの代表作、みたいな呼ばれ方をしています。ただ、その認識は少し誤解があるようです。確かに本作は透明感あふれるピアノトリオ作品でビル・エヴァンスを彷彿とさせる内容ですが、フリードマン自身のキャリアを見るとそうとも言えない。そもそもフリードマンは50年代中盤に西海岸で活動を始めており、エヴァンスとほぼ同時期のデビューですし、本作と前後して発表された「ア・デイ・イン・ザ・シティ」や「フラッシュバック」等の作品はフリーとまでは行きませんがかなり実験的な内容です。サイドマンとしてもブッカー・リトルの「アウト・フロント」にも参加していますし、本来はエヴァンスとは系統の違うスタイルと言って良いでしょう。
ただ、1962年5月録音の本作ではそうした実験的要素はあまり前面に出て来ず、リリカルで耽美的なピアノトリオが存分に味わえます。レーベルもリヴァーサイド、ベーシストにもエヴァンス・トリオでも活躍するチャック・イスラエルズを起用していますので、エヴァンス派にカテゴライズされても致し方なしと言う気もします。なお、ドラムには主にブルーノートで活躍するピート・ラロカが起用されています。
全7曲。うち4曲がフリードマンのオリジナル、残り3曲がスタンダードと言う構成ですが、どちらかと言うとオリジナル曲の方が良いですね。特に冒頭のタイトル曲"Circle Waltz"はリリカルで美しい旋律を持った名曲で、クリアーで研ぎ澄まされた音世界はまさにエヴァンスの「エクスプロレイションズ」を思い起こさせます。続く”Sea's Breeze"はアップテンポのモーダルな曲調でなかなか良いですし、何よりバラードの”Loves Parting"が素晴らしい。エヴァンスの"My Foolish Heart"に少し似たリリカルで美しい名曲です。ラストトラックの”Modes Pivoting"は曲名通りのモードジャズでこちらはちょっとエヴァンスにはない曲風かも?
スタンダードは”I Hear A Rhapsody"と”So In Love”がいわゆる歌モノ。前者はドライブ感たっぷりのトリオ演奏、後者はベースとドラム抜きのアグレッシブなソロ演奏で料理されています。一方、デイヴ・ブルーベックの”In Your Own Sweet Way"はスローテンポでややミステリアスな曲調にアレンジされています。以上、ところどころフリードマンならではの個性も垣間見えますが、全体的にはエヴァンス色が濃厚な知性派白人ピアノトリオの傑作です。