ハードバピッシュ&アレグロな日々

CD(主にジャズ・クラシック)の感想を書き留めます

アート・ファーマー&ドナルド・バード/トゥー・トランペッツ

2025-01-31 20:48:23 | ジャズ(ハードバップ)

以前「トゥー・ギターズ」のところでも述べましたが、50年代のプレスティッジには同一楽器の競演作がやたらめったらあります。ロリンズとコルトレーンの「テナー・マッドネス」、マクリーンとジョン・ジェンキンズの「アルト・マッドネス」等々です。テナーとアルトと来ればトランペットももちろんあり、それが今日ご紹介する「トゥー・トランペッツ」です。ジャケットはおそらくトランペットがデフォルメされて"2"と言う文字を表しているのでしょう。

競演するのはアート・ファーマーとドナルド・バード。録音は1956年8月3日に行われましたが、ファーマーはこの時点で「ホエン・ファーマー・メット・グライス」「イヴニング・イン・カサブランカ」等の傑作をプレスティッジに残し、同レーベルの看板トランぺッターの1人でした。後年もっぱらフリューゲルホルンを吹くようになり、演奏もソフトになりますがこの頃はバリバリのハードバッパーです。一方のドナルド・バードは前年にデトロイトから出てきたばかりですが、一躍トランペットのニュースターとしてあちこちのセッションに引っ張りだこになっていた頃です。年齢はファーマーが27歳、バード23歳ですのでキャリア的にも年齢的にもファーマーが先輩になりますが、演奏の方はまさにがっぷり四つという感じで、2人とも熱のこもった演奏を繰り広げます。メンバーはこの2人に加え、アルトのジャッキー・マクリーンが加わり、リズムセクションはバリー・ハリス(ピアノ)、ダグ・ワトキンス(ベース)、アート・テイラー(ドラム)。いずれ劣らぬビッグネーム揃いですが、彼らもこの時は全員20代。まさにプレスティッジが誇る若き俊英達によるオールスターセッションですね。

全5曲。1曲ずつ紹介しましょう。オープニングトラックはドナルド・バードが書いた"The Third"。この曲、ジャズ・メッセンジャーズのパシフィック・ジャズ盤に収録された"Little T"と同じ曲と思われますが、なぜか違うタイトルです。マイナーキーの香り高きハードバップで、まず作曲者のバードがソロを取り、マクリーン→ファーマー→ハリス→ワトキンスとソロをリレーします。2曲目はケニー・ドリュー作の名曲”Contour"。ジャッキー・マクリーンの「4、5&6」のバージョンが有名ですが、本作も負けず劣らずの名演です。この曲はファーマーが先発で、マクリーンを挟んでバード→ハリスと軽快にソロを回します。3曲目はスタンダードの”When Your Lover Has Gone"。この曲はバードもマクリーンも抜けて、ファーマーがワンホーンでじっくりバラードを聴かせます。

4曲目はマイルス・デイヴィスの名曲”Dig"。14分を超える大曲で個人的には本作のハイライトと思います。ソロ先発はバリー・ハリスで彼ならではの玉転がしタッチの軽快なピアノソロを披露し、続いてマクリーン→ワトキンスのベースソロ→テイラーのドラムソロが続きます。ようやくトランペットが登場するのは6分過ぎでここからファーマー→バードの順で2周にわたってエネルギッシュなソロの応酬を5分近くにわたって繰り広げます。一旦マクリーンの短いソロを挟みながら、再び最後まで両者の熾烈なトランペットバトルで盛り上げます。なかなか満腹感のある曲ですね。ラストはセロニアス・モンクの”'Round Midnight"。今度はバードがワンホーンでじっくり歌い上げます。トランぺッターの”'Round Midnight"と言えば誰もがマイルス・デイヴィスを思い浮かべますが、この演奏もなかなか良いと思います。この企画の評判が良かったのか、プレスティッジは翌年にこの2人にさらにイドリース・スリーマンを加えた「スリー・トランペッツ」を吹き込みます。こちらも充実した内容ですので、本作と合わせて聴くことをおススメします。

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トミー・タレンタイン

2025-01-30 19:25:39 | ジャズ(ハードバップ)

ジャズ界には兄弟プレイヤーはたくさんいます。ジョーンズ3兄弟(ハンク、サド、エルヴィン)、ヒース3兄弟(パーシー、ジミー、アルバート)、アダレイ兄弟(キャノンボール、ナット)、ブレッカー兄弟(ランディ、マイケル)が有名ですが、他にもまだまだいますよね。タレンタイン兄弟もそのうちの1組で、兄がトランぺッターのトミー、6歳下の弟がテナーのスタンリーです。ただ、この兄弟に関しては他の兄弟と違い、弟の方が圧倒的にメジャーですよね。60年代ブルーノートの顔と言っても良いスタンリーに対し、弟の方はサイドマンとしての録音はそれなりにあるものの、あくまで脇役的存在です。今日ご紹介する「トミー・タレンタイン」はそんな彼が残した最初にして最後のリーダー作です。発売元はタイム・レコード。1950年代末から60年代初頭にかけて短期間存在したマイナーレーベルですが、本ブログでも紹介したケニー・ドーハムの「ショウボート」「ジャズ・コンテンポラリー」、ソニー・クラークのトリオ盤等の通好みの作品が揃っており、侮れないレーベルです。

録音は1959年12月18日。メンバーは弟のスタンリー(テナー)、ジュリアン・プリースター(トロンボーン)、ホレス・パーラン(ピアノ)、ボブ・ボスウェル(ベース)、マックス・ローチ(ドラム)です。実はこのメンバーはパーランを除いて当時のマックス・ローチ・クインテットのメンバーそのものです。おそらくボスのローチがトミーのためにリーダーの名義を貸してあげたのではないでしょうか?なお、当時のローチ・クインテットは通常ピアノレスでしたので、タレンタイン兄弟と同じピッツバーグ出身のパーランが加わっています。パーランとタレンタイン兄弟は相当仲良しだったようで、ブルーノートにも共演作をいくつも残しています。(スタンリー・タレンタイン「カミン・ユア・ウェイ」、ホレス・パーラン「オン・ザ・スパー・オヴ・サ・モーメント」etc)

全7曲。歌モノスタンダードは1曲もなしの意欲的な構成です。1曲目は"Gunga Din"。一風変わったタイトルですが、昔のハリウッドの冒険映画でそう言う名前の作品があったようです。解説書ではタレンタインのオリジナルとされていますが、実はこの曲、1957年のフィル・ウッズ「ウォーム・ウッズ」で既に演奏されており、そこではジェリー・カミンスキーと言う人の作曲となっています。真の作者は誰なのか謎ですが、曲自体はマイナーキーの佳曲で、スタンリー→トミー→パーランと魅力的なソロをリレーします。2曲目”Webb City"はバド・パウエルが書いたバップチューン。アート・ペッパーも「ジ・アート・オヴ・ペッパー」で取り上げていた曲です。この曲からプリースターのトロンボーンも入った3管編成で軽快に料理していきます。後半にはローチのドラムソロもあります。

3曲目からは正真正銘トミーの自作曲が続きます。”Time's Up"”Long As You're Leaving"はどちらもマイナーキーのブルースですが少し地味な印象は拭えません。”Too Clean"がなかなかドライブ感溢れるハードバップと言う感じで良いですね。続く"Two, Three, One, Oh!"はいかにも即興で付けましたと言うようなタイトルですが、内容的には似たような感じです。最後の”Blues For J.P."はホレス・パーランの作曲。この曲はパーランのお気に入りで彼が参加したルー・ドナルドソン「サニー・サイド・アップ」やデイヴ・ベイリー「ゲッティン・イントゥ・サムシン」でも演奏されていますが、初出はおそらく本作です。youtubeでは意外なところでウディ・ハーマン・ビッグバンドの演奏も出てきましたが、それがまたカッコいい。なかなか魅力的なファンキーチューンです。

なお、タイム・レコードには翌月の1960年1月に弟のスタンリーもデビュー作「ザ・マン」を吹き込みますが、それがアルフレッド・ライオンの目に留まったのか、その後間を置かずしてスタンリーはブルーノートと契約。デビュー作「ルック・アウト」を皮切りに「ブルー・アワー」「アップ・アット・ミントンズ」と凄まじい勢いでリーダー作を発表し、一躍ブルーノートの看板スターとなります。一方、兄のトミーはその後ついにリーダー作の機会は回って来ず。ただし、サイドマンとしての彼は弟スタンリーとたびたび共演するだけでなく、ジャッキー・マクリーン「ア・フィックル・ソーナンス」、ソニー・クラーク「リーピン・アンド・ローピン」、ルー・ドナルドソン「ザ・ナチュラル・ソウル」等で魅力的なトランペットを聴かせてくれます。スターにはなれませんでしたが、名バイプレイヤーとして確かな足跡を残したと言って良いでしょう。

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ダイナ・ワシントン・ウィズ・クリフォード・ブラウン

2025-01-29 19:24:02 | ジャズ(ヴォーカル)

本日はダイナ・ワシントンです。彼女は”ブルースの女王”の称号で呼ばれていることからもわかるように、純粋なジャズシンガーと言うよりブルースやR&Bを含めた広義の黒人音楽の世界で足跡を残した人です。1963年に薬物の過剰摂取で39歳で亡くなりますが、それまでにマーキュリー/エマーシー系列の看板スターとして大量の録音を残しています。その中でもジャズファンの中で評価が高いのが1954年に吹き込んだ「ダイナ・ワシントン・ウィズ・クリフォード・ブラウン」です。ただ、この作品、原題はシンプルにDinah Jamsとなっており、クリフォード・ブラウンの名前が特にフィーチャーされているわけではありません。ご承知のとおりブラウンはこの2年後に25歳の若さで事故死し、神格化された存在となっていきますので、後に邦題を付けるときに彼の名を冠したのでしょう。ブラウンは他にヘレン・メリルやサラ・ヴォーンの歌伴を務めていますが、同じように日本盤は全て「~ウィズ・クリフォード・ブラウン」のタイトルが付いています。

本作に参加しているミュージシャンは合計10人。全員が当時エマーシーに所属していたジャズマン達です。録音はLAで行われ、当時西海岸で活動していたブラウン=ローチ・クインテット、すなわちブラウン(トランペット)、マックス・ローチ(ドラム)、ハロルド・ランド(ピアノ)、リッチー・パウエル(ピアノ)、ジョージ・モロウ(ベース)が全員加わっています。それに加えてダイナの歌伴を務めていたジュニア・マンス(ピアノ)とキーター・ベッツ(ベース)、さらにはトランペットにクラーク・テリーとメイナード・ファーガソン、白人アルトのハーブ・ゲラーも加わっています。トランペットが3人いるのも多いですが、ピアノとベースが2人ずつと言うのが異例ですね。何でもこのセッションは長時間のマラソン形式で行われたらしく、交代しながらでないと体が持たなかったのかもしれません(ドラムはローチ1人ですが)。なお、このセッションの模様は他に「ジャム・セッション」「ジャムズ2」と言うタイトルでも発売されています。

全5曲。どれも有名スタンダードばかりですが、ダイナの迫力満点のヴォーカルと一流ジャズマン達の華やかなソロのおかげで聴き応えのある作品に仕上がっています。ただし、この一連のセッションはスタジオ録音なのになぜか観客を入れて行われたらしく、拍手や歓声がしょっちゅう入ります。それも曲の終わりとかなら良いのですが、ご丁寧に誰かのソロの順番が終わるたびに拍手喝采するものですから正直耳障りでしかない。一体なぜこんな趣向にしたのか謎ですが、せっかくの素晴らしい演奏に水を差していると個人的には思います。

1曲目は"Lover Come Back To Me”。10分近い長尺の演奏でまずダイナがパンチ力抜群のヴォーカルを聴かせ、続いてクラーク・テリー→ハロルド・ランド→クリフォード・ブラウン→ベースソロ→ハーブ・ゲラー→メイナード・ファーガソン→マックス・ローチ→ピアノソロと続きます。最後のピアノはジュニア・マンスとリッチー・パウエルが2人同時に弾いているようです。トランペットが3人いますが、聴き分けはそんなに難しくなく、ややオールドファッションなテリー、ハイノートを連発するファーガソン、そしていつもながらブリリアントなブラウンと言う感じです。テリーもファーガソンもかなりの実力者ですが、やはりフレージングの滑らかさ、巧みさでブラウンが頭一つ抜きん出ていますね。

2曲目はメドレーでハロルド・ランドが”Alone Together"、ファーガソンが”Summertime"、ダイナが”Come Rain Or Come Shine"をそれぞれ受け持ちます。続くバラードの”No More"はダイナがピアノトリオをバックに歌います。ここら辺は2~3分程度のわりと軽めの演奏です。3曲目”I've Got You Under My Skin"はダイナとトランペット3人の競演です。テリー→ファーガソン→ブラウンの順でソロを取りますが、スタイルは多少違えど音の力強さは全員共通しています。何より彼らに負けないダイナのパワフルな歌声がさすがですね。

4曲目”There Is No Greater Love"は2分ほどの短いバラードで、箸休めでしょうか?ラストが11分を超す大曲”You Go To My Head”で、まず最初の2分はダイナがピアノをバックにじっくり聴かせ、3分過ぎから管楽器奏者達も加わりテンポアップします。ソロはハーブ・ゲラーが先頭でパーカー直系のアルトソロを披露し、その後はマンス→テリー→ランド→ブラウン→キーター・ベッツと受け渡し、最後はダイナが強烈なシャウトでビシッと締めます。

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ロレツ・アレキサンドリア/ザ・グレイト

2025-01-28 19:31:05 | ジャズ(ヴォーカル)

本日は黒人女性歌手ロレツ・アレキサンドリアをご紹介します。エラ、サラ、カーメンら大御所と呼ばれる人達ほどの知名度はないですが、なかなかの実力者でそれなりに固定ファンもいる存在です。出身はシカゴでもともとはゴスペルを歌っていたようですが、50年代後半にジャズ歌手としてでデビュー。シカゴの名門アーゴ・レコードに4枚の作品を発表した後、1964年にインパルスに吹き込んだのが今日ご紹介する「ザ・グレイト」です。なお、タイトルですがジャケットにはLorez Alexandria The Greatと続けて書かれており、おそらく有名な古代マケドニアのアレクサンドロス大王(英語だとAlexander The Great)に引っかけたものと思われます。

セッションは3つに分かれており、10曲中3曲がビル・マークスというあまり良く知らない人がアレンジャーを務めたビッグバンドが伴奏を務めています。パーソネルを見るとバド・シャンクやヴィクター・フェルドマンら大物も加わっているようですが、ソロは取らないので存在感が希薄です。他は10曲中4曲がウィントン・ケリー(ピアノ)、アル・マッキボン(ベース)、ジミー・コブ(ドラム)のトリオがバックを務め、さらに残りの3曲で上記のトリオにポール・ホーン(アルト&フルート)とレイ・クロフォード(ギター)が加わったクインテットによる伴奏です。ただしうち2曲はアル・マッキボンではなくポール・チェンバースがベースを弾いています。

アルバムはビル・マークスのアレンジによる"Show Me"から始まります。人気ミュージカル「マイ・フェア・レディ」からの選曲で、ちょうどこの年にオードリー・ヘップバーンによる映画も公開され、話題になっていたのでしょう。マークス絡みは全てこの「マイ・フェア・レディ」からで、他に"Get Me To The Church On Time""I've Grown Accustomed To His Face"が選ばれています。ロレツはハスキーがかった独特の声質でゴスペル仕込みのパンチの効いたソウルフルなヴォーカルを聴かせます。中でも静かなイントロから後半に向けて徐々にビッグバンドで盛り上がる"Get Me To The Church On Time"が秀逸です。

2曲目"I've Never Been In Love Before"はウィントン・ケリー・トリオをバックにした演奏で、途中でケリーのスインギーなソロも挟まれます。他はバラードの”Over The Rainbow”、拳を利かせて歌う”The Best Is Yet To Come"、軽快な”Give Me The Simple Life"もケリー・トリオを従えた曲です。ただ、個人的にはポール・ホーンとレイ・クロフォードを加えたクインテット入りの曲がお気に入りです。エリントンの名曲"Satin Doll"ではクロフォードのギター、ホーンのアルトソロを挟んでロレツが独特のリズム感で歌います。ホーンのフルートをフィーチャーした"My One And Only Love"はまずまずですが、ラストの”I'm Through With Love"が本作のベストトラックと言って良い素晴らしい出来。恋の終わりを歌った切ないバラードをロレツがエモーショナルに歌い切ります。クロフォードのギター、ホーンのフルートも彼女の名唱に彩りを添えています。ロレツはインパルスにもう1枚本作の続編と言うべき「モア・オヴ・ザ・グレイト」も残しており、そちらもなかなかおススメです。

 

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ザ・クール・ヴォイス・オヴ・リタ・ライス

2025-01-27 19:09:42 | ジャズ(ヴォーカル)

本日はリタ・ライスを取り上げたいと思います。彼女についてはかなり前にも「ジャズ・ピクチャーズ」と言う作品を一度ご紹介しました。オランダ出身ながらアメリカのジャズシーンでも活躍し、その後に登場したアン・バートンやカーリン・クローグらヨーロッパ出身の女性ジャズシンガーの走りとなった存在です。その貢献度の高さから"ヨーロッパズ・ファースト・レディ・オヴ・ジャズ"と称されているとか。本作「ザ・クール・ヴォイス・オヴ・リタ・ライス」は1956年に発表された彼女のアメリカデビューとなる作品で、オランダのフィリップス・レコードに吹き込まれ、アメリカでは大手のコロンビア・レコードから発売された作品です。この時点では器楽奏者を含めてもヨーロッパのジャズミュージシャンはほとんどアメリカでは知られていませんでしたから、かなり大々的な売り出し方だったことがわかります。

彼女の期待への高さは共演者の質の高さからもわかります。全12曲中前半の6曲は1955年にオランダで録音された地元ミュージシャンとのセッションで、当時の夫だったドラマーのヴェッセル・イルケンを中心とするコンボとのセッションです(ちなみに彼女は後にピアノのピム・ヤコブスと再婚します)が、後半の6曲は何とアート・ブレイキー&ジャズ・メッセンジャーズをバックに従えています。録音は1956年5月3日に行われ、同時期の「ニカズ・ドリーム」と同じメンバー、すなわちブレイキー(ドラム)、ドナルド・バード(トランペット)、ハンク・モブレー(テナー)、ホレス・シルヴァー(ピアノ)、ダグ・ワトキンス(ベース)です。なお、2曲だけ6月25日の録音でメンバーも若干代わっており、モブレーの代わりにアイラ・サリヴァン、シルヴァーの代わりにケニー・ドリュー、ワトキンスの代わりにウィルバー・ウェアが入っていますがそれでも十分豪華ですよね。この組み合わせが一体どういう経緯で実現したのかわかりませんが、ジャズ・メッセンジャーズが歌伴を務めること自体も稀ですので、色々な意味で貴重な録音です。

全12曲、全て良く知られたスタンダード曲ばかりで、選曲としては面白みがありません。ただ、リタの少しハスキーがかった魅力的な歌声とバックの演奏の質の高さのおかげで聴き応えある作品となっています。前半はオランダのミュージシャンをバックに"It's All Right With Me""But Not For Me""There Will Never Be Another You"等を歌いますが、曲によってジェリー・ヴァン・ローエン(トランペット)、トーン・ヴァン・フリート(テナー)、ハーマン・スクンダ―ヴァルト(バリトン)、ロブ・マドナ(ピアノ)ら聞いたことないメンバー達がソロを取ります。

彼らの演奏も決して悪くはないですが、やはり注目は後半ですよね。嬉しいことにどの曲でもジャズ・メッセンジャーズの面々が短いながらもきちんとソロを取ってくれますので、ドナルド・バードのイキのいいトランペット、ハンク・モブレーの歌心あふれるテナー、ホレス・シルヴァーのスインギーなピアノをしっかり味わうことができます。ボスのブレイキーもソロこそ取りませんが、お得意のドラムロールを随所で披露してくれます。"I Cried For You""You'd Be So Nice To Come Home To""That Old Black Magic""Taking A Chance On Love"どれも良いですね。もちろん主役はあくまでリタで、ハードバップの俊英達をバックに見事に歌い切っています。

"My One And Only Love”と”Spring Will Be A Little Late This Year"の2曲だけは上述のように少しメンバーチェンジがありますが、こちらも良いです。アイラ・サリヴァンは知名度はそこまで高くないですが、シカゴ出身の白人でトランペットとサックスどちらも吹く二刀流。本作ではテナーを吹いています。特に素晴らしいのが”Spring Will Be A Little Late This Year"で、リタの情感たっぷりのヴォーカルに続き、サリヴァンがメロディアスなテナーを聴かせ、続いてドナルド・バードが高らかにトランペットを響かせます。本作の中でもベストトラックと言って良いでしょう。リタ・ライスは他にもオリヴァー・ネルソンと組んだビッグバンド作品も残しており、そちらも素晴らしい出来ですのでまたの機会に取り上げたいと思います。

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