ハードバピッシュ&アレグロな日々

CD(主にジャズ・クラシック)の感想を書き留めます

ドン・フリードマン/サークル・ワルツ

2024-11-25 21:02:06 | ジャズ(ピアノ)

ジャズピアノには”エヴァンス派”と呼ばれる人達がいます。文字通りビル・エヴァンスに影響を受けたピアニスト達のことで、60年代以降に登場したピアニストの多くがそれに該当します。私がパッと思い浮かぶのはクレア・フィッシャーやデニー・ザイトリンですが、70年代以降のミシェル・ペトルチアーニやリッチー・バイラーク等もそう呼ばれていますね。ま、私は前から言っているように70年代以降のジャズはよく知らないので、彼らについて多く語ることはできないのですが・・・

今日ご紹介するドン・フリードマンもその1人で、特にこの「サークル・ワルツ」に至ってはエヴァンス派ピアノ・トリオの代表作、みたいな呼ばれ方をしています。ただ、その認識は少し誤解があるようです。確かに本作は透明感あふれるピアノトリオ作品でビル・エヴァンスを彷彿とさせる内容ですが、フリードマン自身のキャリアを見るとそうとも言えない。そもそもフリードマンは50年代中盤に西海岸で活動を始めており、エヴァンスとほぼ同時期のデビューですし、本作と前後して発表された「ア・デイ・イン・ザ・シティ」や「フラッシュバック」等の作品はフリーとまでは行きませんがかなり実験的な内容です。サイドマンとしてもブッカー・リトルの「アウト・フロント」にも参加していますし、本来はエヴァンスとは系統の違うスタイルと言って良いでしょう。

ただ、1962年5月録音の本作ではそうした実験的要素はあまり前面に出て来ず、リリカルで耽美的なピアノトリオが存分に味わえます。レーベルもリヴァーサイド、ベーシストにもエヴァンス・トリオでも活躍するチャック・イスラエルズを起用していますので、エヴァンス派にカテゴライズされても致し方なしと言う気もします。なお、ドラムには主にブルーノートで活躍するピート・ラロカが起用されています。

全7曲。うち4曲がフリードマンのオリジナル、残り3曲がスタンダードと言う構成ですが、どちらかと言うとオリジナル曲の方が良いですね。特に冒頭のタイトル曲"Circle Waltz"はリリカルで美しい旋律を持った名曲で、クリアーで研ぎ澄まされた音世界はまさにエヴァンスの「エクスプロレイションズ」を思い起こさせます。続く”Sea's Breeze"はアップテンポのモーダルな曲調でなかなか良いですし、何よりバラードの”Loves Parting"が素晴らしい。エヴァンスの"My Foolish Heart"に少し似たリリカルで美しい名曲です。ラストトラックの”Modes Pivoting"は曲名通りのモードジャズでこちらはちょっとエヴァンスにはない曲風かも?

スタンダードは”I Hear A Rhapsody"と”So In Love”がいわゆる歌モノ。前者はドライブ感たっぷりのトリオ演奏、後者はベースとドラム抜きのアグレッシブなソロ演奏で料理されています。一方、デイヴ・ブルーベックの”In Your Own Sweet Way"はスローテンポでややミステリアスな曲調にアレンジされています。以上、ところどころフリードマンならではの個性も垣間見えますが、全体的にはエヴァンス色が濃厚な知性派白人ピアノトリオの傑作です。

コメント

ズート・シムズ/クッキン!

2024-11-22 14:35:09 | ジャズ(ヨーロッパ)

本日はズート・シムズの英国ロンドンでのライヴ盤をご紹介します。1961年11月にフォンタナ・レコードに吹き込まれたもので、収録されたのは”ロニー・スコット・クラブ”。英国を代表するテナー奏者であるロニー・スコットがオーナーを務めるジャズクラブで、タビー・ヘイズの名盤「ダウン・イン・ザ・ヴィレッジ」と同じ場所です。共演メンバーはスタン・トレイシー(ピアノ)、ケニー・ナッパー(ベース)、ジャッキー・ドゥーガン(ドラム)。全員が地元イギリスのジャズマン達です。トレイシーやドゥーガンのことは良く知りませんが、ケニー・ナッパーは以前取り上げたジャズ・クーリアーズ「ザ・ラスト・ワード」にも参加していました。ジャケットのセンスはトホホって感じですが、一応「クッキン!」なのでお玉(レードル?)を腰にぶら下げているのでしょうか?60年代っぽいと言えばぽいですが・・・

ただ、内容の方は悪くないです。全6曲、うち5曲はスタンダードで、”Stompin' At The Savoy""Love For Sale""Somebody Loves Me""Gone With The Wind""Autumn Leaves”と言ったお馴染みの曲ばかり。並のジャズマンの手にかかればベタなマンネリの演奏になってしまうところですが、ズートの絶好調のプレイのおかげで聴き応えのある作品に仕上がっています。ズートのアドリブは決して原曲のメロディを大きく逸脱することなく、軽く崩しているだけのように聴こえるのですが、その崩しの加減が絶妙で、なおかつ彼特有のアーシーな「コク」のようなものが感じられます。共演陣ではスタン・トレイシーがパーカッシヴで意外と力強いピアノを、ジャッキー・ドゥーガンも”Somebody Loves Me”等で派手なドラミングを披露してくれます。なお、ラストの”Desperation”だけはオリジナル曲で英国を代表するトランぺッター、ジミー・デューカーの作。デューカーとクラブのオーナーであるロニー・スコットも参加しています。ロニー→デューカー→トレイシーが力強いソロを取った後、満を持してズートが貫録のソロで演奏を締めくくります。

コメント

タル・ファーロウ/タル

2024-11-21 19:25:22 | ジャズ(クールジャズ)

本日は通好みのギタリスト、タル・ファーロウをご紹介します。私が普段愛聴するジャズギタリストはケニー・バレルやウェス・モンゴメリー、グラント・グリーン等黒人系が多いですが、スタイル的にはかなり異なります。かと言ってジム・ホールやバーニー・ケッセル等の白人ギタリストとも少し違うような気がするし、独特の演奏をする人ですよね。どう違うのか言語化は難しいのですが・・・

解説書によるとこの人は体系的な音楽教育を受けておらず、楽譜も一切読めなかったとか。元々はペンキ職人で看板を描く仕事でジャズクラブに出入りするうちにビバップの魅力に目覚め、チャーリー・クリスチャンを真似てギターを弾き始めたそうです。それでこれだけ弾けるようになるのだから大したもんですが、何でも手が人並外れて大きく普通の人は届かない弦まで指が伸びることにより、ワン&オンリーなスタイルを手にしたようです。ジャケットを見れば確かに大きい手にも見えなくもないですね。本作はそんなタルが1950年代半ばにヴァーヴに大量に残した作品の一つで、一般的に彼の代表作と目される1枚です。録音は1956年3月。エディ・コスタ(ピアノ)、ヴィニー・バーク(ベース)と組んだトリオ作品で、ドラムが抜けた異色の編成です。

全8曲。1曲だけクラーク・テリーのバップナンバー"Chuckles”が収録されていますが、他は全て有名スタンダード曲です。オープニングの”Isn't It Romantic?"、続く”There Is No Greater Love"あたりはいたって正統派の演奏で、タル、コスタ、バークの3人が一体となってリラックスした演奏が繰り広げられます。ただ、さすがにこれがずっと続くとダレて来ますよね。そこは彼らもわかっているのか中盤からはテンポを上げてアプローチの仕方を変えてきます。3曲目”How About You"あたりから徐々にペースを上げて行き、続く"Anything Goes""Yesterdays"ではタルが超絶技巧による高速ソロを繰り出し、エディ・コスタも低音がうねうねと続く独特のピアノソロを披露します。特に"Yesterdays"はコスタのピアノがちょっとおどろおどろしささえ感じさせるほどの異様な迫力で、白人らしい大人しいジャズを予想していると面食らうかもしれません。その後はペースダウンして、バラードの”You Don't Know What Love Is"、スインギーな”Broadway"で締めくくります。個人的な好みでは”Yesterdays"はちょっとアクが強すぎるので、”How About You"あたりがちょうど良いですね。

コメント

ジョニー・グリフィンズ・スタジオ・ジャズ・パーティ

2024-11-20 18:56:51 | ジャズ(ハードバップ)

本日はジョニー・グリフィンの少し変わった作品をご紹介します。名付けて「ジョニー・グリフィンズ・スタジオ・ジャズ・パーティ」。ニューヨークのスタジオに知り合いを招き、MCを入れたパーティ形式で演奏したものです。スタジオ録音なのかライブ録音なのかどっちやねん!とツッコみたくなりますが、この頃(1960年)のグリフィンは以前「ザ・ケリー・ダンサーズ」で書いたように少し変わった試みを色々していたようなので、その一環でしょうか?

メンバーはデイヴ・バーンズ(トランペット)、ノーマン・シモンズ(ピアノ)、ヴィクター・スプロールズ(ベース)、ベン・ライリー(ドラム)と言った顔ぶれ。グリフィンのリヴァーサイド作品の中では比較的地味なメンツですが、デイヴ・バーンズはビバップ期から活躍する隠れた実力者ですし、ノーマン・シモンズもシカゴ時代からのグリフィンの旧知で、「ザ・リトル・ジャイアント」や「ビッグ・ソウル・バンド」にも楽曲を提供しています。MCを務めるのはバブス・ゴンザレス。ジャズシンガー兼作曲家、さらにジャズクラブのオーナーを務めるなどマルチな活躍をする人物だったようで、彼のおしゃべりもたっぷり収録されていますが、残念ながら何を言っているのかよくわかりません・・・

全6曲。ただし、1曲目"Party Time"はバブス・ゴンザレスのおしゃべりなのでスキップしましょう。続くタッド・ダメロンの名曲”Good Bait"が実質的なオープニングです。ジョン・コルトレーン「ソウルトレイン」の名演でも知られるこの曲ですが、グリフィンはよりソウルフルに迫ります。デイヴ・バーンズとノーマン・シモンズも好調なプレイぶり。歓声や拍手も入って演奏を盛り上げます。3曲目は定番スタンダード”There Will Never Be Another You"をバーンズ→シモンズ→グリフィンのソロ順でドライブ感たっぷりに料理します。

4曲目”Toe-Tappin'"はデイヴ・バーンズのオリジナル。実にファンキーな曲でバーンズのパワフルなソロの後、シモンズを挟んでグリフィンが怒涛のテナーソロを披露します。聴衆も興奮していますね。5曲目は一転して大人の哀愁漂うバラード”You've Changed"。バーンズとグリフィンがダンディズム溢れるバラードプレイで魅了してくれます。6曲目”Low Gravy"はバブス・ゴンザレス作となっていますが、どこかで聞いたことある曲。グリフィンも参加した「ブルース・フォー・ドラキュラ」によく似たマイナー調のファンキーチューンです。以上、グリフィンはもちろんのことデイヴ・バーンズ、ノーマン・シモンズの隠れた実力も知ることのできる1枚です。

 

 

コメント

リロイ・ヴィネガー/リロイ・ウォークス

2024-11-19 19:47:58 | ジャズ(ハードバップ)

ウェストコーストジャズと言えば白人中心のジャズと言うのが一般的な認識かと思います。確かにパッと思い浮かぶのはアート・ペッパー、チェット・ベイカー、バド・シャンク、ショーティ・ロジャース、バーニー・ケッセルら白人ばかりですが、彼らを陰で支える黒人ジャズマンが多くいたことも忘れてはいけません。特にリズムセクションには黒人が多く、ピアノのカール・パーキンス、ドラムのローレンス・マラブル、フランク・バトラー、ベースのカーティス・カウンス、ベン・タッカー、ジミー・ボンド、そして今日ご紹介するリロイ・ヴィネガーがウェストコーストジャズの屋台骨を支えていました。

ヴィネガーはもともとインディアナ出身ですが、50年代に西海岸に移住し、ウォーキングベースの名手として多くのジャズ名盤に名を連ねています。代表的なものだけでもスタン・ゲッツ「ウェスト・コースト・ジャズ」、コンテ・カンドリ「ウェスト・コースト・ウェイラーズ」、デクスター・ゴードン「ダディ・プレイズ・ザ・ホーン」、アート・ペッパー「ザ・リターン・オヴ・アート・ペッパー」、シェリー・マン「マイ・フェア・レディ」、ベニー・カーター「ジャズ・ジャイアント」、ソニー・ロリンズ「コンテンポラリー・リーダーズ」等で、他にもまだまだあります。

本作はそんなヴィネガーのリーダー作として1957年にコンテンポラリー・レコードに吹き込まれた1枚です。2管編成にヴァイブを足したセクステットで、ジェラルド・ウィルソン(トランペット)、テディ・エドワーズ(テナー)、ヴィクター・フェルドマン(ヴァイブ)、カール・パーキンス(ピアノ)、ヴィネガー、トニー・バズリー(ドラム)と言うラインナップです。ヴィクター・フェルドマンのみ英国出身の白人ですが、他は全員ウェストコーストで活躍していた黒人で、特にハロルド・ランドと西海岸黒人テナーの双璧を成すテディ・エドワーズの参加が目を引きますね。ジェラルド・ウィルソンは後年アレンジャーとして大成し、パシフィック・ジャズに何枚もビッグバンド作品を残していますが、本盤はトランペッターとしての参加です。

全7曲、ウォーキングベースの名手ヴィネガーにあやかって、全てwalkにちなんだ曲が選ばれています。1曲目"Walk On"はヴィネガーのオリジナル曲で、ズンズンとリズムを刻むヴィネガーのベースをバックに、エドワーズのソウルフルなテナー、フェルドマンのクールなヴァイブ→ウィルソンのミュートトランペット→パーキンスのピアノソロとリレーして行きます。続く”Would You Like To Take A Walk?"は一転してハリー・ウォーレン作のバラード。トランペットとテナーは抜きで、フェルドマンのヴァイブとパーキンスのピアノで美しいメロディを紡いで行きます。3曲目"On The Sunny Side Of The Street"は厳密に言うと曲名にwalkは入っていませんが、streetなのでOKということでしょうか?お馴染みのスタンダードを快適なミディアムチューンに仕上げています。

後半(レコードのB面)はマイルスの名演で有名な"Walkin'"、ミディアム調のスタンダード”Walkin' My Baby Back Home"、ダイナ・ショアやナンシー・ウィルソンの名唱で知られるバラード"I'll Walk Alone"と続き、最後はスインギーな名曲"Walkin' By The River"を快調に演奏して締めくくります。

共演陣では何と言ってもテディ・エドワーズのソウルフルなテナーが素晴らしいですね。この人は西海岸を拠点にしていたため過小評価されていますが、同世代のジョニー・グリフィンに負けない実力の持ち主と思います。一方、ジェラルド・ウィルソンはマイルスを意識したのか全てミュートトランペットを吹いていますが、こちらは正直イマイチ。アレンジャーに転身したのは正解かもしれません。その他ではカール・パーキンスはいつもながら安定の仕事ぶりですし、ヴィクター・フェルドマンのヴァイブも良いアクセントになっています。リーダーのヴィネガーは"I'll Walk Alone"で多めにソロを取るぐらいで、それ以外ではことさら自分の技を見せつけるでもなくいつもと同じように堅実にリズムを刻んでいます。

コメント