ハードバピッシュ&アレグロな日々

CD(主にジャズ・クラシック)の感想を書き留めます

ビル・エヴァンス/アイ・ウィル・セイ・グッバイ

2016-04-02 22:10:00 | ジャズ(ピアノ)

前回のエントリーでオスカー・ピーターソンのことを“偉大なるワンパターン”と評しましたが、今日取り上げるビル・エヴァンスもある意味同じですよね。60年代から70年代にかけて音楽シーンはジャズも含めて激動の時代でしたが、その中にあって一貫してスタイルを変えず、リリカルなピアノトリオ作品を発表し続けました。それでいて、マンネリに陥ることなく、常に高水準の作品を生み出し続けたのは驚嘆に値します。本作「アイ・ウィル・セイ・グッバイ」は1977年にファンタジー・レーベルに吹き込まれたもので、先日ご紹介した「ユー・マスト・ビリーヴ・イン・スプリング」と同時期の録音です。メンバーも同じでベースがエディ・ゴメス、ドラムがエリオット・ジグムンドという顔ぶれなので、いわば兄弟的な作品ですね。エヴァンスは3年後の1980年に亡くなるため、最晩年の作品にあたりますが、若い時から変わらないメロディの美しさと、逆に年を取るごとにより純度が高まっていくかのような透明感あるサウンドはまさにワンアンドオンリーの魅力ですよね。60年代以降はいわゆる“エヴァンス派”と呼ばれるピアニスト達が雨後の筍のように出現しますが、やはり本家本元は別格です。



曲はボーナストラック2曲を含めて全10曲。いわゆる有名スタンダードはハービー・ハンコックの有名な「処女航海」に収録されていた“Dolphin Dance”と、ボーナス曲のスタンダード“Nobody Else But Me”ぐらいですが、どの曲も魅力的でアルバムトータルで完成された作品となっています。タイトル曲“I Will Say Goodbye”はこの頃エヴァンスのお気に入りだったフランス人作曲家ミシェル・ルグランの作品。(“You Must Believe In Spring”もルグランの作品でしたね)1曲目のテイク1と5曲目のテイク2の2バージョンが収録されていますが、タイトル通りやや切なさを感じさせるしみじみとした曲です。2曲目“Dolphin Dance”はハンコックのオリジナルとは違いエヴァンス風のリリカルな演奏です。3曲目のジョニー・マンデル作のバラード“Seascape”や4曲目ベーシストのスティーヴ・スワロウが書いた“Peau Douce”はどちらも他人の曲でありながら、まるでエヴァンスに演奏されるために生み出されたかのようなリリカルなナンバーです。6曲目“The Opener”はアルバム中唯一の自作曲で明るく清々しい雰囲気のナンバーです。アップテンポでの軽やかなピアノタッチも素晴らしいですね。7曲目は“Elsa”“How My Heart Sings”を書いたエヴァンスの御用作曲家とでも言うべきアール・ジンダース作の“Quiet Light”。名前のとおり静謐なバラードです。そして8曲目、オリジナルLPのラストを飾るのがバート・バカラック作曲でディオンヌ・ワーウィックが歌った“A House Is Not A Home”。スタン・ゲッツも名演を残しましたが、エヴァンスの手による本作の演奏もまさに珠玉の演奏です。以上、これで作品としては完成されているのですが、CDにはボーナストラックが2曲入っています。ジェローム・カーン作のスタンダードの“Nobody Else But Me”とこれまたルグラン作の“Orson's Theme”ですが、どちらも素晴らしい演奏で確かにこれはボツにするのはもったいない。それにしても「ユー・マスト・ビリーヴ・イン・スプリング」と言い、本作と言い、晩年のエヴァンス作品の完成度の高さは素晴らしいですね。若い頃のリヴァーサイド作品群と違い、有名スタンダード曲の比率が少ないため最初は取っつきにくいかもしれませんが、作品としての完成度は決して引けを取らないと思います。

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