日本のジャズファンにはあまりかえりみられることはありませんが、ジャズの名門であるブルーノートとプレスティッジには“オルガン・ジャズ”という確固としたジャンルがあります。ブルーノートだとベビーフェイス・ウィレット、ジョン・パットン、ラリー・ヤング、フレディ・ローチ、ロニー・スミス、ルーベン・ウィルソン。プレスティッジだとジャック・マクダフ、ジョニー・ハモンド・スミス、リチャード・グルーヴ・ホームズ、女流のシャーリー・スコットあたりの名前が挙がりますね。でも、彼ら全員が束になってもかなわないほどジャズ・オルガンの世界で絶対的な存在感を放っているのが今日ご紹介するジミー・スミスですね。そもそもスミスが登場しなければ“オルガン・ジャズ”というジャンル自体が成立したかどうか。それまでゴスペルやR&Bの伴奏楽器に過ぎなかったオルガンをメインの楽器に据え、ビバップ・スタイルのジャズを演奏したのはまさにこのジミー・スミスが最初で、彼の登場はまさに革命でした。本作は1956年2月にブルーノートから発表された彼のデビュー作で、タイトルが示すようにその演奏ははそれまで耳にしたことのない“ニュー・サウンド”であり、ライヴを目の当たりにしたマイルス・デイヴィスをして“世界8番目の不思議(Eighth Wonder)”と言わしめたほどです。この後、スミスは瞬く間にジャズシーンの“ニュー・スター”となり、50年代だけで20枚ものリーダー作をブルーノートから発表する同レーベル最大の売れっ子となります。
メンバーはリーダーのスミスに加え、初期に彼の相棒を務めていたギターのソーネル・シュワルツ(ドイツ人みたいな名前ですが黒人です)、ドラムのベイ・ペリーという顔ぶれ。たった3人ですが、スミスの圧倒的なオルガン・プレイのおかげで人数の少なさを感じさせません。全9曲、アルバムは冒頭ジェローム・カーンの有名スタンダード曲“The Way You Look Tonight”で始まりますが、のっけからエンジン全開のエネルギッシュなオルガン・プレイに圧倒されます。60年近く経った今聴いても十分エキサイティングなのですから、当時の聴衆が衝撃を受けたのも納得です。他にも“Lady Be Good”“But Not For Me”と言ったスタンダード曲もスミスの手によってファンキーなジャズに生まれ変わっています。一方でスミスはバラード演奏も素晴らしく、“Midnight Sun”“The High And The Mighty”“Tenderly”ではハモンド・オルガン特有の長く伸びる音を活かして、同じ鍵盤楽器でもピアノとは全然違う独特の荘厳な世界を作り出しています。他ではシンプルなR&B調の自作曲“You Get 'Cha”“Joy”、ホレス・シルヴァーの人気曲“The Preacher”もキャッチーな演奏です。以上、全9曲どれも水準以上の出来栄えで、ジャズ・オルガンの歴史を変えた1枚にふさわしい内容ですね。