前回はハーブ・ゲラーを取り上げましたが、今回は同じハーブでもポメロイの方です。と言っても一般のジャズファンからしたらゲラー以上に「誰それ?」かもしれませんね。ボストン出身の白人トランペッターで、同地のジャズシーンにおいては重鎮的存在だったようですが、いかんせんローカル的な存在で録音数も多いとは言えません。CDとして日本で出回っているのは、同じくボストン出身のバリトン奏者サージ・チャロフと共演した「ボストン・ブロウ・アップ」ぐらいですかね。後はジョン・ルイスのビッグバンド作品やアニタ・オデイやアイリーン・クラールの歌伴で名前を見るくらいです。そんな通好みのジャズマンの作品ですが、例のJAZZ MASTERS COLLECTIONシリーズでこのたび発売となりました。1957年吹き込みのルーレット盤で、タイトルは1955年公開の映画「慕情(Love Is A Many-Splendored Thing)」をパロったものと思われます。総勢17名から成るビッグバンド作品で、ゲストでテナーのズート・シムズが参加している以外は全員が地元ボストンのミュージシャンばかりと思われます。ほとんどが無名ですが、トランペットのジョー・ゴードン、アルトのブーツ・ムッスリ、ピアノではなくテナーで参加しているジャッキー・バイアード、後にスタン・ゲッツとも共演するベースのジョン・ネヴェスあたりは名前が知られているかもしれません。なお、本作には参加していませんが、チャーリー・マリアーノもボストン出身で後にポメロイ楽団に在籍しています。
曲は全11曲。タッド・ダメロンの“Our Delight”やベイシー楽団の“Feather Merchant”“It's Sandman”等のカバーもありますが、基本的にはメンバーのオリジナル曲が中心です。全てが名曲と言うわけでもありませんが、重厚なトロンボーンアンサンブルで始まる1曲目“Blue Grass”、ムッスリ作の急速調ナンバー“Jack Sprat”、ジャッキー・バイアードが書いた幻想的なバラード“Aluminium Baby”、ポメロイ作のパワフルな“No One Will Room With Me”等が聴きモノです。演奏の方はさすがにベイシー楽団やエリントン楽団と比べるとアンサンブルがこなれておらず、勢い任せの面は否めませんが、それでもエネルギッシュなビッグバンドサウンドは一聴の価値があります。ソロ奏者としては既に挙げたズート・シムズやジョー・ゴードン、ブーツ・ムッスリあたりが見事なプレイを繰り広げる一方で、それ以外のレニー・ジョンソン(トランペット)、ヴァーティ・ハルチュニアン(テナー)、ディーン・ハスキンズ(バリトン)、ジーン・ディスタシオ(トロンボーン)、レイ・サンティシ(ピアノ)等の無名ミュージシャン達も活きのいいソロを聴かせてくれます。なお、リーダーであるポメロイ自身は“Theme For Terry”で短いソロを取りますが、他はアンサンブル要員でもっぱらバンドリーダーに徹しています。ジャズ史で取り上げられることはほとんどありませんが、50年代のボストンのジャズ・シーンの熱気を伝える掘り出し物の1枚と思います。