本日はJAZZ MASTERS COLLECTIONシリーズからハーブ・ゲラーの作品をご紹介します。ゲラーと言えば50年代の西海岸を中心に活躍した白人アルト奏者ですが、一般的なジャズファンの認知度はいかほどでしょうか?同時期に活躍したアート・ペッパーやバド・シャンクに比べればワンランク低いのが実情かもしれませんね。ただ、実力は決して彼らに劣りませんよ。スタイル的にはチャーリー・パーカーの影響を強く受けており、当時流行のウェストコーストジャズよりもだいぶハードバップ寄りなのが特徴です。アルバムとしては奥方であるピアニストのロレイン・ゲラーと共演したエマーシー盤「ゲラーズ」、ケニー・ドーハムやハロルド・ランドと共演したハードバップ色の濃い「ファイアー・イン・ザ・ウェスト」が知られていますが、ジュビリー・レコードに1957年に吹き込んだ本作も知られざる傑作です。クインテット編成でメンバーはゲラーのほかに、ヴィクター・フェルドマン(ヴァイブ)、ウォルター・ノリス(ピアノ)、リロイ・ヴィネガー(ベース)、トニー・ベイズリー(ドラム)という顔ぶれです。後にピアニストとしても活躍するフェルドマンは同年にイギリスから移住してきたばかりで、本作ではヴァイブに専念しています。また、ノリスもフリー・ジャズの旗手オーネット・コールマンと共演したりしていますが、ここではもちろん正統派のプレイに徹しています。
全5曲。レコードで言うA面3曲がゲラーの自作曲で、B面2曲がスタンダード曲という構成です。1曲目は“Nightmare Alley”というユニークなタイトルの曲。哀調あふれるマイナーキーのメロディの曲で最初はスローテンポ、途中から倍速となり、ゲラーをはじめメンバーの熱いソロが繰り広げられます。2曲目の“A Cool Day”はいかにもウェストコーストらしい爽やかなミディアムテンポの曲で、ノリス→ゲラー→フェルドマンの順で軽快にソロを取って行きます。3曲目“The Princess”もシャープなウェストコーストジャズという感じ。4曲目“Change Partners”はフレッド・アステアがヒットさせたというスタンダード曲。モダンジャズでの演奏は珍しいですが、なかなか魅力的なメロディを持つ名曲です。原曲はロマンチックなバラードですが、ここではアップテンポで演奏されており、ドライヴ感満点の名演となっております。ラストを飾る“It Might As Well Be Spring”は言わずとしれたリチャード・ロジャースの名曲。ノリス→フェルドマンの端正なソロに続くゲラーの歌心あふれるアルトが胸に沁みます。4本のサックスの前で金髪美女が奇妙なポーズを取るジャケットのセンスはいただけませんが、サヴォイと並ぶ珍ジャケの宝庫であるジュビリーならではのご愛敬です。内容的にはウェストコーストの隠れ名盤と言ってよいでしょう。