ハードバピッシュ&アレグロな日々

CD(主にジャズ・クラシック)の感想を書き留めます

ユタ・ヒップ・アット・ザ・ヒッコリー・ハウス

2017-02-28 13:04:32 | ジャズ(ピアノ)

本日はブルーノートの隠れ人気盤として有名なユタ・ヒップの2枚組ライブをご紹介します。名前からして特徴的ですが、それもそのはず演奏者はドイツ人、しかも女性ピアニストです。これは当時のブルーノートではかなり異例と言っていいでしょう。ブルーノートの社長であるアルフレッド・ライオンはドイツ出身のユダヤ人ですが、彼の情熱の対象はもっぱら黒人ジャズであり、50年代に大流行した白人中心のウェストコースト・ジャズには目もくれませんでした。本作はいわゆるブルーノートの1500番台、つまり50年代前半から中盤にかけてのハードバップの名演が多く録音されているシリーズに属していますが、他のラインナップを見るとジミー・スミス、ホレス・シルヴァー、リー・モーガン、ハンク・モブレーとどれもファンキーな黒人ジャズばかりです。ヨーロッパ出身で、なおかつ女性ピアニストである彼女の存在はひときわ異彩を放っていると言っていいでしょう。なんでもジャズ評論家として有名なレナード・フェザーがドイツで彼女の演奏を聴いてベタ惚れ。彼女をニューヨークに招待し、ヒッコリー・ハウスというクラブに出演したところ、それを聞きつけたライオンが録音した、というのが本作の誕生の背景だそうです。録音は1956年4月5日。バックを務めるのはピーター・インド(ベース)とエド・シグペン(ドラム)です。



さて、レナード・フェザーにアルフレッド・ライオン。この2人の大物の心を動かした演奏はいったいどんなものか?聴く前に思わず身構えてしまいますが、スタイル的にはごくオーソドックスなピアノ・トリオです。曲も全20曲中半分以上はよく知られた歌モノのスタンダードで、それらの演奏は軽快なピアノトリオではありますが、特に際立った個性があるとは言えません。ただ、ビバップやブルースも何曲か取り上げており、それらの演奏がなかなか素晴らしいですね。チャーリー・パーカーの“Billie's Bounce”に、タッド・ダメロンの“Lady Bird”“The Squirrel”とバップの定番曲を実に生き生きと演奏していますし、ブルースの名曲“After Hours”では糸を引くような粘っこいフレーズを聞かせてくれます。唯一の自作曲“Horacio”はタイトルからして恐らくホレス・シルヴァーを意識したのではないかと思わせるハードバップ調の曲です。これらの演奏を聴くと、彼女が黒人ジャズに深く傾倒していたことが如実にわかります。ドイツから来た白人女性が黒人さながらのバップを聴かせる。きっとそのギャップにフェザーもライオンもやられたのでしょうね。その3ヶ月後に彼女はズート・シムズとの共演作「ユタ・ヒップ・ウィズ・ズート・シムズ」をブルーノートに録音(これがまた素晴らしい出来で、個人的にはそちらの方が好きです)。ただ、その作品を最後にあっさりと音楽界から引退。その後は画家としてニューヨークでひっそり暮らしたそうです。

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