本日は過小評価されたトランペッター、ジョー・ゴードンの作品をご紹介します。ゴードンは元々ボストンの出身で東海岸でプレイしていました。その頃の作品にはドナルド・バード「バーズ・アイ・ヴュー」、ホレス・シルヴァー「シルヴァーズ・ブルー」等があります。また、同郷のハーブ・ポメロイのビッグバンドにも在籍していました。ただ、当時の東海岸は群雄割拠の時代。確かな腕を持ったゴードンですが、リー・モーガンやドナルド・バードなどの若武者たちに押され、あまり活躍の機会は回ってきませんでした。そこで、活路を求めたのが西海岸。1958年頃にロサンゼルスに移住して活動を始め、本ブログでも紹介したシェリー・マンの「アット・ザ・ブラックホーク」はじめ、ハロルド・ランドやバーニー・ケッセルらの作品に参加しています。ただ、それでもリーダー作の機会はなかなかなく、ようやく巡ってきたのが、1961年7月6日録音のこのコンテンポラリー盤というわけです。共演メンバーはジミー・ウッズ(アルト)、ディック・ウィッティントン(ピアノ)、ジミー・ボンド(ベース)、ミルト・ターナー(ドラム)です。なお、ゴードンは東海岸時代にもエマーシーに1枚だけリーダー作を残していますが、内容的にはこちらの方が断然上と思います。
全8曲。スタンダードや他人の曲は1曲もなく、全てゴードンのオリジナルという意欲的な構成です。失礼ながらメンバーもかなり地味ですし、知ってる曲が1曲もないとなれば、聴く前は正直身構えてしまいますが、これがなかなかの充実した内容で、ジャズの奥深さを感じさせてくれます。西海岸録音ですが、ピアノのウィッティントン以外は全員黒人ということで、基本的にはハードバップです。ただし、1961年録音とあって、少しモーダルな雰囲気も漂わせています。特にアルトのジミー・ウッズのプレイは明らかに60年代っぽいですね。ピアノのウィッティントンは本作以外で見かけたことがないですが、シャープなソロを聴かせてくれます。
アルバムはデューク・ピアソンの”Jeannine"に少し似たキャッチーなメロディの"Terra Firma Irma"で始まります。こういう事前情報の少ない作品は1曲目がショボいと聴く気をなくしますが、つかみはOK!って感じですね。続く"A Song For Richard"はマイナー調のミディアムナンバーで、ゴードンがマイルスばりのミュートプレイを聴かせてくれます。この曲と4曲目"You're The Only Girl In The Next World For Me"、6曲目のラテンリズムの"Mariana"あたりはモード色強めです。3曲目"Non-Viennese Waltz Blues"と5曲目"Co-Op Blues"は文字通りファンキーなブルースですが、出来はまあまあと言ったところ。7曲目"Heleen"は本作のもう1つのハイライトとも言える美しいバラード。ゴードンの情感たっぷりのトランペットとウィッティントンの透明感あふれるピアノソロが素晴らしいです。ラストは軽快なドライブ感たっぷりの"Diminishing"で締めくくります。念願のリーダー作も発表したゴードンですが2年後の1963年11月4日に自宅の火事により35歳の生涯を閉じます。同じく早死にしたクリフォード・ブラウンやリー・モーガンと比べて語られることもほとんどないゴードンですが、その才能は確かだったことは残された本作を聴けば分かります。
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