ハードバピッシュ&アレグロな日々

CD(主にジャズ・クラシック)の感想を書き留めます

アル・グレイ/スナップ・ユア・フィンガーズ

2025-01-10 19:03:59 | ジャズ(ハードバップ)

本日はトロンボーン奏者のアル・グレイをご紹介します。名前だけ聞くと紅茶のアール・グレイみたいで優雅な名前ですが、実際はちょっとコワモテの黒人のおじさんです。もともとはビッグバンド畑で活躍していた人でディジー・ガレスピー楽団、次いでカウント・ベイシー楽団に所属し、プランジャー・ミュート奏法の名人として知られていたそうです。プランジャー・ミュートとはお椀みたいなものをベル(朝顔)の部分にかぶせて♪ポワワワ~ンとちょっと間の抜けた音を出す奏法ですね。ジャケットでグレイが左手に持ってるのがそうです。ちなみにプランジャー(plunger)と言えば響きがいいですが、要はトイレが詰まった時に使うスッポンのことらしいです。実際にトロンボーンを吹く人もスッポンを代用したりするとか。

さて、グレイはビッグバンドで活躍するかたわら、並行してスモールコンボでの演奏も活発に行っています。まず、ディジー・ガレスピー楽団在籍時に先日ご紹介した「ディジー・アトモスフェア」に参加。明確なリーダー不在のセッションですが、ビリー・ミッチェルやリー・モーガンと共に主導的役割を果たしています。その後、1960年にシカゴを拠点とするアーゴ・レコードと契約し、合計7枚のリーダー作を同レーベルから発表します。本作「スナップ・ユア・フィンガーズ」はそのうち4番目の作品で1962年1月から2月にかけて収録されたものです。

セッションは2つに分かれており、メンバーも多少異なるのですが、共通するのはテナーのビリー・ミッチェル。実はグレイとミッチェルは切っても切れない関係で、上述のガレスピー楽団やベイシー楽団で同僚だっただけでなく、一連のアーゴ作品でも本作までの4作品で全て共演しています。よっぽど仲良しだったんですね。その他に両方のセッションに参加しているのはボビー・ハッチャーソン(ヴァイブ)、ハーマン・ライト(ベース)、エディ・ウィリアムズ(ドラム)の3人。ジャズファン的には"ボビハチ"の愛称で知られるハッチャーソン(以降ボビハチ)の参加が意外ですよね。後にブルーノート新主流派路線で活躍する彼のスタイルとグレイは全然合わないような気がしますが、もともと生地のカリフォルニアでプレイしていたボビハチを西海岸にツアー中だったアル・グレイが起用し、本作に参加させたようです。この後、ボビハチはニューヨークに移住しますので、いわば本作が飛躍のきっかけとも言えます。

その他のメンバーは1月のセッションがデイヴ・バーンズ(トランペット)とフロイド・モリス(ピアノ)、2月のセッションがドナルド・バード(トランペット)とハービー・ハンコック(ピアノ)です。こんなところにハンコックの名前が出てきてまたビックリですが、彼もまたデビューしたてでドナルド・バードのバンドに所属していた頃でバードと一緒に参加したのでしょう。

それでは演奏の方を聴いてみましょう。まずは1月31日のスタジオセッション。オープニングはビリー・ボーウェンと言うよく知らない人(サックス奏者らしい)が書いた"Nothing But The Truth"と言う曲。いきなりタンバリンが入ったノリノリのダンスナンバーで、ちょっと意表を突かれます。まあタイトルのsnap fingersは要は”指パッチン”のことですからね。グレイが例のプランジャーを使った陽気なソロを取ります。2曲目"Three-Fourth Blues"はジーン・キーのオリジナル。この人も誰?ですが、ピアニストでグレイの前回の作品に参加していたらしい。この曲もアップテンポのファンキーチューンでフロイド・モリス→バーンズ→ボビハチ→グレイの順でソロを取ります。このフロイド・モリスと言う人も謎なのですが、シカゴをベースにしていたR&B系の人っぽいです。

このままソウル~R&B路線が続いて行くのかと思いますが、3曲目は女流トロンボーン奏者メルバ・リストンの書いた"Just Waiting"で雰囲気が変わります。実に美しいバラードでこの曲はビリー・ミッチェルの独壇場です。なお、この曲はミルト・ジャクソンもリヴァーサイド盤「フォー・サムワン・アイ・ノウ」で演奏していました。リーダーのグレイはソロを取りませんが、まあ親友に花を持たせたのでしょう。4曲目”R.B.Q."は再びジーン・キー作のファンキーチューン。この曲がとっても良くて個人的には本作のベストトラックと思います。3管の力強いアンサンブルをバックに各楽器がソロを取る構成で、一番手はボビハチ。後のブルーノートでのクールで知的なイメージとは違い、ファンキーなマレット捌きです。その後はミッチェル→バーンズ→グレイとソウルフルなソロをたっぷり聴かせてくれます。5曲目”Green Dolphin Street"はお馴染みのスタンダードですが、この曲はボビハチが一転してクールで躍動感あふれるヴァイブを全編で披露します。リーダーのグレイはまたしてもソロなしです。

後半はガラリと雰囲気が変わり、2月19日に行われたニューヨークの名門バードランドのライブです。”Minor On Top"はグレイ&ミッチェルとはベイシー楽団の同僚であるサド・ジョーンズのバップチューン。ビリー・ミッチェルとボビハチが素晴らしいソロを披露します。グレイはまたまたソロなしですが、それでいいのかな?ラスト2曲はピアニスト兼作編曲家で有名なランディ・ウェストンの曲。まずは”African Lady"。組曲風の曲では最初はバラードでグレイがムーディーなソロを吹いた後、途中で転調してアップテンポになりミッチェルのソロ→最後は再びスローに戻ってグレイのソロで終わります。ラストトラックはウェストンの代表曲の”Hi-Fly"。キャノンボール・アダレイらで有名な曲ですね。ソロ1番手はビリー・ミッチェルでその後はようやく登場したドナルド・バード→ボビハチの順でソロを取ります。この曲は9分以上ある長尺の演奏ですが、グレイのソロはなしで結局8曲中半分の4曲でソロを取らないと言う異色の作品です。グレイが「俺は別にいいから」的な控えめな性格だったのか、それとも2つのセッションを無理矢理グレイのリーダー作に仕立てあげたのかは謎です。

以上、これをグレイのリーダー作とすべきなのかと言う問題はさておき、演奏自体はそこそこ楽しめるアルバムです。特にボビハチやビリー・ミッチェルは結構目立っていて準リーダーと言って良いぐらいです。一方、ドナルド・バードやハービー・ハンコックはビッグネームの割にほとんど存在感がないので(ハンコックは伴奏のみ)、彼らを目当てにこのアルバムを買うのはやめた方が賢明でしょう。


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