ビル・エヴァンスはリヴァーサイド・レコードに合計10枚の作品を残しましたが、その中でも名盤の誉れが高いのがスコット・ラファロ(ベース)、ポール・モティアン(ドラム)と組んだ「ポートレイト・イン・ジャズ」「エクスプロレーションズ」「サンデー・アット・ザ・ヴィレッジ・ヴァンガード」「ワルツ・フォー・デビー」の4作品で、ジャズファンからは"リヴァーサイド4部作"と称され昔から愛されています。中でも「ワルツ・フォー・デビー」はジャズ史上に燦然と輝く傑作ですが、そのライヴが行われたのが1961年6月25日。そのわずか11日後にスコット・ラファロは交通事故で死んでしまいます。享年25。この悲劇にエヴァンスはかなりショックを受けたようで、その後しばらくは演奏活動をストップしてしまいます。
翌1962年5月にようやく傷の癒えたエヴァンスが初めて吹き込んだピアノトリオ作品が今日ご紹介する「ハウ・マイ・ハート・シングス」です。ラファロの後任として迎えられたのはチャック・イスラエルズ。この時点で既にコルトレーンやエリック・ドルフィーとも共演歴のあった実力派です。なお、ドラムはポール・モティアンが引き続き務めています。セッションは翌6月まで4回に分けて合計16曲が収録され、本作ともう1枚「ムーンビームス」が発売されています。どちらかと言うと「ムーンビームス」はスタンダード中心、本作はオリジナル曲多めです。
アルバムはアール・ジンダース作の美しいタイトルトラック”How My Heart Sings"で幕を開けます。このジンダースと言う人はエヴァンス御用達の作曲家と言って良く、他にも「エクスプロレーションズ」の"Elsa"、「フロム・レフト・トゥ・ライト」の"Soiree"、「アイ・ウィル・セイ・グッバイ」の"Quiet Light"等を作曲しています。どれも非常に魅力的な楽曲ばかりだと思うのですが他ではあまり名前を目にすることはないですね。不思議ですが、まあエヴァンスが演奏すればどんな曲でも美しく聴こえるので、その効果もあるのかも?
それ以外はエヴァンスのオリジナルが3曲。”Walking Up"はアップテンポで出だしがコルトレーンの"Giant Steps"に似ています。"34 Skidoo"はタイトルが意味不明ですが、昔アメリカで流行った魔法陣ゲームの名前らしいです。ややとっつきにくい曲ですが、エヴァンス自身は気に入っていたのかその後ライブでたびたび取り上げています。"Show-Type Tune"はアルバムのラストを飾る軽やかでスインギーな曲です。
スタンダードは歌モノの””I Should Care"”Summertime"、デイヴ・ブルーベックの”In Your Own Sweet Way"と言った定番曲が収録されていますが、どの曲も彼ならではの"崩し"が入っており、他とは違うエヴァンス風の演奏に仕上がっています。特に"Summertime"は途中で一体何の曲を演奏しているのかわからなくなるくらい大胆にアレンジされていますね。一方、コール・ポーターの”Ev'rything I Love”は原曲の美しいメロディを活かしたロマンチックな演奏で個人的にはおススメです。ぶっちゃけエヴァンスのリヴァーサイドの傑作群の中では一番地味な作品で取り上げられることも少ないですが、それでも十分クオリティは高いと思います。
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