ハードバピッシュ&アレグロな日々

CD(主にジャズ・クラシック)の感想を書き留めます

ザ・ファビュラス・ファッツ・ナヴァロVol.1

2016-01-16 23:52:02 | ジャズ(ビバップ)

先日のチャーリー・パーカーに続き、本日もビバップの作品を取り上げたいと思います。ビバップ期のトランペッターと言えば、パーカーとも共演の多いディジー・ガレスピーが有名ですが、彼以上に才能があったと言われるのがこのファッツ・ナヴァロです。本名はセオドアですが、大食漢の肥満体型だったために、太っちょを意味するFatsの愛称が付いたそうです。しかしながら、重度のヘロイン中毒だったために健康を害し、1950年にわずか26歳で世を去りました。パーカーも麻薬が原因で命を縮めましたが、それでも34歳まで生きたことを考えるとナヴァロの短命ぶりが際立ちますね。残された録音は決して多くはないですが、サヴォイ盤「ノスタルジア」とブルーノートから発表された「ザ・ファビュラス・ファッツ・ナヴァロVol.1」と「Vol.2」でその天才ぶりを知ることができます。3枚のうちサヴォイ盤は残念ながら音が悪いので、ブルーノートの2枚、特にこの「Vol.1」が音質も曲も良いのでお薦めです。



ボーナストラックも含めて全11曲、別テイクを除けば実質7曲です。核となるのは1947年9月のセッションで、チャーリー・ラウズ(テナー)、アーニー・ヘンリー(アルト)、タッド・ダメロン(ピアノ)、ネルソン・ボイド(ベース)、シャドウ・ウィルソン(ドラム)から成るセクステットです。実質のリーダーはナヴァロではなくダメロンで、4曲全てを彼が作曲しており、後にジャズ・スタンダードとなる“Our Delight”はじめ、“The Squirrel”“The Chase”“Dameronia”と名曲揃いです。ファッツ・ナヴァロのブリリアントなトランペットは確かに素晴らしく、なぜ彼が天才と呼ばれたのか十分に得心がいくものです。ただ、個人的にはタッド・ダメロンの作曲センスとアレンジの秀逸さに感心しています。ビバップ期は良くも悪くもアドリブ一発勝負的な面があったのですが、本作で聴ける3管編成での洗練されたアレンジは後のハードバップを予感させるものです。

残り3曲のうち1曲“Double Talk”は、1948年10月の録音。同じくビバップ期に活躍したトランペッターのハワード・マギーとの双頭コンボによるセッションで、アーニー・ヘンリー(アルト)、ミルト・ジャクソン(ピアノ)、カーリー・ラッセル(ベース)、ケニー・クラーク(ドラム)の編成です。後にヴァイブの第一人者となるミルト・ジャクソンがピアノで参加しているのが珍しいですが、プレイはあくまで無難という程度。何と言ってもナヴァロとマギーの熱いトランペット・バトルが聴きモノです。あとの2曲はボーナス・トラックで、バド・パウエルの「ジ・アメイジング・バド・パウエルVol.1」に収録されている1949年8月のセッションから“Wail”“Bouncing With Bud ”の別テイクです。こちらはプライベートで仲が悪かったナヴァロとパウエルの“喧嘩セッション”としてジャズファンの間で有名ですが、もう一つ18歳のソニー・ロリンズの初レコーディングとしても歴史的価値のあるものです。結局、ナヴァロはこのセッションから1年も経たない間に麻薬による衰弱の末、肺結核で死んでしまいます。最後は太っちょ(Fats)のニックネームが嘘かのように、ガリガリに痩せていたそうです。悲劇的な人生を終えたナヴァロですが、本作のように60年以上経った今でもCD化され、多くのジャズファンに聴き継がれているのは不幸中の幸いかもしれませんね。

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