ハードバピッシュ&アレグロな日々

CD(主にジャズ・クラシック)の感想を書き留めます

ワーデル・グレイ・メモリアルVol.2

2016-03-11 23:36:48 | ジャズ(ビバップ)
本日はビバップ期に活躍した伝説のテナー奏者、ワーデル・グレイを取り上げます。デトロイト出身で、1940年代後半に西海岸をメインに活躍。特にデクスター・ゴードンとのテナーバトルで一躍有名になりました。ただ、1955年に34歳で夭折してしまいます。ジャズマンで若くして死んだ人は他にもたくさんいますが、グレイのケースはその中でも特異で、死因は撲殺。ラスヴェガス郊外で首の骨を折られた他殺体で発見され、犯人不明のまま事故死として扱われたそうです。愛人に射殺されたリー・モーガンと同じくらいショッキングな死に方ですね。ただ、グレイの本当に悲惨なところは、彼の死が当時のジャズ界でそれほど大きなニュースにならなかったことではないでしょうか?と言うのも50年代に入ってからのグレイは麻薬に溺れ、特に死ぬ前の数年間は録音も数えるほどで、プレイも精彩を欠いていたとか。殺された原因もおそらく麻薬絡みのトラブルでギャングに消された説が有力だそうです。そんなグレイだけに残された録音はあまりありませんが、代表的なのがプレスティッジに残された「ワーデル・グレイ・メモリアルVol.1」と「Vol.2」です。「Vol.1」の方には後にアニー・ロスが歌詞を付けて歌った“Twisted”が収録されていますが、アルバム全体としての出来はそれほどでもないので、「Vol.2」の方をむしろお薦めします。



全18曲、別テイクの6曲を除けば実質12曲です。録音年月も場所も違う3つのセッションの寄せ集めですが、どれも充実の出来です。まず、最初の4曲は1950年4月に出身地のデトロイトで行われたセッション。グレイのワンホーンカルテットでリズム・セクションはフィル・ヒル(ピアノ)、ジョン・リチャードソン(ベース)、アート・マーディガン(ドラム)。後にスタン・ゲッツとの共演歴もあるマーディガンを除けば無名のメンバーですがおそらく地元のミュージシャンでしょう。ただ、グレイは絶好調です。1曲目“Blue Gray”は自作曲となっていますが、実際は“Blue Moon”のコード進行を少し変えてミディアムテンポにしただけのものですが、朗々と歌うグレイのテナーが素晴らしいです。2曲目“Gray Hound”と4曲目“Treadin'”はシンプルなブルースですが、ここでは力強いブロウでぐいぐい引っ張ります。一転してスローバラード“A Sinner Kissed An Angel”では、ムードたっぷりのソロを聴かせてくれます。

5曲目から10曲目は1952年1月ロサンゼルス収録のセッション。グレイ、アート・ファーマー(トランペット)、ハンプトン・ホーズ(ピアノ)、ハーパー・クロスビー(ベース)、ローレンス・マラブル(ドラム)、ロバート・コリアー(コンガ)から成るセクステットです。ジャズファン的には若き日のファーマーとホーズ(どちらも当時23歳)の参加に注目ですね。ホーズは“Jackie”、ファーマーは“Farmer's Market”と自作曲も提供していてどちらもなかなかの佳曲です。もっとも主役はあくまでグレイで、コンガの野性的なリズムに乗せて縦横無尽のアドリブを繰り広げる様が圧巻です。ファーマーとホーズもキラリと光るソロを聴かせてはくれますが、グレイの前では完全に脇役ですね。

ラスト2曲は1950年8月にロサンゼルスのクラブで行われたライブの模様を録音したもので、音質はあまり良くないですが、当時の俊英達の熱きアドリブ合戦が記録されています。まず“Scrapple From The Apple”はおなじみチャーリー・パーカーのバップ・チューン。メンバーはグレイに加え、クラーク・テリー(トランペット)、ソニー・クリス(アルト)、ジミー・バン(ピアノ)、ビリー・ハドノット(ベース)、チャック・トンプソン(ドラム)という布陣です。続く“Move”ではさらにかつての僚友デクスター・ゴードンが加わり、2テナーでソロを競います。先発はおそらくグレイで、激しいブロウでありながら決してメロディを踏み外さないのが彼の真骨頂ですね。テリーのトランペットを挟んで、次はゴードン。こちらも迫力満点のブロウですが、フレージングの滑らかさと言う点ではグレイに軍配が上がるか?というのが私の感想です。奇しくもゴードンも50年代はグレイ同様麻薬に溺れ、引退同然の生活を送りますが、その後60年代にブルーノートから華麗に復活したのは皆さんご承知のとおり。本作でのグレイを聴く限り、才能的には決してゴードンに劣っていなかっただけに、非業の死を遂げたことが本当に惜しまれますね。
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