広く浅く

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バス会社社長の転機

2011-10-27 23:09:22 | 秋田のいろいろ
今日の朝日新聞秋田版(28面第2秋田)の「私の転機」というインタビュー記事(“ひとり語り”形式)に、秋田市などで路線バスを運行する秋田中央交通のワタナベ社長が出ていた。
いろいろと思うところがあるので、一部を引用して、ツッコませていただく。

10月から秋田市と協力し、70歳以上の市民に市内を走るバスを100円均一にし、バスの系統に番号もつけました。わかりやすさの重視です。」(←前半の文章がちょっとおかしい気がする)
まず、高齢者の乗車料金100円均一制度、すなわち秋田市の「高齢者コインバス事業」だが、これは秋田市役所主導の事業だと捉えていた。
事実、中央交通のサイトを見ても、秋田市の担当課へのリンクがあるだけで他人事扱いだし、結局は秋田市からおカネをもらうんでしょ。
「秋田市と協力し」ではなく、「秋田市に協力させもらって」じゃないの?

それに系統番号表示。番号はまあいいにしても、あの文字表示では「わかりにくさ重視」です。


「(高齢者100円開始から)まだ半月ですが、運転手への聞き取り調査では乗客が増えた印象です。
僕も、9月以前よりも乗客がやや増えた印象は受ける。
しかし、それは、同時に行われた大幅な減便によって、数少ないバスに乗客が集中してしまった結果かもしれない。
僕の知る人は、毎週1度、同じ時刻に同じ場所へ出かける用事がある。今までは行きも帰りもバスを利用していたのだが、行きに利用していたバスが減便によってなくなってしまったため、車で送ってもらうようになった。少なくとも、バス利用者が1人減ったのだ。(帰りはバスがあるので引き続きバスを使っている)
現段階では詳細なデータがまだ集まっていないだろうけど、バス1台(1便)当たりでは乗客が増えただけであって、乗客総数は変わらないかむしろ減っているかもしれませんよ!


「(車社会ではあるが、)高齢者や学校に通う子どもたちはバスが頼りです。私が路線の維持にこだわる原点です。
中央交通では「高齢者と子どものために路線バスを走らせてる」ということか?
それはたしかにそうだが、それだけではいけないと思う。
まず、高齢者が100円になったといっても、70歳以上の秋田市民だけ。
同社運行エリアであっても市外在住の人、それに市外から秋田市の病院などへ来る人、そして69歳以下でバスを必要とする人には何のメリットもない。(年金支給開始を68歳にするとか言っているけど、その先取りか?)
また、高齢者や子どもでない人(=普通の大人)にも、若いうちからバスに乗ってもらってバスを利用する習慣を身につけさせることもできるだろうし、観光客向けの路線や乗車制度、中学生・高校生向けの優待料金、親子で利用した場合の割引なども考えられるはず。
特定の世代でなく、「みんなに頼りにされる」路線バスを走らせるべきだ。

それと、前も書いたけど、今は「現状の路線を経路を変えずにそのまま維持すること」にとらわれているようにも感じる。
それが結果的に時代の変化についていかれず、ニーズと一致せず、客が減って減便につながっているのではないだろうか。新しい道路や施設、人口分布の変化を考慮し、思い切った路線網の見直しが必要な時期にきていると思うだが。
「路線の維持にこだわる」のはいいがひとりよがりの維持では困る。乗客の需要・要望を踏まえ、本当に必要とされる路線に変えていくべきだと思う。


2000年に(中略)秋田市交通局の路線バス事業を統合する決断をしました。
まるで、御社が交通局廃止を決断されたような物言いですな。
「統合する決断」ではなく「全路線を引き受ける決断」じゃないの?


行政改革を議論した市の特別委員会で「一緒になった方がいい」と発言しました。批判もたくさんありました。でも会社を存続させるための決断でした。競争で疲弊し、共倒れになれば一番困るのはお客さん。それを避けるためでした。
カッコよさそうだけど、「会社を存続させるための決断」って、「保身のため」とも受け取れなくもないと思えてしまうのは、僕だけ?
(社長は以前、魁新報にも同様のコメントをしていた)

「競争で疲弊し、共倒れになれば一番困るのはお客さん。」はそうだけど、現状は「路線移管でサービスが低下し、今現在、実際に困っているのが、我々お客さん。」なのですよと教えてやりたい。
市営バス時代のサービスが良すぎたという面もあるし、中央交通に押し付けたかのような秋田市のやり方にも問題はあると思うが、ともかく、以前より不便になって困っているバス利用者がいることは分かってくれているのだろうか。


「(明るい話題として)12年夏にも完成する秋田市中心市街地の再開発。100円均一のバスを走らせ、活気を取り戻したい。
何度か伝えているように、秋田市の市街地では「駐車場の収益を元に無料の乗り物(タウンビークル)を走らせる」という構想があった。
それを受けてこの社長は、民間でできることを行政がやるべきでないとした上で、「100円バスならうちで運行できるかも」と発言したことがあったものの、その後、話は聞こえて来なかった。
最近、いつの間にかタウンビークルの「駐車場の収益うんぬん」はないことにされてしまい、一方では秋田県が電動バスを開発し、市街地で実証実験をするような話も出ていた。

あの社長の100円バスの話は立ち消えたのかと思っていたが、これを見ると、まだその意向はあるということなのだろうか。
一体全体、どうなるのやら。
行政でも民間でもいいから、誰かやってよ! これこそ、「困るのはお客さん」なのですから。
【2016年8月21日追記】その後、「秋田市中心市街地循環バス『ぐるる』」が運行された。
車両と乗務員は秋田中央交通のものだが、運行主体は秋田市。中央交通は運行を委託されているだけで、秋田市の税金から多くの費用が投入されている。したがって、中央交通が自発的・自主的に運行しているものではないので、このインタビューでの社長の夢を自らの力で実現したことにはならない。

日本海沿岸東北自動車道(日沿道)の開通を楽しみにしています。(中略)山形の庄内地方や新潟、金沢、大阪に至る1本の軸ができます。ここに高速バス路線を開設するのが夢です。
楽しみになさるのはいいですが、高速バスねぇ…
この区間にそれほど高速バスの需要があるとは思えない。
やるのなら、秋田市からにかほ・象潟・酒田など、近~中距離の方がよさそうにも思うけど、それって羽後交通さんの縄張りだし…


まだ、バスの役割は残っている。そう信じています。
当ったり前じゃん!!
会社経営者という方々は、自分の会社でやっていることが、世の中に必要とされているという自負があって、会社を経営されているものだと思っている。
バス会社の社長ならそう思うのが当然で、思わない方がおかしい。
「バスの役割はもう終わった」などと思ってるような人に、バス会社を経営してもらいたくはありません!


新聞のコーナーは「私の転機」。で、結局、この人の「転機」はいつだったんだ?
市営バスの路線移管引き受けを決意した時ってことだろうか。ちょっと分かりづらいというか核心が分からない記事のように思えてしまった。


見出しや略歴によれば、社長は南秋田郡五城目町出身で72歳。大卒後、小田急バスで勤務し、1965年に中央交通入社。73年に社長就任とのこと。
中央交通は現在は秋田市に本社(1953年から)があるが、元は五城目町に本社があった。よく分からないが、いわゆる「創業家の出身」ということなんだろうか。
ちなみに、小田急時代は元首相の羽田孜氏と同僚だったという(1994年の羽田氏首相就任当時の秋田魁新報の記事より)。

※その後の関連記事(リンク先後半)
【2014年1月1日追記】2014年元日の秋田魁新報「第4部・企画特集トップインタビュー」という名の別刷り広告(魁の営業局企画・制作)においても渡辺氏は、高速バスの件など上記と同じ発言を続けている。
※2016年6月には社長から会長となった。そして、2016年8月20日に亡くなった。
コメント (5)
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