広く浅く

秋田市を中心に青森県津軽・動植物・旅行記などをご紹介します。

せいてんのへきれき

2014-11-19 23:58:11 | 津軽のいろいろ
30年前の1984年だったそうだが、イネの品種「あきたこまち」がデビューした。当時はそのネーミングが斬新だったことを、小学生だった僕でも記憶している。
当時は、カタカナの品種名がほとんどで、あきたこまちも「アキコマチ」【2016年2月23日訂正・「あきこまち」「あきたこまち」など5つの最終候補があった】にしようとしていたそうだが、当時の佐々木喜久治秋田県知事があきたこまちに決定したとか。
※当時は「国が育成した品種はカタカナ、それ以外(都道府県)が育成したものはひらがな・漢字の品種名とする」という決まりがあったという話も聞く。だったら、秋田県が育成した品種の候補に「アキコマチ」が残るのはおかしい。そもそも、明文化された規則だったのか、暗黙のルールだったのかも分からない。現在は、国の品種でもカタカナでなくても良くなったらしい。
【2015年3月24日追記】2013年5月14日アップの日本経済新聞サイト「本日入荷 おいしい話」「きらら397は○、キラキラは× コメの名前どう決まる(http://www.nikkei.com/article/DGXNASFK11018_T10C13A5000000/?df=2)」によれば、
「コメの銘柄名にはかつて、国の機関や国が指定した試験場で育成されたものはカタカナ、都道府県が開発したものはひらがなもしくは漢字、というルールがあった。それぞれ6文字以内とされていた。」
「潮目が変わったのは1991年。国指定の古川農業試験場(宮城県大崎市)が育てた品種が「ひとめぼれ」と命名されたのだ。国が運用ルールを緩めたことで、ユニークな名前が次々生まれるようにな」ったとしている。
いずれにしても、あきたこまち当時では、県作出品種にカタカナ名を付けるのは難しそう。
【2016年2月23日訂正】2016年2月の秋田魁新報の連載「時代を語る」によれば、最終段階で5つの候補(いずれもひらがな表記)が残り、その1つが「あきこまち」だったとのこと。(以上追記)

それから10年ちょっとは、あきたこまちそのものがもてはやされたし、それがきっかけで各地で米の育種やネーミング競争が活発になった。
小野小町伝説がある秋田ではあるが、それまではさほど認知されていなかったようにも思う。あきたこまちの普及で「こまち」という言葉も流行し、新幹線や野球場、テレビ番組などに「こまち」が使われた。
最近は、あきたこまちも安くなってしまったけれど、秋田県のイメージアップや日本の米の育種に大きな貢献をしたのが、あきたこまちであったと言えよう。
【20日追記】ジャガイモの「インカのめざめ」のように、イネ以外でも奇抜な品種名が広がったのも、あきたこまちに影響されたのかもしれない。


その後、「ひとめぼれ」「はえぬき」「どまんなか」など奇抜なネーミングの品種が続々と登場し、あまり驚きもしなくなった。1997年にデビューした青森の「つがるロマン」なんておとなしい方。
2003年前後に弘南バスに掲出されていたつがるロマンの広告。行政や農協が組織する「青森米本部」によるもので「白い優しさ、輝く笑顔」のコピー

今年11月5日、青森県が2015年度から流通させる新品種の名称を発表したのだが、それは久々に驚いた。「青天の霹靂」である。

いや、驚いて青天の霹靂の気分なのではなく、品種名が「青天の霹靂(せいてんのへきれき)」。
故事成語としての「青天の霹靂」は陸游「九月四日鶏未鳴起作」が出典で、晴れ渡った青空に突然起こった雷(霹靂)のこと。「急に起きる変動・大事件。また、突然うけた衝撃。(デジタル大辞泉)」の意味。
英語でも、そのまま「a bolt from the blue」と用いるらしい。

全国公募で集まった1万1049件の中から選ばれた、野辺地の33歳の男性のもので「青森の天からふりそそぐ自然からできた、まるで青天の霹靂のような驚くほどおいしいお米」をイメージしたという。
つまり、元は「晴れ渡った青空」の意味の「青天」に「青森の天」の意味をかけてある。
秋田の「こまち」同様、青森ではひところ「青い森○○」と命名するのがブームになったが、今回は「青」だけが使われた格好。

現段階で「青天の霹靂」と聞いて米をイメージする人はいないだろうけど、それは30年前の登場直後の「あきたこまち」だって同じこと。時が経って、売れるようになれば、広く認知はされろうだろう。それまでにいかに宣伝するかが大事。
「青天の霹靂」の言葉の意味としては、あまりいいイメージではないような気がするが、「びっくりするほどおいしい米」ならなんとか通じるか?
また、「雷が落ちた田んぼでは、空気中の窒素が、肥料として使える状態になって田んぼの中に入る(窒素固定)ので、収量が上がる」という説があり(だから「稲妻」という言葉ができたとか)、米と雷は良い関係にあるとも言える。
言葉としては知られていて、インパクトがあって覚えやすくて、悪くない命名かもしれない。


ただ、そそっかしい人は米屋さんで「『塞翁が馬』10キロください」などと間違えたりして…
あと、後追いで類似の名称の品種が登場したら、混乱しそう。

そして最大の難点は、文字。
「霹靂」は漢字検定1級レベルじゃなかろうか。

さらに「青天」が「晴天」と誤記される可能性も高い。
「ネプリーグ」の林修先生出題問題で出題されて回答者が間違うと、林先生が「いやぁ。僕の思った通りに間違ってくれましたねー」と喜びそうなシチュエーションだ。
【24日追記】↑などと書いていたら、タイムリーなことに11月24日放送のネプリーグで、本当に「林先生厳選の漢字テスト」の「書き間違いが多い漢字」として出題された!(蛭子さんが間違えて、北村弁護士が正解)


「あきたこまち」でさえ、店頭では「秋田こまち」「秋田小町」「アキタコマチ」等々間違って表記される場合がある。
「青天の霹靂」も、「晴天のヘキレキ」なんて表示されてしまいそう。あるいは無知な人の誤変換で「青天の辟易(へきえき)」とか?
【20日追記】オールカタカナで書いてしまう人は、「動植物の標準和名はカタカナで表記する」という生物学の慣例を拡大解釈というか誤解している場合もありそう。標準和名はヒトとかホタテガイとかリンゴとかイネとか「種」名のことであり、種の中の「品種」名の表記にはそのような制約はない。

というか、さっそく間違った人がいる。※以下、恒例の揚げ足取りです。
11月8日付の陸奥新報の社説のネット版である。(紙面は未確認)


タイトルが「県産米“晴天の霹靂”「作付け限定、理解得る努力を」」。


本文中はすべて「青天」なのに、見出しだけ「晴天」。
「名称については、近年デビューした銘柄米と比較しても異色の命名だ。」等々書き連ねてあるけれど、見出しを間違えては、説得力がない。
青森の「青」なんだから、青森の新聞社がここを間違えてはいけませんよ。

以前も取り上げたが、陸奥新報のサイトでは、この手の変換ミスがよく見受けられる。
仮に間違ってアップしても、社員の誰かが見て気付かないものだろうか。
教えてやろうかとも思うが、購読者でもないよそ者が差し出がましい気がして控えている。


※その後、一般に販売されて食べた時の記事。なお、その時点でも、陸奥新報の社説は「晴天」のまま。






秋田魁新報の紙面でも、最近は「訂正」をよく見る気がする。
「ナマハゲ伝導士」を見出しだけ「ナマハゲ伝道士」としてしまうという、初歩的ではあるが、言葉の意味の勉強にはなった変換ミスもあった。
これは「晴天の霹靂」と同じく、見出しを付ける整理部がやらかしたであろう変換ミス。

最近の魁は、変換ミスではなく、地名や人名の判読・入力間違いに起因すると思われるミスが多い。
※提供された元々の名簿や資料自体が間違っている場合は「主催者訂正」という別の枠で訂正される。ただの「訂正」なのは魁側の間違いだと考えられる。

具体的には、秋田市の地名「御所野」と「御野場」、人名の「奥山」と「畠山」など。(いずれもここ1週間ほどの間のこと)
紙の資料を見て文字入力する時に、思い込みとか、ぱっと見の文字の形だけで判断し、間違えてしまったのだろうか。
脱字や変換ミスと違って、こういう間違いは(元の資料に当たらない限り)他人が見ても気付かないが、人名を間違うなど失礼な話。我々一般人も含めて、気をつけましょう。
コメント (4)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする