広く浅く

秋田市を中心に青森県津軽・動植物・旅行記などをご紹介します。

ドラえもんの“入る”時間

2019-10-08 23:00:11 | その他もろもろ
テレビ朝日系「ドラえもん」「クレヨンしんちゃん」の放送時間が移動したことと、青森(と秋田?)の方言(※)についての話です。
※「青森弁」という方言は存在しない。青森県内を3区分した地域ごとに津軽弁、南部弁、下北弁の最低3つに分けるのが通例。もちろん、その複数での共通点もあり、完全に違うわけでもない。今回取り上げるのは、新しい方言であり、3地域共通で使われる可能性もあるので、その意味では青森弁かもしれない。

弘前にいた頃、地元の人たちから、次のような言い回しを聞いた。
「土曜の昼にRAB(青森放送)で『古畑任三郎(ドラマの番組名)』入るよ」

注目は「入る」。
全国共通の語を、地域限定の別の意味で使っている。秋田などで「捨てる」意味で「投げる」を使うように。
こういう場合、話している人は、全国どこでもその意味で通用すると思いこんでいることも多い。

放送局名、番組名のつながりから、「放送する(される)」「オンエアする(される)」という意味なのは、想像できよう。
全国的な日常のくだけた会話では、「[番組名]が放送される」とはまず言わず、「[番組名]がある/をやる」が自然だろう。「土曜の昼にRABで古畑任三郎やるよ」と。
しかし、(少なくとも20年前の)青森では「[番組名]入る」という言い回しも珍しくなかった。

少なくとも秋田市周辺では、この意味の「入る」はほぼ使わないが、まったく聞いたことがないわけでもない。
だから、僕も秋田にいる段階でその用法に接した経験はわずかにあり、弘前で初めて聞いても、さほど違和感はなかった(けど青森では多くの人が使うことに驚いた)。


この「入る」は、Wikipediaの「新方言」の項に例の1つとして挙がっていて、「青森県と富山県で」「テレビ番組の放送が始まる、あるいは番組にある人物が登場することを指して使われる」とある。
「放送が始まる」「人物が登場する」とする用例にはちょっと違和感。
まず、「始まる」という瞬間よりも、「放送される」という継続的な時間を指すのではないだろうか。
もう1つの人物を指すものは、聞いた記憶がない。でも、「今日、欽ちゃんがある」「昼はタモリを見る」みたいに、番組名でなく人物名で番組を示すことは、共通語でもあるから、おかしくもないかも。冠番組では番組名=人物名だし。
Wikipediaでも「テレビ」としているが、おそらく「ラジオ」であっても使うだろう。
他に調べると、北海道から東北とか、北陸地方とかより広範囲で使われているようだ。
番組が電波に乗って家へ、テレビ受像機へと“入る”あるいは、番組表・タイムテーブルの中に番組が入る(収まる)という感じかも。

さらに、「青森では『なるほど・ザ・ワールド』が入らない」などと、時間を限定しない用法もある。「青森ではフジ系が入らない」と番組や人物でなく、放送局を指すこともある。携帯電話が圏外になる意味で全国で使う「この部屋は電波が入らない」と同じニュアンスかも。
「ケーブルテレビに入ると、フジ系が入る」だと、「ケーブルテレビに加入すると、フジ系が(同時再送信で)放送されていて視聴できる」だから、ケーブルテレビに入るは全国共通。

「テレビに出る」は「出演する」意味で全国に通用する。「テレビが入る」のほうは方言なのがおもしろい。
※青森の3方言ではよく使われ、秋田でも使われる方言としては、「みみきかんじ」を以前取り上げています。



さて、テレ朝の2つのアニメ。これまでは、金曜19時00分から「ドラえもん」、続いて19時30分から「クレヨンしんちゃん」。
2019年10月からは土曜16時30分からしんちゃん、17時00分からドラえもんとなった。
家族で見やすい時間にしたとかいうのが、テレ朝の説明のようだが、結局は視聴率が取れず、金曜のゴールデンタイムを明け渡させたのだろう。
さらに、クレヨンしんちゃんの後20時台だった「ミュージックステーション」は、21時からに繰り下げ。1986年秋の放送開始(当初は関口宏が司会だったらしい)以来、33年間20時台だったという。

秋田朝日放送の土曜朝のローカル情報番組「サタナビっ!」では、最後のほうで番組宣伝コーナー【12日追記・コーナー名「チョイ見せ」】がある。主にキー局の番宣VTRが流れ、その後にスタジオの出演者が多少話す流れ。
5日放送では、ここでドラえもんの時間変更が告知された。
そのスタジオで、コーナーの進行をしていた藤盛由果アナウンサーが、「ドラえもんが土曜5時に入るようになりました」「昨日(金曜)、ドラえもんが入らないと思った方もいらしたのではないでしょうか」みたいな感じで、2度、「放送する」の方言の意味で「入る」を使った。

局アナがこの意味で「入る」を2度も使うとは驚いた。
藤盛さんは、秋田県北部の出身だから、もしかしたら元々使っていて、つい出てしまったのか。あるいは今まで知らなかったけれど、弘前大学卒だそうで、弘前時代の影響か。
まさか「入る=放送する」が、共通語では通用しないのを知らないわけはないだろう。秋田県全域で通用すると思って、あえて親しみをこめて使ったのだろうか。でも、ZENさんなど他の出演者からのツッコミもなく、普通に流れていった(あえて流れを止めるほどではない)。

あるいは、テレビ局の業界用語でも、その意味で使うのか??
系列局にしてみれば、キー局から実質、否応なしに「入ってくる」だろう。視聴者に対しては「出す」側だけど。



最後に、移動した番組の歴史。
テレ朝で「ドラえもん」が始まったのは1979年。当初は夕方に毎日10分放送の帯番組だったり、日曜朝だったりしたそうだが、1981年秋から金曜19時(一時期10分繰り上げ)。38年間不動だったことになる。
平成初期開局の青森朝日放送(ABA。1991年)や秋田朝日放送(AAB。1992年)では、開局時から金曜19時で、初めての枠移動となる。

といっても、ABAやAAB開局前の青森や秋田では、既存の他系列局が違う時間帯で放送していた。
秋田では秋田放送(ABS)で火曜17時から。たしか1980年代後半に木曜17時30分に移ったような記憶があるが、AAB開局直前まで続き、ABS最後の放送回はテレビ欄に「最終回」マークが付き、最後に「来週からは秋田朝日放送でお楽しみください」といった表示が出た。
ちなみに、オープニング「ドラえもんのうた」の歌手が、初代の大杉久美子(モノラル音源)だったのが1992年10月2日まで、山野さと子(ステレオ対応=ステレオ放送は2000年から)に代わったのが10月9日。AAB開局が10月1日だから、大杉版は1回だけ放送したことになる(実際には9月中から試験放送していた)。

青森では青森放送(RAB)で木曜17時30分だったとのこと。
今は夕方のニュース番組を前倒ししている平日17時台は、昔はアニメの時間だったものだ。


「クレヨンしんちゃん」は1992年春の放送開始から、ずっと19時台であったが、曜日は月→金→土→金と目まぐるしく変遷。
そうそう、AAB開局時点では、ドラえもんの次、金曜19時30分は情報番組「はなきんデータランド」で、しんちゃんが月曜19時だった時の次はビデオ投稿番組「邦子と徹のあんたが主役」なんてのがあったもんだ。

クレヨンしんちゃんは、秋田朝日放送開局の半年前に放送が始まっているが、その半年分も、秋田で放送されていた。
ABSが日曜11時から放送していた。
この時間がアニメ枠というのも今にすれば意外だけど、それ以前には藤子アニメ「21エモン」を同じ枠、10時30分からはTBSの科学教養アニメ「ミームいろいろ夢の旅」をやっていた。
1992年春の時点では、半年後にAABが開局し、そちらで放送することが明白なのだから、ABSにしてみれば、半年だけ放送する前提で、クレヨンしんちゃんを購入・放送していたことになろう。半年後にはその分の視聴率を失いかねないのに。当時はそれだけアニメの需要や価値があったということか、新局に対して老舗局としての余裕を見せつけたのか。
僕は、クレヨンしんちゃんが何者か知らず、ABS日曜11時をたまたま見ていて、そのおもしろさにはまってしまった。ほぼ最初期から見ることができた上、AAB開局後にスムーズに視聴できたのは、当時のABSが放送してくれたおかげ。

【2020年3月30日追記】2020年4月の改変では、地上波は変わらないが、BS朝日で6日遅れの金曜日に、19時00分からドラえもん、19時30分クレヨンしんちゃんが放送されるようになった。

【2021年8月22日追記】弘前市立中央公民館のツイッターを見ていて、気付かされた。
ドラえもんが土曜17時00分になったことにより、青森県では6日遅れで青森テレビ(ATV。TBS系列)で放送される「サザエさん」と枠がぴったり重なってしまうのだった。
なお、ATVのサザエさんは2004年まで土曜18時00分、2008年まで土曜17時30分と、JNN全国ネット番組の影響で前倒しされて今の枠になった。

コメント (4)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« AKT50thコラボパン | トップ | 神田線旧道区間の記録 »
最新の画像もっと見る

4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (FMEN)
2019-10-08 23:16:27
なんか忘れられそうな時間…
なら昔のAABの再放送みたいに平日夕方16時のがいいかと。
AAB開局で話が繋がらなかったのはセーラームーンかな。
いきなり5人の戦士から始まっていて、すぐに水曜の16時から5人になるまでの流れを遅らせ。
最初は化け物を倒してましたがいつしか化け物を改心させて人間を騙すためになりすました人間に変え、市民生活させてましたが、人口どうなってるんだ?と今考えたら。
確かすぐに田沢湖だか十和田湖の伝説が出てきた話もありましたが、あれはAAB開局に沿わせたアニオリだとか。
返信する
セーラームーン (taic02)
2019-10-09 21:05:07
土曜夕方って、テレビを見る習慣がない人・家庭が多い気がしますね。

「美少女戦士セーラームーン」は見ていないので意識してなかったですが、クレしんと同年3月開始だったんですね。秋田では最初半年は未放送で、AAB開局後に、本放送と同時並行で最初から追いかけたわけですか。
ストーリーものだけに、ABSでクレしんよりもセーラームーンをネットしてくれたほうが良かったような気もしますが、その他の都合もありそうです。
90年代のテレ朝は、ドラ、しん、セーラームーンとアニメだけでも視聴率をかなり稼げていたのでしょう。
返信する
子供時代は現役語 (あんなか)
2019-10-10 22:58:01
秋田市ですが弘前での同じ意味で「入る」は使ってました。
保戸野八丁では無理でしたが新しく家を建てたところは大きいVHF-TVアンテナを立てると6chでIBCが入って来ました。
通ってた幼稚園で「ウルトラセブンやドリフの8時だヨ!全員集合が入って面白かった」なんて使っていました。
微妙な言い回しですが映る、(何とか受信して)入感するみたいなニュアンスも入っていたでしょうか。

恥ずかしい話しですが「クレしん」「ドラえもん」、土曜日の夕方に移っていたことを知らなかったです。
返信する
やはり秋田でも (taic02)
2019-10-10 23:28:18
やはり秋田でも使う人は使われるようですね。
「携帯の電波が入る/入らない」と感覚としては同じ用法でしょうか。

テレ朝代表のアニメの移動にしては、あまり話題にならなかった気がします。
マスオさんの声優交代のほうが盛り上がったかもしれません。
返信する

コメントを投稿