図書館から借りていた、平岩弓枝著 「はやぶさ新八御用帳(九)王子稲荷の女」(講談社)を読み終えた。本書は、南町奉行所、内与力隼新八郎が活躍する長編時代小説「はやぶさ新八捕物帳シリーズ」の第9弾目の作品で、表題の「王子稲荷の女」の他、「寒紅梅」「里神楽の殺人」「柳と蛙」「夕顔観音堂」「あやかし舟」「虫売りの男」の連作短編7篇が収録されている。一話完結、小気味良い筋立ての短編のせいもあり、読みやすく、一気に読破出来る書だ。
読んでも読んでも、そのそばから忘れてしまう老脳。
読んだことの有る本を、うっかりまた借りてくるような失態を繰り返さないためにも、
その都度、備忘録として、ブログ・カテゴリー 「読書記」に 書き留め置くことにしている。
▢主な登場人物
隼新八郎(南町奉行所内与力、根岸肥前守の懐刀、新八)、郁江(新八郎の妻女)
根岸肥前守鎮衛(やすもり)(南町奉行、新八郎の上司)、
貞春院(根岸肥前守の叔母、向島村隠居所暮らし)
宮下覚右衛門(南町奉行所用心)、高木良右衛門(南町奉行所用人)、
お鯉(南町奉行所奥仕え女中、新八郎の心の恋人)
神谷鹿之助(勘定方、郁江の兄、新八郎の義兄、幼馴染)、
落合清四郎(中川御舟御番衆、旗本)
大久保源太(定廻り同心)、大竹金吾(用部屋手付同心)、
勘兵衛(元岡っ引き、鬼勘)、小かん(勘兵衛の娘、お初)、
藤助(駒込岡っ引き)、熊吉(下っ引き)、巳之吉(本町岡っ引き)
▢あらすじ
「王子稲荷の女」
大晦日から元日、新年の南御番所は、しきたり、習わしが有り、結構多忙。3ヶ日が過ぎ、勘兵衛(鬼勘)と岡っ引き藤助が、新年の挨拶にやってきたが・・・。新年早々、王子稲荷の狐の話?、「おおかた、誰かの悪戯じゃないのか」。「逃げる女が斬られたが死骸が無い?、血の跡、殺人の痕跡も無い?」。根岸肥前守曰く「尻尾が出ぬでは、致し方あるまい・・・」。数日後、御家人木村辰次郎の妻女富代、下男権八の死体が発見された。真相探索、謎解きを開始。木村辰次郎の素性は?、女中お袖とは、芝居?、からくり?。鬼神になれなかったお袖?。お鯉だって、ある日、鬼神に化さないという保証はどこにも無いのだと思い、新八郎は、ひそかに嘆息をついた。
「寒紅梅」
ふとした縁で義兄弟のごとくの付き合いをしている、中川御舟番所勤務の旗本落合清四郎に関わる事件が主題になっている作品。清四郎の実姉お茂登は、男勝り、武芸の心得も有り、旗本成瀬平左衛門(42歳)の後妻になり、平之助(10歳)がいるが、跡取りは、嫡男(先妻の子)定太郎(20歳)と決め込んでいる。・・・ところが・・・・。清四郎の留守中に、落合家に、三宅久次郎、松本彦六なる狼藉者二人が押入り、妻女小夜、お茂登、平之助、用人を襲う。お茂登が果敢に立ち向かい、・・・。挙げ句の果て・・。根岸肥前守から事件の真相解明に尽力するよう下知され、新八郎が探索開始。三宅久次郎は、中川御舟番所の同僚三宅久右衛門の弟だったが、定太郎との関わりは?
紅梅を見つめている清四郎の頬を一筋、光って流れるものに気づいて新八郎はそっと目をそらした。
「里神楽の殺人」
麻布本村町の空き地に設えられた神楽殿で演じられた勧進里神楽の、八岐大蛇を須佐之男命が斬りかかる場面で、殺人事件発生する。座頭伊十郎、市蔵、丑之助、富三、与三松、辰之助、信次郎、おいと・・・・。下手人は?、大勢の前で殺害する意味は?、新八郎が、事件の真相解明、謎解きをし・・・、根岸肥前守は、「宮本信次郎殿、お出でなさるの待ちかねて居りましたぞ」・・・・、朗らかな肥前守の声、「新八、その方の願い、これでよかろうのう」・・・やっぱり、殿様は役者が上と思い、新八郎は深々と頭を下げた。
「柳と蛙」
下谷の三味線堀で若い男扇之助の死体が発見されるところから物語が始まっている。さらに、蔵前の札差大口屋与兵衛の別宅では、留守番夫婦と、岡村半太夫、蘭丸、二人の男の死体発見された。その関連性は?。根岸肥前守から真相探索を下知された新八郎、岡本家は、三河以来の旗本2000石、奥方は磯江、用人は佐々木彦之進、「雨さん」とは誰?。船頭巳之吉が白状・・・。本所方の菅谷文四郎とは?・・・、「手前は、枝から落ちましたが、のぞみはつながっています」・・・柳の枝に産みつけた卵の孵る日はもうないのを、文四郎は知らなかった。
「夕顔観音堂」
浜町河岸で、大川へ下っていく小舟に乗っていた墨染の衣に白頭巾の女僧を見掛け、新八郎は柄にもなく、夕顔の花を連想、小かん(お初)に見付かり、冷やかされる。その小かんは、つぶし島田、お納戸色紋付姿で、匂い立つばかりの大輪の花菖蒲に見え・・・・。塗物の老舗上総屋喜左衛門の快気祝いに招かれたのだと言う。
その上総屋喜左衛門の一人娘、器量良しの麻江(16歳)が行方不明?になったと大久保源吾から聞き、「そりゃあ、色恋沙汰に決まってる・・・」と決めつけていた新八郎だったが・・・。麻江は、旗本松平主計の屋敷に女中奉公していたことが分かり、松平主計は養子で、御側御用取次中野播磨守清茂の腰巾着、実権は奥方が握っていること、妾腹の子格之助毒殺未遂事件が有ったこと等が分かった。器量良しが狙われる?、「松本主計にはまともでない節がある」、「お鯉も表に出る時は、顔に煤を塗るがよいぞ」、根岸肥前守が冗談をいい、新八郎に真相探索を下知する。一度帰った麻江が再び神隠し?、喜左衛門が何か隠している?。医者の幸庵が、松平家から飛び出してきて・・・。喜左衛門が白状。新八郎と喜左衛門が、格之助の生母お蓮(浄蓮尼)がいる、飯塚村の夕顔観音堂へ駆け付けたが・・・。そこには壮絶な結末が・・・・。新八郎は目を上げ、二人の死んでいる松の向こうを眺めた。中川がゆったり流れ、夕闇が濃くなってきた。
「あやかし舟」
大川で、涼み船等を狙い、金を稼ぐあやかし舟が出没して程なく、向島村の根岸肥前守の叔母の隠居所へ出掛けた新八郎は、綾瀬川で、御高祖頭巾の女が船上で賭け碁、賭け将棋しているのを見掛けるが・・・。その常連だった、鬼勘(勘兵衛)、小かん(お初)の知り合い、海産物問屋主人小海屋清兵衛が色気を出してしまい、その女に投げ飛ばされる?事件発生。大川のあやかし舟との関わりは?、正太?、佐代吉?、真相が明らかになったが、子供の世話に熱中、三度も女房に逃げられた男?・・、すっかり騙されたが、憎めない男・・・、勘兵衛、お初が、肩入れ、「俺も、鬼勘父娘には弱いんだ」・・・・、「まあ、しっかりやるんだな。その中、男でも通用する仕事が見つかるかも知れない」・・・、特にしなを作って歩いているわけでもないのに、後姿に色気が有る。なんともユーモラスな物語である。
「虫売りの男」
ふとした縁から、新八郎と義兄弟同様の付き合いをしてる旗本の落合清四郎が、南御番所へ蟋蟀(きりぎりす)数匹の入った虫籠を届けにきたところから物語が始まる。用人の宮下覚右衛門から、虫売りからまともに買うと、蟋蟀は、一匹、一両もする・・と聞き、冗談じゃないと思いながら同心の大久保源太に話すと・・・、「驚いたな。定廻りの旦那は、虫の値も知っているのか」・・目から鱗・・・となる新八郎だった。新八郎が、忠次郎から買った蛍を、向島村の根岸肥前守の叔母の隠居所に届け、喜ばれたり、風雅なストーリー展開から始まるが、元呉服商の倅だった、虫売りの忠次郎に関わる事件の、真相、謎、解明、結末を描いている。近江屋で火災発生し、主人良太郎が焼死した。失火?、放火?、良太郎とは異父弟の忠次郎に疑いが掛かるが・・・・、良太郎、忠次郎の生母で隠居のお久良、良太郎の亡妻おまき、一人娘おきぬ・・・、不審、謎だらけ・・・。悔恨、生きる望みを失ったお久良。おきぬから近江屋に戻ってくれとせがまれた忠次郎は、誰にも告げず江戸から姿を消した。
(つづく)
野路の菫に、はたまた何れ菖蒲か杜若・燕子花の如くですね。
男性の見る目の豊富さと、女性の心根が合うと其処に咲く花は何にも勝りますね。
絶世の美人でなくても、女性には、それぞれ魅力が有り、気にかかり、それを、根岸肥前守が冷やかし、お鯉、お初には、つんとされる・・、そういった情景が多い、シリーズ物ですね。
女性作家ならではの、細やかな描写もあり、好きな作風の一人になっています。
コメントいただき有難うございます。