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藤沢周平著  「橋ものがたり」

2018年11月10日 10時08分49秒 | 読書記

図書館から借りていた 藤沢周平著 「橋ものがたり」 (新潮文庫)を 読み終えた。
江戸時代の 橋を舞台にした 出逢い、別れ、庶民の暮らしを描いた 10編の短編が収められた書である。
人が 橋を目当てに集まったり、待ち合わせしたり、散らばり去ったりしていた時代の物語である。

藤沢周平著 「橋ものがたり」

「約束」、
「小ぬか雨」、
「思い違い」、
「赤い夕日」、
「小さな橋で」、
「氷雨降る」、
「殺すな」、
「まぼろしの橋」、
「吹く風は秋」、
「川霧」、

「約束」
錺師(かざりし)職人幸助は 年季奉公が明け、家に戻った。5年前に 「5年後に 会おう」と 約束を交わした 幼な馴染みのお蝶に会うため 約束の時刻、約束の場所 小名木川の萬年橋に 向かう。
駒止橋、両国端、一ツ目橋を渡り 萬年橋にやってきた幸助だが、5年の間には 親方の妾とただならぬ関係を持った自責の念も有り 5年前 3歳年下のお蝶だって 18歳、変わっているかも知れない、約束を忘れているかも知れない等、期待と不安が入り混じる。
約束の時刻 七ツ半(午後5時)になっても お蝶は現れない。五ツ半(午後9時)近くになって 女中仲間のお近に促され、迷いに迷った挙句 お蝶が現れた。
「あたしに 近寄らないで・・」、「汚らわしい女よ」、「幸助さんのおかみさんになりたかった。ごめんね」。
お蝶は 母親を看病するため 身を売っていたのだ。やっぱり 双方とも 状況が大きく変わっていたのである。
翌日 幸助は母親を看病しているお蝶の家を訪れ、「5年前と人間が変わっちまったわけじゃない」
狭い台所の土間から お蝶の悲痛な泣き声が聞えてきた。
長い別れ別れの旅が終わったのだ。

「小ぬか雨」、
裏口の戸を閉めに行ったおすみが 土間で蹲っていた22歳の男 新七を匿うことになる。新七は 殺しをして 奉行所の手先から追い込まれていた男だった。おすみは 粗雑な夫 勝蔵とは違う やさしい様子の新七に 心引かれていく。
奉行所の手下に 見張られている中 おすみは 親父橋付近まで 様子見をし 新七を逃す算段をする。
「そこまで 送っていくわ。・・・」、思案橋に近づいた時、
「俺の女をどこへ連れて行く気だ」、夫の勝蔵が全てを知って 追ってきたのだ。男二人は、野獣の如く、怒号と唸り声で組み合い、気を失ったのは勝蔵。「逃げて、あたしも一緒に行く」、「そんなこと言っちゃいけません」、「逃げきれるとは考えていません。・・年とった母親にひと目会ったら自首します」、新七は 不意に身をひるがえして 橋の上を走り去った。
切れ目なく降り続ける細かい雨が心にしみる。小ぬか雨というのだろう。
おすみは 新七という若者と別れた夜のことを忘れまいと思うのだった。

「思い違い」
指物師の若者源作は 両国橋に差し掛かると落ち着きがなくなり キョロキョロ人を見分ける顔になる。朝と夕方にすれ違う女が気になるのだ。源作は きっと 川向こうに家が有って 両国広小路界隈か神田あたりに通い勤めている娘だろうと見当をつけていた。帰りが遅くなった源作は 一ツ目橋の手前で二人の男に絡まれていた女を助けたが それは気になっていた女で おゆうという名の女だった。
源作は 指物師の親方豊治から その娘 おきくとの縁談を持ちかけられる。おゆうへの思いが有って 返事を保留。おきくは妊娠していたのだ。源作の婿入り話が流れ 兄弟子兼蔵、相弟子友五郎と飲み屋へ、勢いで女郎屋に上がったが そこに おゆうがいた。
「おどろいたな」、母親が早死にし、病気の父親と弟を養うため 女中をしていた釜吉で借金し、返済出来ず 女郎になったのだった。
「素性を知って興ざめでしょう」、
20両と言えば 1年分の手間賃だ、親方に仕事を分けてもらい 家で内職しよう。源作はそう決心した。
親方の豊治は 娘おきくの尻拭いをさせようとした形跡があったが、女郎という身分を恥じたおゆうが おきくより汚れているとは言えない。つつましく あたたかい女だった。
朝になると勤務先に向かい 夕方 家に帰るという常識を 逆手にとって描いている。「思い違い」である。

「赤い夕日」
若狭屋の夫新太郎に女がいると言ったのは 手代の七蔵だった。おもんは 「奉公人が口出しするものじゃありません」と叱りつけたが 気にするようになっている。その七蔵は 掛取りの金をごまかしたという理由で 新太郎から店をやめさせられていた。
斧次郎からの使いという男が現れた。おもんは 18歳のとき 夫には言えない秘密を抱いたまま若狭屋の嫁になっていたのだ。実の父親だと思っていた斧次郎がいたが、病に倒れていると言われ 夫新之助には 内緒で 意を決して会いに行くが・・・。
斧次郎は おもんを奉公に出す時、きっぱり縁をきる覚悟で 「決して永代橋を渡ってきちゃなんねい」と 言い含めていたのだ。
「おとっつあんは?」・・斧次郎の姿は無く、斧次郎に叱責された仙助や 七蔵が居た。若狭屋から身代金をせしめる策略に はまってしまったのだ。さらに七蔵がおもんを誘惑、見張りの男と揉みあいになる。そこに夫新太郎が百両を持参、おもんを引き取る。
「ばか言え、そんな女がいたら こんな夜中にむかえになぞ行かないよ。・・・」、永代橋を渡りきったとき おもんは立ち止まって橋をふりむいた。おもんは 小走りに新太郎を追い、走りながら 赤い日に照らされた土手を 斧次郎の後からついていった20年前に似ていると 思った。

「小さな橋で」、
10歳の広次は 友だちの遊びの誘いを断って 米とぎ等 台所仕事をしている。それが終わると 姉のおりょうを迎えに行かなくてはならないのだ。4年前に父親が姿をくらましてから 広次の家はおかしくなってしまっていた。母親のおまきは飲み屋で働き帰りは遅い。姉のおりょうは 妻子持ちの重吉と 「出来て」しまい、母親が 広次を監視役に迎えに行かせていたのだ。
広次が林の中で 行々子の卵の見張りをしている時 何人かに追われている男が脇をすり抜けた。「あっ、ちゃんだ」。
父親の民蔵だった。民蔵は 金を広次に渡し 去っていった。「おれは 直ぐに江戸を出るが もう二度と江戸に戻れない身体になった・・・」「おっかあを頼んだぞ」、
家に戻ると おまきは男を引き入れていた。「おいら こんな家にいないよ。誰が一緒になんか暮すもんか」、広次は飛び出す。いつの間にか 4年前に父親を見送った小さな橋にきていた。「やっぱりここに来てたんだね」。うしろで おまきの声がした。「一緒に帰るのがいやだったら おっかさん 先に帰っているから」、怒りがおさまって眠気に襲われた時 女の子の声がした。おまきに頼まれてやってきた 遊び友達のおよしだった。
「かわいそうな広ちゃん」、二人は 体をくっつけ合って橋の上にしゃがんだまま 丸い月を見つめた。
広次は突然 「おれ およしと 出来た」と 思った。

「氷雨降る」、
50歳を過ぎて 商売から引退した吉兵衛は 家に居場所がなくなりつつあるのを感じながら日々を送っている。ある時 吉兵衛は 川を覗き込んでいる若い女を見かけ、そのまま放っておけなくなり 女に事情を聞き 馴染みの飲み屋のおくらのところに置いてもらう。
女の名は おひさ、やがて そのおひさを探して物騒な連中がうろつくようになり 家を借りて住まわせている。
女房 おまきとの溝は深まり、跡継ぎの息子からは 「これから あの人を ずっと囲っておくつもりですか」「いままで女道楽のケも無かった人が よりによって息子が嫁をもらうという時に急に女狂いを始めることないじゃありませんか」と激昂される。
おひさの家を訪ねると 夫婦約束しているという 喜作という指物師がいて、明日 二人で甲府に帰るという。
とんびに油揚げをさらわれたような、いままでひどく無駄なことをしてきたような気がした。
その日 吉兵衛がおくらの店に行くと おひさを探していた凶悪な人相の4~5人の男がきていて おひさの居場所を追求して 吉兵衛に 殴る蹴るの暴行を加えたが 吉兵衛は 明かさなかった。明日になれば おひさは江戸にはいないのだ。
低くうめき声を洩らしながら 吉兵衛は氷雨の中を歩き出した。

「殺すな」、
27歳の吉蔵は裏店に帰ってきて 一軒先の浪人小谷善左ェ門の家に立ち寄った。吉蔵の女房のお峯が いついなくなってしまうか気が気でなく、監視してもらっているのだった。お峯は 元々船宿のおかみさんだったが そこで働いていた船頭の吉蔵と関係を持ち 3年前に示し合わせて、逃げ出したのだった。しかし 逃げ隠れしてひっそり暮らす吉蔵との生活に お峯は だんだん飽きてきたのだ。
いっそ別れるか。別れてやり直すか と思う吉蔵が 雇われている船宿有明屋の船着場で 元働いていた船宿の主、お峯の亭主 利兵衛とばったり遭遇してしまう。
「お峯はどうしているかね」、「おかみさん?、何のことですか」「とぼけてもだめだよ」、知っていたのだ。
吉蔵は畏怖を感じる。顔、腹を殴られ、蹴られ嘔吐の声を吐いた。
吉蔵は お峯に 「お峯、この橋を渡ったら殺すぞ」と 低い声で言う。
お峯は 結局 利兵衛の元へ戻って行った。
「ちくしょう」、吉蔵は 出刃包丁を持ってお峯を追った。
「殺すな」、うしろから強い力で腕を掴まれた。小谷善左ェ門だった。「行かせてやれ」、「いとしかったら 殺してはならん」、善左ェ門の過去の悲しみが 止めたのだった。

「まぼろしの橋」
呉服屋美濃屋の主人和平に拾われ 美濃屋の娘として育てられた18歳のおこうは 美濃屋の跡取り息子である23歳の信次郎との結婚が決まった。おこうは 実の父親の顔を思い出せそうになることがある。信次郎と結婚してから2ケ月半程した頃 その実の父親 松蔵の知り合いだという 弥之助という男が訪ねてきた。おこうは 弥之助と話していると 弥之助が実の父親ではないかと思うようになる。
しかし おこうは 安という男に 身体を凶暴な力でねじ伏せられ 身の危険を感じる目に合うことになる。
おこうと稽古事で一緒だった田川屋の娘 おはつとは 捨てた実の父親のこと等々、なんでも話し合える仲だった。
そんな話を耳にしていた 怠け者のおはつの兄昌吉が そのネタを ゆすりたかりの連中に流して、そそのかし 仕組まれた罠だったのた。「安という男をつかまえました」、「弥之助の方は まだ行方が知れないんで探してるところですよ」、岡っ引の徳助が言う。
「もう変な男に騙されちゃいけないよ」、おこうの目に まぼろしのような橋がひとつ浮かんでいた。

「吹く風は秋」、
弥平は 賭場でいかさま(鹿追い)をやり 賭場の親分の喜之助までも騙し 江戸を逃げ出し、下総の知り合いに身を寄せていたが 7年振りに 江戸に戻ってきた。五本松の下をくぐり 無表情に 猿江橋に差し掛かった。
下総でも 賭博で稼ぎ 30両を所持していた。
弥平は 弟分で壷振りの徳次を頼って行く途中、女郎屋の前に立っていた女に声を掛ける。
慶吉という博打打ちの亭主を持ち 50両の借金のため女郎屋で働いている おさよという名の女だった。
身の上話を聞き 弥平は 亭主に会い 性根の腐った男であることを知る。
賭博場の親分喜之助は 嫌っている同業の梅市の有り金を吐き出させたら 7年前のことは勘弁してやると 弥平にいかさまを持ちかける。見事に400両を巻き上げ、借りを返した。弥平にも 30両の金を 与られた。
「おい、待ちな」、後をつけてきた梅市の手下の二人が呼び止める。「この いかさま野郎」、匕首(あいくち)を突きつけられる。
それをかわして 人気の無い、路地から路地へ走り 執拗に追ってきた一人を 匕首で刺した。
「中に 60両入っている。こいつで足を抜きな」、「これを あたいに?、どうして?」、おさよは 呆然としていた。
「あばよ、達者でな」、弥平は 振り返らず 猿江橋を渡っていた。
胸の中まで吹き込んで来るひややかな秋風だった。
「もう これっきり江戸には 戻れねいかも知れねいな」

「川霧」、
川霧が立ち込める朝の永代橋の上で 新蔵は 6年前 蒔絵師の住み込み奉公が終わったばかりの頃 永代橋の上で何度も見かけていた 20歳前後の細身の女、おさとが突然倒れ、背負って家に連れ帰ったことや、仕事から帰ると姿が消えていたこと、半年過ぎた頃の夜 ひょっこりおさとが新蔵を訪ねてきたこと、飲み屋花菱の酌取りであることを打ち明けたこと、いちゃもんがついた後 3年間、二人で暮らしいていたのに 1年半前には 突然姿を消してしまったこと等を 思い浮かべ、悲哀を感じながら眺めているところから 物語が始まる。
おさとは 素性を明かさなかったが 賭博場の親分の身代わりで 新島送りとなった辰五郎の女房で 5年の島暮らし後に江戸に戻る辰五郎を待っていたことを 新蔵は知った。
「もう探したりしちゃ いけねいのだ」、新蔵は 橋の上で 川霧を眺めながら自分に言い聞かせる。
その時 人影が走り寄ってくる。おさとだ。
「島帰りのご亭主はどうしたんだ」、「知ってたんですか」「、あの人は・・・船の上で病死したんです」、「葬式から四十九日、全部済ませて帰ってきました」、・・、
「もうどこにも行きゃしないだろうな」、「あたりまえでしょ」、
遠ざかる二人の背に その日はじめての日の光が静かにさしかけてきた。


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4 コメント

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Unknown (ミミ3103)
2018-11-11 07:19:23
おはようございます☀️
タケさんの文学館、いつもとてもわかりやすいあらすじ(解説)で自分まで読んだ気分になります。
(私の場合はそれで終了です😅)
いつも見聞を広めて頂きありがとうございます🙇‍♀️
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橋ものがたり (A.S(たわごと的オピニオン)の)
2018-11-11 07:31:47
おはようございます。
藤沢周平作品は私も大好きです。心が優しくなります。
この短編集も珠玉の作品ですね。
解説を読みながら再度読みたくなりました。庶民の暮らしを通じて悲しみやでも豊かな感情等伝わってきました。
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ミミ3103さん、おはようございます、 (takezii)
2018-11-11 07:40:27
記憶力減退爺さん、読んでも読んでも、直ぐそばから忘れてしまうため 自分のための備忘録にしているんです。(うっかり また 同じ本を借りてきてしまうようなことが無いように・・・トホホ)、
少しは 頭の体操にもなるかなぁ等と 思いながら。
コメントいただき有難うございます。
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ASさん、おはようございます。 (takezii)
2018-11-11 07:52:26
ASさんも 藤沢周平ファンなんですね。
つい最近まで 読書の習慣等 有りませんでしたが それだけに どの作者も、どの作品も 新鮮に思えてしまい 乱読ですが 次々 手を伸ばしてしまっています。
ただ 読んでも読んでも そのそばから忘れてしまうため 自分のための備忘録のつもりで 書き込んでいるんです。
短編でありながら 細やかな風景描写、情景、情感あふれる 名作揃いですね。
コメントいただき有難うございます。
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