図書館から借りていた 平岩弓枝著、「はやぶさ新八御用帳(三)又右衛門の女房」(講談社)を読み終えた。本書は、南町奉行所内与力、隼新八郎が活躍する長編時代小説「はやぶさ新八捕物帳シリーズ」の第3弾目の作品であるが、第1弾目の「(一)大奥の恋人」、第2弾目の「(二)江戸の海賊」と構成が異なり、表題の「又右衛門の女房」他、「江戸の竜巻」「幽霊の仇討」「狐斬り」「河童と夕顔」「狸の心中」「江戸の水仙」「松平家の若殿」の連作短編8篇が収録されている。一話完結の短編のせいもあり、読みやすく、一気に読破出来る。
第1弾目「(一)大奥の恋人」で、新八郎の想い人として登場、ヒロイン的な活躍をしたお鯉が、第2弾目「(二)江戸の海賊」では、全く登場しておらず、拍子抜け?した部分が有ったが、本書で再登場。さらに、新八郎の上司、南町奉行根岸肥前守鎮衛が、お鯉を奥仕え女中として雇い入れたことで、新八郎の極端に身近な存在となり、二人の秘め事を胸に複雑に揺れ動く心境が描かれている。ただ、爽やかで屈託の無い人柄の新八郎、本書では、暗くドロドロした展開にはならず、明るくサバサバした展開になっている。
読んでも読んでも、そのそばから忘れてしまう老脳。
読んだことの有る本を、うっかりまた借りてくるような失態を繰り返さないためにも、
その都度、備忘録として、ブログ・カテゴリー「読書記」に 書き留め置くことにしている。
「江戸の竜巻」
老中支配下の勘定吟味役の岡松八右衛門の跡取り一人息子貞之助が病死、八右衛門には、元奉公人お茂世に産ませた双子、徳松、三五郎が、町人として別々に育てられているという。そのどちらかを跡取りにしたいと考える八右衛門。どちらがふさわしいか見定める役目を、新八郎名指しで頼み込んできた。定廻り同心大久保源太、岡っ引きの鬼勘(勘兵衛)に協力をさせ、探索、聞き込みを開始・・。一方で、6月1日、南町奉行根岸肥前守鎮守衛の市中巡察に従い、上野の御山へ向かっていた新八郎一行は、突然の雷雨、竜巻に襲われ、御堂で雨宿りしたが・・、「おそれながら、こちらへ・・・」・・・そこに、なんとお鯉がおり、新八郎が目を疑う。その後、「(一)大奥の恋人」で密偵として活躍したことも知っている南町奉行根岸肥前守は、お鯉を奥仕え女中として雇ってしまった。勤務先に想い人。もしかしたら、町奉行根岸肥前守は、二人の秘め事にも感づいておられるのではないか?、新八郎は背中に汗をかいてしまう。
「幽霊の仇討」
南町奉行所の奥仕え女中となったお鯉とは、しょっちゅう顔を合わせることはないが、秘め事を胸に持つ新八郎は、落ち着かない日々になる。「お鯉どのが、殿様の奥仕えに上がったそうでございますね」、妻の郁江に訊かれても、うかつな返事が出来ない。1ヶ月後、南町奉行根岸肥前守鎮衛に呼ばれて奥の居間に行くと、来客の茶をもてなしているお鯉がおり、思わず見とれる新八郎。客人は秋元但馬守の用人、酒井権左衛門。依頼は、厄介な敵討ち問題内密解決。下手をするとお家騒動として幕府からお咎めを受ける可能性も。定廻り同心大久保源太、岡っ引き松之助に協力させ、探索開始。矢貝兵馬、矢貝吉之進、井上右之助(良貞)、松島、お加津、明解、
「幽霊の敵討と申すは如何でござろうか」・・・。「南無阿弥陀仏」という六文字がぎっしり・・。あの件は、長老どのの智恵で・・・」
「狐斬り」
元勘定奉行だった旗本長沢内記は、町奉行根岸肥前守鎮衛の旧友だったが、隠居し、侑庵と称し、高田村に隠棲していたが病が再発、重態に。嫡男秀一郎は出張中で、用人荒井三右衛門が困り果てている。奉行の代わりに見舞いに行った新八郎は帰りそびれ、臨終に立ち会い、仮の野辺送りを手伝うことになったが・・・。竹林の向こうに旗本篠崎庄之助の隠居所が有り、不審な女が・・。能楽師森藤十郎が斬り殺される事件発生、下手人は?。手付同心大竹金吾と共に探索。織江(藤十郎の妻)、伊三郎(藤十郎の内弟子)、金之助、おすが、山崎良助・・・。
「河童と夕顔」
南町奉行肥前守鎮衛から、新八郎が内密の調査をするよう指示されたのは、松平周防守康任の用人田中半右衛門が、娘八重(旗本大友式部の奥方)の不慮の水死事故に疑念を持っており、力になってやれということだった。定廻り同心大久保源太に協力させ探索開始。死体不明のままの八重の初七日法要に、新八郎とお鯉は、田中半右衛門の代理、村上新八郎(変名)、半右衛門の女中として大友式部家に出席して探索・・・、。その帰りに、あわや・・。一方で、漁師(船頭)辰之助は・・・。漁師(船頭)巳之吉、女中おすみ、女中浜路、・・・・、事件?、事故?、
永代橋から大川を眺めた新八郎の脳裏に浮かんだのは、小梅村のおすみの住いでみた夕顔の花と、「船頭は、川で死にゃあ しません」といったくせに、河童の川流れになった辰之助の顔であった。
「狸の心中」
南町奉行所内与力隼新八郎、手付同心大竹金吾が、紅葉の名所下谷の正灯寺で見掛けたのは、直参無役の藤井文五郎、お栄兄妹。幕府御用達酒問屋鹿島屋清兵衛の道楽息子清之助はお栄を見初め、深い仲になったが、美しい妹を餌に、莫大な金を取り上げる悪辣な文五郎お栄を知る清兵衛は認めず、老中にまで助力を願い出る始末。一方で、文五郎は、お栄を大奥へ奉公させようと画策しており、新八郎の義兄神谷鹿之介の伯父で、お人好しの大御番組頭能勢市兵衛は安請合いしてしまい大慌て。大奥の事情については、「(一)大奥の恋人」で、詳しい新八郎・・・将軍家斉、御台所、お満の方、お楽の方、お宇多の方、お志賀の方、お利尾の方、お登勢の方、お蝶の方・・。最初から藤井兄妹を悪党悪女と決め込んでい新八郎に、妻織江が言う、「なんだか、お気の毒なように思います。その方とて、好きでそうしたことをなさっているのではございますまい・・」、かねがね、根岸肥前守も言っている。「悪党にも三分の理が有ると申すぞ」。
清之助と心中を覚悟したお栄は、病気で喀血。清之助は、転んで気絶。隼新八郎と大竹金吾は、ちょっと悪戯を・・・。奥州街道の大きな杉の木の根本で、気を失った男と、首をくくられた狸がぶら下がっており、早速、瓦版に「狸心中」が・・。根岸肥前守からお叱りを受けるものと思っていた新八郎に、お鯉が、「殿様は、狸心中とは、面白い、と大笑いなさっておいででしたよ」と告げられる。
「又右衛門の女房」
大きな地震の後、南町奉行所の用人高木良右衛門の娘(日本橋刀剣屋又右衛門の女房)お千加が奉行所にやってきた。地震の時、又右衛門が妻をおいて先に逃げてしまったことに腹をたててあいそをつかした・・・というもの。夫婦喧嘩は犬喰わず・・だが、娘に甘い良右衛門。新八郎は、良右衛門に頼まれ、早速又右衛門を訪ねる。ちょうど、無役の直参松谷清十郎から預かったばかりの重宝脇差南紀重国を見せられる。又右衛門に事情を説明、早速、又右衛門は、お千加を迎えに行き、元の鞘にもどったが、今度は、妻郁江が実家へ帰ってしまい、駿河台の神谷家に妻を迎えに行く羽目に。出先で、刀剣屋又右衛門の女房が手ごめにされているという急報が入り、隼新八郎、大竹金吾が、地を蹴って馳せ参じたが、抜刀してお千加に馬乗りになっているのは、松谷清十郎。酔って、目がつり上がり、口が歪んでいる。まずい。瞬間、廊下から一人の男がものすごい勢いで部屋に飛び込んできて、清十郎に体当たりし・・・・・。
松飾りがとれたばかりの正月、お鯉は根岸肥前守からいただいたという晴れ着を着て、薄化粧が初々しく、新八郎には目の毒、秘めた想いがまたゆらぐのだった。
「江戸の水仙」
元、手付同心大久保源太から手札を受けて鬼勘と呼ばれていた岡っ引き勘兵衛、隠居しても尚健在だが、新八郎に相談したいことが有るという。新八郎は湯島天神下の勘兵衛の家に行くが、6年前、日本橋の裏店で暮らしていた市五郎、お貞、おきよ、丑之助の経緯、顛末を語り始める。日雇い人足だった市五郎は、人殺しの罪で島送りになっていたが江戸に帰ってきたという。子煩悩な市五郎は、おきよ(13歳)、丑之助(8歳)を引き取りたいというのだが、拒まれているという。理由は?、事件の真相にも疑念が有り、探索開始。捨松、源助、弥助・・・、市兵衛は、弥助にだまされていた?、
大久保源太が一抱えの水仙を新八郎に届けに来て、「市五郎は二人の子を連れて、今日、房州へ旅立ちました」と告げる。・・・ずっしり重い水仙の束を新八郎はお鯉に渡し、その日、奉行所はどこへ行っても水仙の甘い香が漂った。
「松平家の若殿」
南町奉行根岸肥前守鎮衛に呼ばれた新八郎、松平伊豆守の用人三浦十右衛門を引き合わせられた。「お家の大事、何卒、若君を取り戻していただきたい」。新八郎は眉をひそめる。若君順之助が行方不明になっているという。早速松平伊豆守の下屋敷へ。屋敷で仕えているのは10人ばかり、腰越吉之進(お守り役)、若畑伊三郎、高田重吾、滝之井(乳母)、お妙、おとき(女中)、お千代(女中)、他。事件?、事故?。
大久保源太から手札を受けている松之助に協力させ探索、聞き込み開始。舟、ねんねこ、大男。松平伊豆守の下屋敷から忍び出た若い女を追尾。駕籠を降りたのは、上野、黒門前、松平伊豆守のもう一つの下屋敷のそばだった。藤江?、とは、「段取りは、医者の惣之介がつけたようです」・・・、根岸肥前守は重くうなずいた。「左様であったか」・・・「松平家から礼にと持って参った。藤江への香典、並びに探索方へのねぎらい、新八の好きに致すように・・・」袱紗包みを懐中に大急ぎで奉行所を出ると、大久保源太、松之助が嬉しそうに、走ってくる新八郎を迎えた。
(つづく)