図書館から借りていた 池波正太郎著「にっぽん怪盗伝」(角川文庫)を、読み終えた。本書には、昭和35年から昭和42年までに書かれ、週刊新潮、別冊小説新潮、小説現代、オール読物等で発表された、短篇時代小説12篇が、順不同で収録されている。夫々、独立した作品だが、いくつかの作品では、登場人物が重なっており、微妙に関連した連作短編の形式が見られ、面白い。
「あとがき」で、著者は、「この1冊におさめた短篇は、いずれも、私の悪漢(ピカレスク)小説というべきものだ。実在した悪漢たちを、いまも残されている「資料」によって描いた作もあるし、なにからなにまで作者の夢想によって成ったものもある。・・(後略)・・」と 記述されている。
読んでも読んでも、そのそばから忘れてしまう爺さん、読んだことの有る本を、うっかりまた借りてくるような失態を繰り返さないためにも、その都度、備忘録として、ブログ・カテゴリー「読書記」に 書き留め置くことにしている。
「江戸怪盗記」
主な登場人物・・葵小僧(近江屋喜兵衛、七之助)、伝七(天野大膳)、日野屋久次郎、おきぬ、長谷川平蔵宣以(のぶため)(火付盗賊改方の頭・鬼の平蔵)、佐島九兵衛(同心)、
捕らえられた葵小僧の自白が表沙汰になれば、多くの不幸な秘密が白日の下に晒されることになるところ、火付盗賊改方の頭、長谷川平蔵の独断的決断で、三日の内に打首、日野屋久次郎、おきぬ夫婦は、「これからは、本所の方角へ足を向けて寝られない」と言い合う。「鬼平」外伝ともいうべき江戸捕物帳だ。
「白浪看板」
主な登場人物・・夜兎の角右衛門、前砂の捨蔵、おこう(女乞食)、くちなわの平十郎、名草の網六、長谷川平蔵宣以(のぶため)(火付盗賊改方の頭・鬼の平蔵)、
盗賊にも三分の理、夜兎の角右衛門が、自分と一味へ厳しく課した戒律は、一、盗まれて難儀する者へは手を出すまじきこと、一、つとめするとき、人を殺傷せぬこと、一、女をてごめにせぬこと。手下が掟を破ったことで、角右衛門は、自首。平蔵がとった処置は?
「四度目の女房」
主な登場人物・・伊之松(大工小僧)、おまき、赤池の網右衛門、蛞蝓の仁吉、
おまきと世帯をもって3年目の伊之松が突然失踪。点々と渡り歩き、強盗を繰り返して数年後、おまきが絞殺された話を真に受け、盗賊仲間の掟「一度捨てた女に二度と関わり合うな」だったが。自らの仕掛けで生き埋め自殺、ところが、おまきは・・・。
「市松小僧始末」
主な登場人物・・市松小僧(又吉)、豆仙(仙之助)、おまゆ(嶋屋重右衛門の一人娘・大女)、永井与五郎(同心)、弥七、
おまゆは、いきなり又吉の右腕をつかみ、手にした薪割りを振りかぶったのだ。死罪を免れた又吉・・・。
「喧嘩あんま」
主な登場人物・・豊ノ市(按摩)、お伝、お美代、又吉、おまゆ、
藤沢宿の旅籠ひたち屋権右衛門に泊った小間物屋の又吉が、侍の刀を隠し、按摩の豊ノ市の危機を救ったが・・・、1年後、江戸へ出てきた豊ノ市と又吉が、あの時の三人の侍に取り囲まれ・・・、おまゆが・・・。「うちのかみさんは巴御前よ」
「ねずみの糞」
主な登場人物・・小間物屋市松屋又吉、おまゆ、おふく、くめ、永山吉十郎、嶋屋重右衛門、彦太郎、
妹くめの敵討ちのため江戸に出てきたおふく、おふくは、敵討ちを断念し京都に帰ってしまったが、堅気になって6年目の又吉が、屋台で偶然、おふくの敵討ちの相手永山吉十郎と出会い・・・、
「熊五郎の顔」
主な登場人物・・雲霧仁左衛門、山猫三次、州走の熊五郎、木鼠の吉五郎、山田藤兵衛(与力)、政蔵、お延、由松、信太郎(旅上人)、和泉屋治右衛門、
怪盗雲霧仁右衛門の子分、山猫の三次が越後で捕らえられ、江戸へ護送されることになったが、逃亡した州走の熊五郎がこれを助け出そうとすること必至。一方で、深谷宿の先で茶店を営むお延の夫政蔵は、元目明かしでその熊五郎に殺されている。人相書きが熊五郎にそっくりな信太郎と情を交わしたお延・・、お延は迷うが。護送に加わった与力山田藤兵衛の活躍で、解決・・・。実は・・・。
「鬼坊主の女」
主な登場人物・・鬼坊主清吉、無宿左官粂(粂次郎)、無宿三吉(入墨吉五郎)、お栄、六太郎(左官粂の弟・左官小僧)、伊蔵(髪結)、
伊勢で捕縛された、鬼坊主清吉、左官粂、入墨吉五郎は、江戸に護送され、東二間牢に入れられたが、辞世の歌を遺そうと言い出す。妾のお栄、六太郎に託し、貧乏浪人に作らせるが、600両の隠し金をめぐり、六太郎は毒殺され、お栄は、3人の江戸引き回し、品川刑場での磔を見送る。「武蔵野に名ははびこりし鬼あざみ今日の暑さに少し萎れる」「商売の悪も左官の粂なれば小手に離れぬ今日の旅立ち」「浄瑠璃の鏡にうつる紙のぼりいまのうわさも天下いちめん」
「金太郎蕎麦」
主な登場人物・・お竹、おろく(水茶屋すずき女主人)、ちゃり文(彫物師)、瀬平(蕎麦屋無極庵店主)、おりき、房次郎、鬼坊主清吉、由松、
越後津川出身のお竹、9歳で江戸に出て奉公、不運がつきまとい、19歳で客をとるようになったが、20両をぽんとくれた客があった。蕎麦屋をやってみたい一心で、もろ肌脱いで金太郎の彫り物、蕎麦屋瀬平に捨て身で掛け合い、房次郎を借り、商売繁盛。1年後、鬼坊主清吉が、磔処刑されたが、蕎麦屋開店の元手となった20両は、実は、清吉がくれた金であることを、お竹は知らず、「くだらない泥棒のお仕置きなんぞを見物しているひまが私たちにあるものかね」
「正月四日の客」
主な登場人物・・庄兵衛(蕎麦屋「さなだや」の店主)、おこう、清蔵(御用聞き、奉行所の手先・丸屋の親分、丸清の親分)、前砂の甚七、亀の小五郎、三枝平吉(同心)、
本所枕橋の蕎麦屋「さなだや」は、正月三が日は休み、1月4日に店を開けるが、その日1日だけは「さなだそば」しか出さない。舌がひん曲がる程辛い汁で、例年、客は一人も来ないが、その年の1月4日の夕方、男がやってきて、「さなだそば」を食べ、毎年 1月4日にやってくるようになった。1月4日は、信州松代で酒屋をしていた庄兵衛の両親が、押し込み強盗、亀の小五郎に惨殺された吉祥月命日。御用聞き清蔵の情報で確信した庄兵衛。「爺い、売りゃがったな」。大捕物の末・・・。
「おしろい猫」
主な登場人物・・お手玉小僧(掏摸の栄次郎)、岩戸屋伊兵衛、平吉(木綿問屋岩戸屋の若旦那)、おつる、お長、清五郎(御用聞き)
岩戸屋の一人娘おつるの婿になった平吉は、浅草の裏長屋で育ったが、幼馴染のお長と出会い、情を交わしてしまい、お長から、猫に白粉を塗る嫌がらせを受け、子供が出来たと脅迫されたりし、やはり幼馴染だった栄次郎に相談するが・・・。栄次郎は、吉原で斬り殺され、懐から岩戸屋のふくさ包の15両が・・。お長は、しめしめ・・。
「さざ波伝兵衛」
主な登場人物・・さざ浪伝兵衛、伊之助、清水平内(同心)、砂堀の蟹蔵、大五郎、くちなわ平十郎、綱六(非人)、平吉(蒲原宿問屋場の人足・伊之助の息子)、
小田原宿の旅籠「しころ屋」で飯盛り女と添い寝していたさざ浪伝兵衛は、火付盗賊改方山川安左衛門の命で江戸から小田原へ追ってきた清水平内他同心5人、手先8人、小田原奉行所の捕方10数人に踏み込まれたが、逃れた。・・・が富士川の上流で・・・。「あ・・・、いけねえ、い、伊之助の亡霊が・・・い、いけねぇ。