私が見る作品としては異色といえましょう。
まあ、割と「感動の名作」、というか分かりやすいものが多いよね。
この作品はちょっと、感動の名作、というのからは遠い。
けれど、面白くないかといえば、やはり面白く、強烈に訴えるものを持ってましたねえ。
まずは、「あたしは絶対人とは違う、特別な人間なんだ」と自信満々の姉、澄枷(すみか)。しかしそれは自意識過剰なだけの勘違い女。
実際にいたら、あまり近づきたくないタイプだね。
彼女は、女優を目指して東京に出ているんだけれど、両親が亡くなって葬儀のため実家に帰ってきた。
なんというか、ちーっとも、その死を悲しんでいるようにはみえなかったですねえ。
それは、他の家族も同様ですよ。妹は沈んでいるようだけど、実は姉が戻ってくることを恐れていた、と。
そう、妹の清深(きよみ)は、以前姉が体を売って上京のお金を稼いでいたことなどをホラー漫画に仕立てて、見事に新人賞を獲得。そのために、姉は地元にいられなくなってしまった・・・というそのことを大変後悔しいる、と。
姉もまた、それをネタに執拗に妹いじめをするんですよね・・・。女優としてうまくいかないことまで、妹のせいにしちゃうんだから。
清深はしかし実は、後悔とは裏腹に、またまた繰り返す姉の独りよがりの行動が「面白」く漫画のネタにする誘惑から逃れられない。
あの、時々挿入される「清深」作のホラータッチのカットは実に迫力ですよね~。
一方兄は、後妻の連れ子ということで、血のつながりはない。なぜか、わがまま放題の澄枷に気を使う一方、妻には、少しの関心も示さない、というかむしろ虐待。
はい、驚くじゃありませんか。妻とは一切ナニがないのだと・・・。いったい何のために結婚したんだよ! ただの家政婦じゃん。女をばかにするなっ!!
まあまあ、おさえて。その妻はなんともお人よしというか、プラス思考というか。こんな家でも、よく耐えているよねえ。
この人だけが救いのようにも思えるけれど、周りから浮きまくり。でも、この家族ではこういう性格じゃないといられないかも・・・。なんと、彼女はコインロッカーで拾われたという不幸な設定。だからこそ、家族のぬくもりがほしくてじっと我慢なんだよ。涙ぐましい話ではありませぬか・・・。
それで、こんな『一触即発の人間関係を赤裸々かつブラックユーモアたっぷり』に描いている、というこの作品。
そうだねえ、ここまで読んだら、ちょっと悲惨な話のように思えちゃうけど、実はブラックユーモアで、あっけらかんと描かれているわけですね。
さてさて、ここで、この映画の題名に戻ります。
「腑抜けども」、これは、この映画の家族みんなのことですね。
「悲しみの愛を見せろ」・・・ですか。悲しみの愛・・・?。
テーマはつまり、家族なんですね。一家団欒・・・、まあ、一般的には平和、安らぎ、愛。そんなイメージを喚起させるものですが、現実は、なかなかそうは行かない。逆に、断ち切りようのない血のつながりがうっとうしく、愛というよりは憎しみを抱くこともまれではない。
ほとんどそのように、憎みあって向かい合っているこの家族にむけて、「悲しみの愛」を見せろ、といっているのでしょう。
お~、珍しくちょっと格調高いですね。
ただ、この家族に愛がないのではなくて、非常に屈折した「悲しみ」の愛、それが彼らにはある。
ラストで、バスから妹を引きずり降ろして、取っ組み合いのけんかをする、姉妹。
そこでまた、二人バスに乗り込み、一緒に上京するらしい・・・。
憎みあっていてさえも、奥底になにやらつながる「愛」らしきもの。
はい、確かに、見せていただきましたよ・・・。
それにしても、女のたぎる情念の前では、男は情けないですね・・・。はかなく逝ってしまったし・・・。
監督:吉田大八
出演:佐藤江梨子、佐津川愛美、永瀬正敏、永作博美