「ヴィリ(Wilis)」 山岸凉子 メディアファクトリ
店頭で見つけたこの本。
バレエマンガ。
「テレプシコーラ」の続編?と思ったのですが、これはまた、別の話です。
もちろんバレエは「アラベスク」の頃から山岸凉子の真骨頂ではありますが、もう一つの彼女の得意分野。
それは怪談。
この本は、この、バレエと怪談の融合で、山岸ファンには垂涎の一作といえるでしょう。
「ヴィリ」または「ウィリー」は、クラシックバレエの代表作「ジゼル」に登場する結婚直前になくなった女性が精霊になったもの。
・・・つまり、多分にこの世に未練たっぷりの幽霊、ということです。
この演目を控えるバレエ団の人々が織り成すドラマがこの本。
43歳の東山礼奈はバレエ団を経営する彼女自ら「ジゼル」を踊る予定だが、また最近特に美しく、踊りも円熟。
そのわけは、IT企業の社長、高遠和也との付き合いにあるようだ。
彼女には若い頃付き合って別れた恋人との間に生まれた娘、舞がいる。
プロポーズを心待ちにする礼奈だったが、和也が愛していたのは意外にも・・・!
そこで受けた精神的打撃はあまりにも大きく、抜け殻のようになってしまう礼奈。
そしてステージの奈落から誤って転落。
「ジゼル」に登場するヴィリ。
以前からひそかに語られている、奈落から転落死したダンサーの幽霊譚。
それをなぞるかのような、今回の事故。
これらが絡み合って、独特の味が出ています。
・・・ということで、ちょっぴり怖いバレエのストーリー。
しかし私が一番ショックだったのは、はっきり言ってただの「おじさん」の高遠氏の相手がなんと高校生。
・・・ストーリー上の都合とはいえ、それなはいでしょ~、ほとんど犯罪。
まあ、IT企業社長・・・といえば連想する、アウトサイダー取引であっけなくも逮捕されちゃうところがまた、なんとも・・・。
ここで登場する男性は、女性が成長するための単にアイテムとしての男性であり、その人物像は、さして重要ではない、ということなのだと思います。
この描写の軽さが、証明しています。
それにくらべて、この、礼奈のおそろしいまでの生々しさ・・・。
そして、開き直る強さ。
ここがやっぱり、年齢を重ねた「女」、山岸凉子の力量なんだなあ。
ほとんど想像ついちゃうかもしれませんが、あえてネタばらしをしていませんので、この衝撃を、ぜひご自分で味わってください・・・。
満足度★★★★