映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

ミスター・ノーバディ

2011年05月29日 | 映画(ま行)
永遠の“刹那”



           * * * * * * * *

ベルギーのジャコ・ヴァン・ドルマル監督、
なんと「八日目」から13年ぶりの作品とか。
なんだかそれだけでも希少価値という感じですね。
さて、これはとにかく不思議な作品です。


2092年、科学技術の進歩により不死が実現した世界。
しかし、なんの延命手段もとっていない118歳ニモは、
この世界で唯一人、今命の炎を消そうとしている人間。
そのニモが記者に問われるままに、自らの人生を語り始めるのですが・・・。

その思い出は、セピア色ではなく鮮やかな色彩に彩られていて印象的。
むしろこの年老いたニモのいる病室のほうが
よほど単調で現実感に欠けています。



ニモが9歳の時。
両親の離婚により、少年ニモは究極の選択を迫られるのです。
父と母、どちらについていくか。
どうする・・・。
決められない・・・。
子供にこんなことを決めさせてはいけませんよね。
・・・しかしまあ、それを言ってしまっては物語が始まらない。

ここで、立ち往生してしまったニモは、
そこから分岐した様々な人生を歩むのです。
父についていくとどうなるのか。
母と行くとどうなるのか。
その違いがその後の彼の人生を大きく変えていく。
バタフライ効果と言うヤツですね。
「バタフライ・エフェクト」が思い出されます。

それぞれの道で、彼の愛の対象も変わって行くのですが・・・。
それにしても、
愛する人とは離ればなれで巡り会えなかったり、
愛しても報われなかったり、
心から愛せなかったり。
どうしても愛に包まれた幸福が訪れない。
そして、幾度も繰り返される彼の死のイメージ。

これは元々の出発点が、暗く不安定な場面だからなのでしょうか。
でも、実はどの道でも、ニモが最も深く思っているのはただ一人のように思えます。
その思いの切なさが、
単に不思議な物語、というよりも深い奥行きを醸し出しているのです。
少年ニモが究極の選択をするほんの刹那。
実はニモは、その永遠の刹那を行き来して彼女を探しているのかも。

年を取ると加速度的に時が進むのが早く感じられる。
老いて思い出すのは子供の頃や若い頃のこと。
昨日のことや今朝のことはすぐに忘れてしまったり・・・。
時間と私たちの記憶は相関関係ではないようです。



ジャレッド・レト、
私にはさほど馴染みのある俳優ではないのですが、
ここでは様々な表情がうかがえて、ステキでした。
118歳老人の特殊メイクは、
さすがにもう面影を探すのも難しいくらいでしたけれど・・・。
ちょっと興味がわいてきてしまったので、
この先他の出演作も見てみようと思います。
・・しかし、「アレキサンダー」、
「ロード・オブ・ウォー」・・・? 
見てるんですけどね~。
ぜんぜん覚えてない。
まあ、こちらは主役ではないですからね・・・。

「ミスター・ノーバディ」
2009年/フランス・ドイツ・ベルギー・カナダ/137分
監督:ジャコ・ヴァン・ドルマル
出演:ジャレッド・レト、サラ・ポーリー、ダイアン・クルーガー、リン・ダン・ファン、リス・エバンス