映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「喋々喃々」 小川糸

2011年05月31日 | 本(恋愛)
東京下町の四季の彩りの下で

喋々喃々 (ポプラ文庫)
小川 糸
ポプラ社

            * * * * * * * *

喋々喃々(ちょうちょうなんなん)とは・・・
男女が楽しげに小声で語り合うさま、とあります。
このストーリーは恋愛物語ですが、
そういう題名よりは、もっとしっとりと大人のイメージがありまして・・・、
私は、はまりました!

主人公、栞(しおり)は、
東京の下町、谷中でアンティーク着物店を営んでいます。
ある日そこへ、父親に似た声をした男性客が訪れます。

・・・その時、ふわりと滑らかな風が舞い上がったような気がした。
・・・そばに近づくと、男性の首の辺りから果物のようなすがすがしい香りがした。


こんな描写を見るだけで、よくわかりますね。
そうです、フォーリン・ラブ!!
しかし、この男性春一郎さんの左手薬指には、指輪があるのです・・・。


初めての出会いの季節は新春。
二人の心はおずおずと接近していき、
そして季節は巡っていきます。
春、夏、秋、冬・・・そうして年末へと一巡り。
季節ごとの地域の行事、
服装や食べ物、
四季折々の描写がとても懐かしく美しい。

栞は商売柄、いつも和服姿です。
こんな人に優しくされたら、そりゃ男性はコロリでしょうよ・・・。
ちょっとズルイなんて思ったりして。
こう言うとすごく古風な物語に思えるかもしれませんが、
でもやはりこれはしっかり現代の物語。
彼女の両親は離婚していて、父は別の女性と再婚。
母は結婚中に別の男性とフリンし子供を身ごもった。
現在、母は、栞の実の妹、そして血のつながらない小さな妹と3人で暮らしている・・・、
などと複雑な事情があったりもします。
栞は、子供が苦手、などといいつつ
子供へ向ける栞の目、気持ち、
そんな中に、独身女性のまだ果たし得ていない
母性がほのみえる感じがして・・・。
そういう細やかな感情が、それとなく表されているところがいいですね。

栞自身の別れた恋人は、既に別の女性と結婚しているのですが、
その彼から年賀状と暑中見舞いの絵はがきが、毎年恒例として舞い込む。
彼のことは忘れられず、そのはがきを楽しみにしていた栞ですが。
このことが実は大きな伏線で、思いがけない展開を見せるのです・・・。

栞と春一郎さんは、ひたすらにお互いが大事な存在になっていくのですが、
そうなればなるほど、口には出さないけれども「不倫」という事実が重く、
罪悪感に駆られていきますね。
この切なさ・・・。
出会ってしまったものは、仕方ないじゃない。
本当にそう思えてしまいます。
一体どのような結末を迎えるのか、
後半はそれが気になって、
ますますやめられなくなってしまいます。


現代的センスで飾られた和風の小物店。
私はそういうお店が大好きなのですが、
たとえてみるならこの物語のイメージは、それに近いものがあるかも。
あまりにステキで生身の男性じゃないみたい、
そう思えてしまう春一郎さん。
何だか夢見る少女の頃のように、あこがれてしまいます。
いい年して、やっぱりこういうの、好きなんです・・・。
俳優にたとえるなら・・・誰でしょう? 
う~ん、どうも思いつかない。
むしろ、少女漫画の中にモデルはありそうです。

それから、やはり小川糸さんらしく、
食べ物の描写がすごくいいですね。
ギンギンのグルメではなく、
ごくごく日常のお総菜だったりお菓子だったりするのですが、
とてもおいしそう。
きちんとしたおいしいものを好きな人と一緒に食べる。
これぞ至福の時ですね。

「喋々喃々」小川糸 ポプラ文庫
満足度 ★★★★★