映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「エンドロール」鏑木蓮

2014年05月17日 | 本(ミステリ)
エンディングだけでは決まらない

エンドロール (ハヤカワ文庫JA)
鏑木 蓮
早川書房


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映画監督になる夢破れ、故郷を飛び出した青年・門川は、
アパート管理のバイトをしていた。
ある日、住人の独居老人・帯屋が亡くなっているのを見つけ、
遺品の8ミリフィルムを発見する。
映っていたのは重いリヤカーを引きながらも、笑顔をたやさない行商の女性だった。
門川は、映像を撮った帯屋に惹かれ彼の人生を辿り、
孤独にみえた老人の波瀾の人生を知る。
偶然の縁がもたらした温かな奇跡。


* * * * * * * * * *

本作の語り手、門川は映画好きで映画監督になりたいという思いを持っていました。
けれども、夢を実現することはそう簡単ではない。
門川の好きな「映画」というのは、かなり古いものなので、
到底私の守備範囲ではないのが残念なのですが・・・。
彼は独居老人帯屋が孤独死していたのを発見し、
その部屋で遺品の8ミリフィルムを見つけるのです。
その映像を見て門川は心打たれてしまう。
一体、帯屋老人というのは何者で、どういう状況でこんな素晴らしい映像を撮影したのか・・・。
門川は帯屋老人の人生を辿ります。


一人の孤独な老人が抱えてきた思い。
孤独死だからといって、彼が惨めな人生を送ったわけではなかった。
そのことは映画についてのこんな文章が語っています。

「フィルムの善し悪しは、すべてを見終わった後、そこはかとなく感じるものです。
オープニングだけでも、エンディングだけを観て判断するものではありません。
私は最悪のエンディングだと評されている作品をいくつか見たことがあります。
けれどもなかには心に残り、惹かれ続けているものもあります。
・・・私の人生のエンディングがどんなものであれ、
エンドロールには多くのキャストの名前が連なることでしょう。」


確かに、死に方だけでその人の人生を決めつけることはできない。
実際モノクロ映画作品を観るような、
映画と人生について、じっくり書き込んだストーリーでした。


「エンドロール」鏑木蓮 ハヤカワ文庫
満足度★★★☆☆