映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

エリート・スクワッド

2014年05月30日 | 映画(あ行)
秩序があるとは言いがたい国で・・・


* * * * * * * * * *

自分でレンタル予約をしておきながら、
果たしてどうしてこれを見ようと思ったのだったか、
記憶していいないことがたまにあります。
本作もそんな作品の一つですが・・・
ベルリン国際映画賞金熊賞受賞作ですか。
まあ、そんなところでしょう。
これがブラジル作品ということで、なかなか異色です。


ブラジル、リオ・デ・ジャネイロのスラム街。
武器で武装した麻薬のディーラーたちが取り仕切る大変危険な場所。
しかし、それを取り締まるべき警察が腐敗しきり、
権力を傘にギャングからうまい汁を吸ったりして、
ギャング以上に厄介な存在に成り果てている。
たまに正義感にもえた警察官がいると、
そこはたいへん生きにくい世界だったりするわけです。
新任のネトとマチアスもそんなやる気に満ちた警官です。
さてしかし、その警察内にエリート特殊部隊BOPE(ボップ)がある。
彼らこそは腐敗を憎み非常に過酷な入隊試験をパスした屈強な者達の集団。
その隊長ナシメントは、しかし妻の妊娠を機に引退を考えています。
あまりにも過酷で危険な任務が重く感じられてきた。
そんな折、ローマ法王の来訪に伴い、
スラム街の麻薬密売組織掃討を命じられ、BOPEが動き出す・・・。
BOPE入隊を果たしたネトとマチアスは・・・。


ここに描かれる社会が凄まじいですね。
BOPEとギャングたちの抗争は既に“戦争”です。
相手が武器を構える以上、こちらも武装せずには何もできない。
逮捕とか裁判とか、そんな制度が存在しないかのように、
敵はその場で即射殺です。
そうしてまで腐った部分を切り捨てなければ、
正常な社会を維持できないという・・・
恐るべき世情にただただ唖然とさせられました。


そういう意味で、ものすごく力のある作品だと思います。
でもこれは単にそういう荒くれたバイオレンス作品なのではありません。
ナシメントが非情に徹するあまり自分を保てなくなったりする、
そのストレス。
抗争に巻き込まれたようにして死んだ「息子の遺体を探して欲しい」と訴える母親の言葉に、
返す言葉がありません。
自分もまた一人の子どもの父親になろうとしている時なのでなおさらに。


肉体も精神も極めて屈強。
そんな男たちでさえ出会う心の動揺が描かれているところが秀逸です。


それにしても、まもなく始まるブラジルのサッカーワールドカップ。
本当にこの国で大丈夫なのか・・・?
などと、にわかに不安になってくるのでありました・・・

エリート・スクワッド [DVD]
ヴァグネル・モーラ,アンドレ・ラミロ,カイオ・ジュンケラ,ミルヘム・コルタス,フェルナンダ・マシャード
トランスフォーマー


「エリート・スクワッド」
2007年/ブラジル/115分
監督:ジョゼ・パジャーリャ
出演:バグネル・モーラ、アンドレ・ハミロ、カイオ・ジュンケラ、ミリュム・コルタス
警察の腐敗度★★★★★
満足度★★★★☆