映画と本の『たんぽぽ館』

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「ランクA病院の愉悦」海堂尊

2016年07月01日 | 本(その他)
やはりストレスの軽減が、健康への近道なのか

ランクA病院の愉悦 (新潮文庫)
海堂 尊
新潮社


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とんでもない医療格差が出現した近未来の日本。
売れない作家の終田千粒は「ランクC病院」で
銀行のATMに似たロボットの診察しか受けられない。
そんな彼に「ランクA病院」潜入取材の注文が舞い込む表題作。
"日本一の健康優良児"を目指す国家プロジェクトに選ばれた男の悲喜劇「健康増進モデル事業」など、
奇抜な着想で医療の未来を映し出す傑作短篇集。


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海堂尊氏の「医療」に係るコミカル&シニカルな怪作短編集。
でもこれもやはり海堂ワールド。


冒頭「健康増進モデル事業」では、
厚生労働省の新企画として実験的に行われたこの事業で、
実験材料?に選ばれた男の悲喜劇が描かれます。
健康優良児ならぬ、「健康優良成人」に仕立てられる男。
健康のために職場などの数々のストレスを"国家権力"が排除してくれたりもするのですが・・・。
厚生労働省の"あの人"も一瞬ですが登場したりする、ユニークな一作。


「ランクA病院の愉悦」では、病院は患者の支払能力に応じて
A~Cの3つにランクづけられており、
貧乏人はCランクの病院にかかるしかありません。
そこでは、銀行のATMみたいなロボットが
アンケート形式の質問をして診断をするという、
なんともお寒い近未来のお話・・・。
後書きには
「ここに書かれた物語はフィクションだが絵空事ではない。
そう思ってこころして読んで欲しい」
とあります。
いやしかし、今でもロボットのほうがマシ、みたいな対応をする医者もいますよね。
いっそ、うんと丁寧な対応をするようプログラムされたアンドロイドが
開発されるならそれでもいいかも・・・。


海堂尊氏、今年で作家デビュー10年だそうです。
かなりの著作があるように思いますが、まだそんなものだったんですね。
これまで桜宮市を中心とした海堂ワールドを繰り広げてきましたが、
今度は全くテーマを変えて、チェ・ゲバラのストーリー「ポーラスター」に取り組むとのこと。
それもなんだか面白そうです。

「ランクA病院の愉悦」海堂尊 新潮文庫
満足度★★★.5