互いに知らないままに、作用しあう人たち
* * * * * * * * * *
「君はこれから世界でいちばんタフな15歳の少年になる」
―15歳の誕生日がやってきたとき、僕は家を出て遠くの知らない街に行き、
小さな図書館の片隅で暮らすようになった。
家を出るときに父の書斎から持ちだしたのは、現金だけじゃない。
古いライター、折り畳み式のナイフ、ポケット・ライト、濃いスカイブルーのレヴォのサングラス。
小さいころの姉と僕が二人並んでうつった写真…。(上)
四国の図書館に着いたカフカ少年が出会ったのは、
30年前のヒットソング、夏の海辺の少年の絵、15歳の美しい少女―。
一方、猫と交流ができる老人ナカタさんも、ホシノ青年に助けられながら旅を続ける。
"入り口の石"を見つけだし、世界と世界が結びあわされるはずの場所を探すために。
謎のキーワードが二人を導く闇の世界に出口はあるのか?
海外でも高い評価を受ける傑作長篇小説。(下)
* * * * * * * * * *
えーと、あまりにも面白かったので、また私らの出番らしいです。
本作、カフカという15才の少年が家出をして四国へ行き、
不思議な体験をしながら成長していく・・・と、まあ、そんなところなのだけれど。
でもそんな言い方ではこの面白さは全然伝わらないね。
まず、なぜ15歳で家を出なければならなかったのか。
父と二人暮らしだったんだね。
母親と姉がいたはずなんだけれど、カフカが物心付く前に家を出てしまっていて、
今はどこでどうしているのかも全然わからない。
とにかく、彼は15歳、まだ中学生なんだけれども家を出る。
それがね、読み進んでいって驚くのだけれど、彼の父というのが"ジョニー・ウォーカー"という名で、
ものすごくやばい人物として登場するんだなあ。
こんな父だもの、一緒に住めるわけなんかない。
彼が家を出るのは当然だと、納得。
えーと、多くの物語は「父と息子の相剋」をテーマとして取り上げ、
息子は父親を乗り越えることが義務付けられるよね。
うん、それができて初めて、少年は大人になる、みたいな。
でもさ、この話、父親を乗り越えるどころか抹殺しちゃうんだよね。凄いよね。
う~ん、彼が直接殺害するわけでもないし、そう言ってしまうと語弊があるかもしれないけれど、
結果としてはそういうことなんだろうなあ・・・。
つまり、自分が自分として生きていくために、DNAなんか関係ない。
自分はあくまでもただ一人の独立した自分、ということなのかもしれない。
では母親とのことは・・・?
えーと、子どもは0~3歳くらいまでは「母子一体」であるという話を最近聞いたんだな。
その後母子分離をして、自己と他者の認識を深めていく、と。
カフカの場合、0~3歳の頃は確かに母親と一緒に生活はしていたのだけれど、
多分母親の心はそこにあらずで、しっかり「一体」感を得られなかったのじゃないかなあ。
だからね、今さらではあるけれど、現実的な意味で母親と「一体」化したわけなんだと思う。
そうじゃなければ、カフカは自立した大人に成ることはできなかった。
なるほどねえ・・・。
じゃ、姉とのことは?
・・・ハハ、ごめん、そこのところはよくわかんない。
でもね、私はホントは、ナカタ老人と星野くんの方のストーリーのほうが好きだったワ。
カフカのストーリーとは交互に語られる部分だよね。
戦時中、子供の頃に不可思議な体験をして、その時からすっかり記憶が緩んでしまい、
字も読めなくなってしまったナカタ老人。
その彼が、迷子の猫を探すうちにジョニー・ウォーカーという怪しい人物と出会い、壮絶な体験をする。
その後老人は何故か突然西へ向かって旅を始める。
行く際は多分、カフカのいる四国・・・。
ナカタ老人と出会い老人の手助けをすることになるのがトラックの運転手、星野青年。
もともと人助けをするようなタイプでは全然なかったのだけれど、
何故かナカタ老人の不思議な静かさ穏やかさや意志に引きこまれ、
手助けをせずに入られなくなってしまう。
二人は「入り口の石」を探すことになる・・・と。
ほんとに、いいコンビなのですわ、この二人。
でも結局この二人とカフカは最後まで会うことはないんだよね。
そう、この二人がカフカにとってはものすごく重要な役割をはたすわけなんだけれど、
カフカはそれを知らないままというわけだ。
せめて最後にそれと知らずにすれ違うシーンくらいあってもいいのに、と思ったりもしたけれど。
いや、人の世はそんなもんでしょう。
人はみな知らないうちにどこかで誰かの役にたっているのかもしれない。
それで、結局ナカタ老人が子供の頃に受けた体験ってなんだったの?
それも明らかにはされていないよね。
私が思うに、それはその時にナカタ少年が受けた心の衝撃を
彼自身が消してしまおうとした結果のような気がするなあ・・・。
その意志があまりにも強かったので、周りの子供達も影響を受けてしまったけれど、
大事にはいたらなかった・・・と。
あくまでも私らの勝手な想像だけれど、こんなふうに色々考えるところが多いし、
そして答えもない物語。
堪能しました。
やっぱり村上春樹さんはノーベル文学賞を受賞すべきです。
期待します!!
「海辺のカフカ」村上春樹 新潮文庫
満足度★★★★★
海辺のカフカ (上) (新潮文庫) | |
村上 春樹 | |
新潮社 |
海辺のカフカ (下) (新潮文庫) | |
村上 春樹 | |
新潮社 |
* * * * * * * * * *
「君はこれから世界でいちばんタフな15歳の少年になる」
―15歳の誕生日がやってきたとき、僕は家を出て遠くの知らない街に行き、
小さな図書館の片隅で暮らすようになった。
家を出るときに父の書斎から持ちだしたのは、現金だけじゃない。
古いライター、折り畳み式のナイフ、ポケット・ライト、濃いスカイブルーのレヴォのサングラス。
小さいころの姉と僕が二人並んでうつった写真…。(上)
四国の図書館に着いたカフカ少年が出会ったのは、
30年前のヒットソング、夏の海辺の少年の絵、15歳の美しい少女―。
一方、猫と交流ができる老人ナカタさんも、ホシノ青年に助けられながら旅を続ける。
"入り口の石"を見つけだし、世界と世界が結びあわされるはずの場所を探すために。
謎のキーワードが二人を導く闇の世界に出口はあるのか?
海外でも高い評価を受ける傑作長篇小説。(下)
* * * * * * * * * *
えーと、あまりにも面白かったので、また私らの出番らしいです。
本作、カフカという15才の少年が家出をして四国へ行き、
不思議な体験をしながら成長していく・・・と、まあ、そんなところなのだけれど。
でもそんな言い方ではこの面白さは全然伝わらないね。
まず、なぜ15歳で家を出なければならなかったのか。
父と二人暮らしだったんだね。
母親と姉がいたはずなんだけれど、カフカが物心付く前に家を出てしまっていて、
今はどこでどうしているのかも全然わからない。
とにかく、彼は15歳、まだ中学生なんだけれども家を出る。
それがね、読み進んでいって驚くのだけれど、彼の父というのが"ジョニー・ウォーカー"という名で、
ものすごくやばい人物として登場するんだなあ。
こんな父だもの、一緒に住めるわけなんかない。
彼が家を出るのは当然だと、納得。
えーと、多くの物語は「父と息子の相剋」をテーマとして取り上げ、
息子は父親を乗り越えることが義務付けられるよね。
うん、それができて初めて、少年は大人になる、みたいな。
でもさ、この話、父親を乗り越えるどころか抹殺しちゃうんだよね。凄いよね。
う~ん、彼が直接殺害するわけでもないし、そう言ってしまうと語弊があるかもしれないけれど、
結果としてはそういうことなんだろうなあ・・・。
つまり、自分が自分として生きていくために、DNAなんか関係ない。
自分はあくまでもただ一人の独立した自分、ということなのかもしれない。
では母親とのことは・・・?
えーと、子どもは0~3歳くらいまでは「母子一体」であるという話を最近聞いたんだな。
その後母子分離をして、自己と他者の認識を深めていく、と。
カフカの場合、0~3歳の頃は確かに母親と一緒に生活はしていたのだけれど、
多分母親の心はそこにあらずで、しっかり「一体」感を得られなかったのじゃないかなあ。
だからね、今さらではあるけれど、現実的な意味で母親と「一体」化したわけなんだと思う。
そうじゃなければ、カフカは自立した大人に成ることはできなかった。
なるほどねえ・・・。
じゃ、姉とのことは?
・・・ハハ、ごめん、そこのところはよくわかんない。
でもね、私はホントは、ナカタ老人と星野くんの方のストーリーのほうが好きだったワ。
カフカのストーリーとは交互に語られる部分だよね。
戦時中、子供の頃に不可思議な体験をして、その時からすっかり記憶が緩んでしまい、
字も読めなくなってしまったナカタ老人。
その彼が、迷子の猫を探すうちにジョニー・ウォーカーという怪しい人物と出会い、壮絶な体験をする。
その後老人は何故か突然西へ向かって旅を始める。
行く際は多分、カフカのいる四国・・・。
ナカタ老人と出会い老人の手助けをすることになるのがトラックの運転手、星野青年。
もともと人助けをするようなタイプでは全然なかったのだけれど、
何故かナカタ老人の不思議な静かさ穏やかさや意志に引きこまれ、
手助けをせずに入られなくなってしまう。
二人は「入り口の石」を探すことになる・・・と。
ほんとに、いいコンビなのですわ、この二人。
でも結局この二人とカフカは最後まで会うことはないんだよね。
そう、この二人がカフカにとってはものすごく重要な役割をはたすわけなんだけれど、
カフカはそれを知らないままというわけだ。
せめて最後にそれと知らずにすれ違うシーンくらいあってもいいのに、と思ったりもしたけれど。
いや、人の世はそんなもんでしょう。
人はみな知らないうちにどこかで誰かの役にたっているのかもしれない。
それで、結局ナカタ老人が子供の頃に受けた体験ってなんだったの?
それも明らかにはされていないよね。
私が思うに、それはその時にナカタ少年が受けた心の衝撃を
彼自身が消してしまおうとした結果のような気がするなあ・・・。
その意志があまりにも強かったので、周りの子供達も影響を受けてしまったけれど、
大事にはいたらなかった・・・と。
あくまでも私らの勝手な想像だけれど、こんなふうに色々考えるところが多いし、
そして答えもない物語。
堪能しました。
やっぱり村上春樹さんはノーベル文学賞を受賞すべきです。
期待します!!
「海辺のカフカ」村上春樹 新潮文庫
満足度★★★★★