人を斬るということ
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監督、出演、脚本、撮影、編集、そして制作までが塚本晋也監督によるもの、という作品であります。
とにかく自分の思うように作りたいのでしょう。
そうであるからこその、見応えのある個性的な作品だと思います。
250年の平穏な時代を経た後、開国か否かで大きく揺れ始める江戸時代末期。
舞台は終始江戸近郊の農村です。
文武両道、才気あふれる浪人・都築杢之進(池松壮亮)は、
農家に宿を借りながら農作業の手伝いをして過ごしていました。
そんなある日、一人の剣豪と思われる浪人・澤村(塚本晋也)が通りかかります。
澤村は都築に、ともに江戸へ行った後に京の動乱に参戦しようと誘います。
都築は同意しましたが、問題が一つ。
彼は確かに見事な太刀さばきを見せる剣の使い手ではありますが、
これまで実際に人を斬ったことがないのです。
そんなとき、無頼者たちが村に乗り込んできて・・・。
この当時、実際ほとんどの侍は人を斬ったことなどなかっただろうと思います。
侍に憧れる農家の少年と木刀で太刀稽古をする都築の姿は
実に颯爽としてカッコイイ!!
でもそれは木刀だからであって、彼は本当は人を斬りたくなどない。
いえ、人を斬ることが怖いのです。
でも武士であるからには本来の職務を忘れるべきではない、とも思っている。
無頼者たちも、何もしない農民に手を出すような手荒なヤツらではなく、
むしろ親しくなろうとする都築であったのですが、澤村が余計なことをする。
ついに、真剣で立ち会わなければならい場面となります・・・。
作品の冒頭で、刀鍛冶のシーンが映し出されます。
いつもの時代劇で、刀はあまりにも当たり前に使われているので
特別意識することはありませんが、刀って実に鋭く、強烈な凶器なんですよね。
こんなもの実際に目の前で振り回されたら・・・と思うだけでぞっとします。
都築はその怖さを知る、今で言えば当たり前の人物であるわけです。
侍なんかでなければ良かったのに・・・。
まあそんなわけで、ぞっとするシーンも出てきます。
こんな男たちの有様をじっと見届けるのが農家の娘・ゆう(蒼井優)。
この娘も生命力にあふれていて、単に純朴な農家の娘ではないというのがなかなか良いです。
ところで、本作の題名。
「斬。」ではなくて「斬、」なのです。
この「、」の意味。
話は完結しておらず、続くのだ、ということなのかもしれません。
途中で断ち切った、という感じがありますね。
確かに、ここでは都築の先行きがはっきり語られていません。
いずれにしてもまともに長生きできそうにない感じ・・・?
強烈な印象を残す作品でした。
<WOWOW視聴にて>
「斬、」
2018年/日本/80分
監督・脚本:塚本晋也
出演:池松壮亮、蒼井優、中村達也、塚本晋也
刀のインパクト★★★★★
アクション度★★★★☆
満足度★★★.5