「愛する」ということ
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ひとりぼっちのクマと、ひたむきな少女。
心がぽうっとあたたまる、究極の愛の物語。
あたしのせいで動物園に入れられたクマの「あなた」を、必ず救い出す。
どんなことをしても。
雨子はそう誓った日から、親友の那智くんとも離れ、飼育員になるため邁進する。
だが、それは本当に「あなた」の望むことなのか。
大人になった雨子が出した結論は――。
真っ直ぐに誰かを想う気持ちが交差する、切なく温かな物語。
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本作、自然に生きる生き物と人間との関わりを描く物語かと思ったのですが、
実のところは、解説文にもあるとおり、“究極の愛”の物語です。
そう表現するのがいちばん的確。
北海道の倶知安に住む小学生・雨子。
その日、近所にクマが出没したということで、集団下校し、
その後も外出禁止と言われていました。
しかし動物大好きな彼女は、興味に駆られてクマを探しに出かけます。
そして道ばたで一匹の子グマと遭遇。
そのあまりのかわいらしさに、近づき話しかけてしまう。
けれど、そのすぐそばに母グマがいたのです。
母グマが今にも雨子に襲いかかろうとしたその刹那、
銃声がとどろき、母グマは撃ち殺されてしまったのでした。
母グマの突然の死。
雨子には子グマの声が聞こえます。
「おかあさん。おかあさん。」
「ねえ、おかあさん。おかあさん。」
ぽとり。ぽとり。
まんまるの目から、大粒の涙が雨のようにこぼれ落ちていた。
雨子は自分のせいで母グマが殺され、
子グマが一人ぼっちになってしまったことにひどく罪悪感を持つのです。
そしてやがてその子グマが仙台の動物園に引き取られたことを知り、
いつかきっと自分が子グマを救い出すと心に誓う。
そして雨子はその目的に向かってひたすらまっしぐら。
何が何でもその動物園の飼育員になると思い、ついに念願かなうのです。
雨子はクマに向かい「あなた」と呼びかける。
雨子には、「あなた」の声が聞こえる。
それは自分の思い込みなのかもしれないとわかってはいるけれど・・・。
でもクマを動物園から救い出すといっても一体どうやって?
第一、子どもの時から動物園にいて、今さら自然の中で自分で生きていけるのか?
クマにとっての幸せとは?
悩みながらも、雨子を支えたのは「あなた」の無垢なまなざしなのかもしれません。
まさか、と思うほどの雨子の決断と実行力で、
終盤のストーリーはあれよあれよというように進んで、ラストで気づくのです。
つまりこれは、究極の愛の物語を寓話的に描いたのだったのか・・・と。
雨子のことを必死で守ろうとする那智くんも良かったんだけどなあ・・・。
著者片岡翔さんは、北海道出身の主に脚本家。
私が以前見た映画「町田くんの世界」も、この方の脚本だったようです。
本作は小説としては2作目とのこと。
今後も楽しみです。
図書館蔵書にて
「あなたの右手は蜂蜜の香り」片岡翔 新潮社
満足度★★★★☆