映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「全員がサラダバーに行ってる時に全部のカバン見てる役割」岡本雄矢

2023年05月02日 | 本(その他)

トホホな人生が浮かび上がる歌

 

 

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誰にでもあるこんなトホホ、あんなトホホ。

でも、ここにあるのは、とびきりのトホホ。

――あなたに明日笑ってもらうために、世界の片隅で、僕の不幸をつぶやいてみました。

“歌人芸人"による、フリースタイルな短歌とエッセイ。

穂村弘さん、俵万智さん、板尾創路さん絶賛!

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北海道出身のお笑い芸人、岡本雄矢さんの歌集&エッセイ集です。

本の題名がもうそのまま短歌となっていて、

・全員がサラダバーに行ってる時に全部のカバン見てる役割

と言うのには思わずクスリとなってしまいます。
それで思わずつられて手に取ってしまったこの本。

 

こんな感じです。

・あの数ある自転車の中でただ1台倒れているのがそう僕のです

・星空が綺麗なことで有名な露天風呂でのすごい曇天

・さっきまで順調だったレジの列 急にもたつきだす僕の前

・趣味 君のLINEを見返すこと 特技 君から返事が届かないこと

 

作品を読むうちに、
真面目で実直に生きていて、だけれどなんだかトホホな人、
そんな人物像がくっきりと浮かび上がってきます。
そしてそれは私たち多くの人々が持っているものと同じでもありますね。
だから共感を呼んで、好きになってしまいます。

 

一番好きなのはやはり表題の一首。

サラダバーとかビュッフェ形式の食事でもそうですけれど、
皆一斉に席を立ってしまうと、荷物が心配。
それでつい、特に指名されたわけでもないけど、留守番役を引き受けてしまう。
でも、それでものすごく感謝されることもない・・・。
作中のエッセイでは、感謝されるどころか、
「なんで取りに行かないの?」と聞く人までいる、というように書かれていましたが・・・。

確かにいますよねえ、わざわざ損な役回りを引き受けてしまう人。
そうした一場面を実にうまく切り取って、
自分の性格や社会的位置までそれとなく示してしまうという、秀逸な歌であります。
でも悲惨ではなくて、ちょっと笑えてしまう所もいい。

続編も楽しみにしていますよ。

 

「全員がサラダバーに行ってる時に全部のカバン見てる役割」岡本雄矢 幻冬舎

満足度★★★★☆