海軍軍人で、天文学者で、クリスチャン
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海軍軍人、天文学者、クリスチャンとして、明治から戦後までを生きた秋吉利雄。
この三つの資質はどのように混じり合い、競い合ったのか。
著者の祖母の兄である大伯父を主人公にした
伝記と日本の近代史を融合した超弩級の歴史小説。
『静かな大地』『ワカタケル』につづく史伝小説で、
円熟した作家の新たな代表作が誕生した。
朝日新聞大好評連載小説の書籍化。
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図書館で貸出を受け取って、そのボリュームに若干たじろぎました。
700ページを超える大作。
ですが、読み応えもたっぷりで、堪能しました。
本作の主人公は、著者・池澤夏樹さんの大伯父(お祖母さんのお兄さん)。
海軍軍人、天文学者、クリスチャンとして、
明治から戦後までを生きた秋吉利雄、その人であります。
先には、池澤夏樹さんの母方のご先祖を想起した物語「静かな大地」があって、
そちらもボリュームたっぷり、
アイヌの人々のこともおり混ざって素晴らしい一冊でしたが、
こちらも負けず劣らず、1人の人物と家族の歴史、そして日本の歴史を旅することになります。
著者は、
「大伯父の生涯に導かれて日本近代史を書いてしまった。とんでもなく手間がかかった」
と述べています。
まさに、明治~戦後間もなくまでの日本の歴史。
読者はそれを生々しく体験することに。
秋吉利雄は海軍軍人で、最後は少将。
海軍で、よくあの戦争を生き残ったなあ・・・と思うかも知れませんが、
実は「水路部」という部署にいて、戦闘にはかかわっていないのです。
水路部、というのは主に「海路図」を作成するところ。
また、自船の位置(詳細な緯度・経度)を正確に割り出す方法を考えたり、
世界各地の港の潮位を割り出したりします。
確かに、言われてみれば重要な役割ですが、
こんな仕事があるということを今まで考えたこともなかったかも知れません。
今でこそコンピューターですぐに答えが出ることなのかも知れませんが、
その当時そんなものはありません。
数学、物理学、天文学などの知識が求められます。
しかしともあれ海軍なので、訓練やその後若い頃に多くの戦艦に乗り、
世界を渡り歩いたりもしています。
その時にはまだ、戦争状態にはなかったのです。
様々な艦船の話もまあ、興味深くはあるのですが、
身内の驚きの妊娠事情などがあったりもします。
秋吉の妹が未婚で妊娠してしまうのです。
一体どうするのか・・・。
驚きの展開。
これってつまり、池澤夏樹さんの父である作家・福永武彦氏の出生の秘密(!)ということになります。
・・・ここはもちろんフィクションでしょうけれど。
それにしてもドラマチックではあります。
また、秋吉が日食の観測のために、昭和9年に
南洋の島ローソップ島に赴いた話がとても興味深かった。
なんというか、本作、近代史的側面もありながら、博物学でもありますよね。
好きです、こういうの。
戦後、軍人だった秋吉は職を失い、
以前アメリカ留学経験のある自立精神旺盛の妻の方が
GHQに取り立てられて、イキイキと仕事をする・・・というあたり、
まあ秋吉氏には気の毒ですが、私は好きな展開です。
秋吉の最初の妻や、幼子たちがあっさりと命を亡くし、去って行くという時代性。
でもそんな中でも、強く前向きに生きていく女性たちの姿も印象的でした。
<図書館蔵書にて>
「また会う日まで」池澤夏樹 朝日新聞出版
満足度★★★★★
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