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この物語の舞台は中学校です。
中3のみちると優子。
あと半年で卒業というところなのですが、この学校は荒れて崩壊寸前。
窓ガラスは割られ放題。
不良たちの教師へ暴力も日常茶飯事。
こんな時、子供たち誰もがすさんでいるかといえば、そうでもないんですね。
問題行動を起しているのはごく限られた者たちで、
大半は、これらの状況から自分に火の粉がかからないよう、
そっとやり過ごしている。
この、みちると優子もそんな風だったのですが、
しかし、みちるは黙っているには正義感が強すぎた。
ある日、「こんな学校っておかしくない?」と
クラスの皆に投げかけてしまったことから、
クラスの中で、みちるへの執拗ないじめが始まってしまう。
優子は小学校の時にいじめを受けたことがあり、
そのつらさは良くわかっている。
みちるに加担すればまた、二の舞だ。
優子は皆のみちるへのいじめを見るのが嫌で、相談室登校に切り替える。
なんとも、殺伐とした学校の光景に、気持ちは暗澹としてきます。
信じたくはないけれど、ここまで極端ではないにせよ、
こんなことが実際に起こっていそうです。
しかし、この二人は、
とにかくやり過ごさなければならない卒業までの日々を淡々と受け止め、
そしてほんの少しでもいいほうへ向かう可能性を信じている。
嫌がらせ、無視、そして時には暴力を受けながらも、
自分は悪くないのだから、絶対負けない、
そんな思いで、登校を続けるみちる。
私なら、とんでもない、もう学校なんか行くのは止めなさい、
といってしまいそうです。
このみちるの強さには感嘆します。
しかし、時には優子のように、逃げ出すことも必要なのではないかな。
きちんと自分を保つためには。
誰もがそんなに強いわけではない・・・。
さて、この物語ですごいのは、
こんな中学校を著者が「温室」といっているところです。
* * * * * * * *
どれだけひどい行動をしようとも、学校の枠から外れても、
私たちは学校に守られている。
ドロップアウトしたって、次のクッションを与えてくれる。
でも、決して、居心地がいいわけじゃない。
どんな状況であろうとも、望もうが望まなかろうが、
この空間で毎日を送るほかないのだ。
* * * * * * * *
なるほど、甘い香りの花が咲き乱れた温室ではなく、
荒れ果て、空気がよどんだ温室もあり、ということか。
けれども、自分たちは本当は守られている、
そういう自覚が大人への一歩なのだろうと思います。
それがわかれば、そこまでひどい行動には出ないのだろうに・・・と思えます。
周りのすさんだ状況の中で、
それぞれのやり方で頑張っている人たちが描かれています。
それは別に突っ張っているのではなく、
一見しょうもないなあ・・・と情けなく思えるようなことなのですが。
でも、これって大事。
どんな風にしたっていい。かっこ悪くてもいい。
まずはそんな中でも自分らしくやってみよう。
今も学校へ行くのがつらい多くの中学生へ、
ちょっぴりエールを送りたいと思います。
満足度★★★☆☆
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