受け継がれていく“命”
三ノ池植物園標本室 上 眠る草原 (ちくま文庫) | |
ほしお さなえ | |
筑摩書房 |
三ノ池植物園標本室 下 睡蓮の椅子 (ちくま文庫) | |
ほしお さなえ | |
筑摩書房 |
* * * * * * * * * *
「三ノ池植物園標本室 上」
職場で心身をすり減らし、会社を辞めた風里。
散策の途中、偶然古い一軒家を見つけ、導かれるようにそこに住むことになる。
近くの三ノ池植物園標本室でバイトをはじめ、
植物の標本を作りながら、苫教授と院生たち、イラストレーターの日下さんや編集者の並木さんなど、
風変わりだが温かな人々と触れ合う中で、刺繍という自分の道を歩みだしていく―。
「三ノ池植物園標本室 下」
風里が暮らす古い一軒家には悲しい記憶が眠っていた。
高名な書家・村上紀重とその娘・葉、葉と恋仲になる若き天才建築家・古澤響、
過去の出来事が浮かびあがるうち、風里にも新たな試練が。
風里は人々の想いをほどき、試練を乗り越えることができるのか―。
* * * * * * * * * *
ほしおさなえさん、私にははじめての作家です。
この優しく静謐なカバーイラストに惹かれて手に取りました。
職場で心身をすり減らし、会社を辞めた風里が、
古い一軒家に住み三ノ池植物園標本室に仕事を得る。
何やらゆったりとした居心地の良いときが流れ始めて、
これは癒し系の小説なのかなと思い始めると、
突然に時代をさかのぼり、別の話が始まります。
それは高名な書家を父親に持つ葉の物語。
風里と葉、この二人のつながりはどこにあるのか・・・
そのことが少しずつ解きほぐされていきます。
同じ土地で生きた人々のつながり。
人の命は失われても、受け継がれていく。
物質的な意味でもありますが、心の面でも言えるのではないか。
あまりにも強い「念」のようなものが漂い、後々にも影響を与えていく
・・・などといえば妙な因縁話か幽霊譚のようになってしまいますが、
本作は見事にファンタジー的な表現で、
命のつながりを表していると思いました。
大昔にあった「一の池」が草原となり、一部井戸として残るという変化をたどったように、
人の思いも大もとの形を変えながらも受け継がれ残っていく。
残された思いはときには重荷でもあるのだけれど、
それを受け止め、引き継いで行くことが自己の存在意義であるのかも知れない・・・。
ふとそんな思いにも駆られるのでした。
風里の作る緻密な刺繍を、ぜひ見てみたい!!
「三ノ池植物園標本室 上・下」ほしおさなえ ちくま文庫
満足度★★★★☆
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます