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「武士の娘」杉本鉞子

2022年07月31日 | 本(その他)

大正時代、日本人女性の本が米でベストセラー

 

 

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本書は、1925年(大正15年)に全米でベストセラーとなった
旧長岡藩筆頭家老の娘・杉本鉞子による自伝的小説の完全新訳版。

明治6年に生まれた著者・杉本鉞子は、伝統的な武家の娘としての教育を受けた後、
貿易商を営む日本人男性と結婚して渡米、
習慣や人々の気質の違いに戸惑いながらも米国の地で娘にも恵まれ幸せな家庭生活を送っていた。
しかし、38歳の若さで夫が急逝。
いったんは帰国するが、再度2人の娘を連れて米国で生きることを決意。
生活のためにはじめた雑誌「アジア」への連載が1冊にまとまったものが
「A DAUGHTER OF THE SAMURAI」であった。
原書は全米でグレイトギャツビーと並ぶベストセラーとなり、
日本を含む8カ国語に翻訳される。
本書はこれまでの翻訳版では削除さていた24章を含む初の完全版である。

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この本は、先に読んだ梨木香歩さん「ここに物語が」で触れられていたので、興味を持ちました。

 

著者、杉本鉞子(えつこ)さんは、旧長岡藩筆頭家老の娘で明治6年生まれ。
長岡藩といえば先日見た「最後のサムライ」。
何やら親近感を感じます。
鉞子さんは明治6年生まれということですから、
すでに父親は「家老」の職ではなかったことになりますが、
やはり戊辰戦争後は捉えられ、処刑寸前のようなことがあったようです。

 

さてこの頃、東京ではなく越後ということで、
明治の世とはいえ、生活は江戸時代そのまま。

彼女はしっかりと旧態依然とした武家の娘としてのしつけを受けたのです。
そして、家督を継ぐべき彼女の兄が親の決めた結婚を嫌がって出奔してしまったため、
父親は彼女に後を継がせようと思ったのや否や、
通常女子にはさせない論語などの勉強もさせたのだとか。

さて、家を出て勘当された兄は、なんとアメリカに渡り商売を始めようとしていた!!
ところがいい話は詐欺で、彼はアメリカでお金もなく困り果てていたところを、
日系人に救われた。
で、そのアメリカに住む日本人と鉞子さんが結婚することに。
(お兄さんはお父さんが亡くなってから、家に戻ることができのです・・・)

 

鉞子さんは兄が勝手に決めて、一度も会ったこともないその相手と
結婚することになったわけですね。
でも、その準備として東京のミッションスクールでしっかり英語も身に付けてから、
というのには納得。

いよいよアメリカに渡った鉞子さんは予定通りそこで初めて会った相手と結婚し、
2女をもうけます。
しかし、夫は38歳という若さで急逝。

彼女は2人の娘を連れて帰国。

娘たちは日本語が話せませんし、日本の風習に馴染むのに大変だったようです。
帰国子女の走りですね。

鉞子さんが娘の学校に一緒に通うなどの助力もあって、
どうにか娘たちも日本の暮らしに馴染むことができたのですが、
それでも鉞子さんは、娘たちのためにはアメリカの生活の方が良いのではないか
と思うようになり、再びアメリカへ渡ります。

 

・・・と、大まかなこんな話が自叙伝的に書かれているのがこの本なのです。

それで、描かれているのはここまでなのですが、
この再渡米時に鉞子さんはこの本を書いたということになります。
そしてなんとそれは1925年(大正15年)全米ベストセラーとなる。
もちろん英語で書かれているわけなので、本著は、翻訳版ということになります。

その後彼女はコロンビア大学で初の日本人女性講師も務めています。
なんと波瀾万丈で“特別”な人生!!
今まで知らなかったとは!! 
大河ドラマになりそうな話なのに。

 

本作には明治初期の日本人の生活が細かく描かれています。
それは、アメリカ人にとってもちろん、エキゾチックで魅力的に思えたことでしょうけれど、
いま、私たちが読んでも、まるで「異国」を見るような思いがします。
かつて当たり前だった「日本」。
今は失われたもの。

女性の立場の日本とアメリカの違い。
当時と今との違い。
大きく変わっているところもあるけれど、いまだに変わっていないようなところもあり、
色々と考えさせられることも多いのです。

それから、鉞子さんの唯一のコンプレックスは、髪がちぢれていること。
黒くまっすぐな髪は女性の美点の一つとされたのです。
そのコンプレックスが、アメリカに行って解消された、と言うのは良かったですねー。
今ならパーマの必要がなくていいじゃん、と思うけれども・・・。
整くんもサラツヤ髪には憧れていますしね・・・。

 

なんにしても、興味深い本でした。

図書館蔵書にて

「武士の娘」杉本鉞子 小坂恵理訳 PHP研究所

満足度★★★★★

 



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