映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「ゲド戦記Ⅱ こわれた腕環」 ル=グウィン

2017年03月29日 | 本(SF・ファンタジー)
テナー、解放される女の物語

こわれた腕環―ゲド戦記〈2〉 (岩波少年文庫)
ゲイル・ギャラティ,Ursula K. Le Guin,清水 真砂子
岩波書店


* * * * * * * * * *

ゲドが"影"と戦ってから数年後、
アースシーの世界では、島々の間に争いが絶えない。
ゲドは、平和をもたらす力をもつエレス・アクベの腕環を求めて、
アチュアンの墓所へおもむき、暗黒の地下迷宮を守る大巫女の少女アルハと出会う。


* * * * * * * * * *

ゲド戦記の2巻目。


テナーという少女が幼いころに親と引き離され、
アチュアンの墓所に連れてこられます。
彼女はそこで名前を取り上げられ、
大巫女(アルハ)に祭り上げられるのです。
彼女はそこで墓所の地下の迷宮を守る役割を務めています。


テナーの「喰らわれしもの」「名なき者」という立ち位置こそは
「女性性」を表している、と我が「大人のための児童文化講座」講師はおっしゃる。
女性と迷宮はこれまでも様々な物語で対になって登場するもののようです。
子どもを持つ女性はある一定期、母子一体化して、
「わたし」ではなく「わたしたち」という感覚になるのではないか。
本人の「わたし」という感覚が希薄になる。
そこがこのテナーの状況であるということなのでしょう。


さて、本作でゲドはいきなりこの暗黒の迷宮の中に現れるという、
意外な登場のしかたをします。
ゲドとテナーはそこでいきなり出くわしてしまうのですが・・・。
その「玄室」と言われる場所は、明かりをつけることを禁じられているのです。
だからテナーは何度もその場所を通りながらも、
実際の様子を目にしたことはなかった。
ところがその時、ゲドが明かりをつけてその場所を観察しており、
テナーはこのいるはずのない闖入者とともに、
言いようもなく美しく輝くその鍾乳石の洞窟をはじめて目にすることになる。
…なんという劇的なボーイ・ミーツ・ガール! 
この時テナーの目にゲドの姿が焼き付いてしまうわけですが、
後にわかりますがゲドの方も同じだったようです。
しかし、ことはそう簡単には進みません。
神聖な洞窟に忍び込んだこの盗人を、大巫女は許すわけには行かないのです。
テナーは洞窟にゲドを閉じ込め、餓死させようとしますが、
何故か心は乱れ・・・。


私は、この後の展開でゲドに「大人」を感じてやみませんでした。
実際彼はテナーに殺されかけるわけなのですが、
その彼女に対して憎しみを向けたりはしない。
う~ん、前巻「影との戦い」を経て成長した彼の姿は
ニセモノではなかった。
立派にオトナの対応。
こりゃ~、惚れないほうが嘘だわ・・・。


色々なことの末に、ゲドとテナーは、
この迷宮とテナーの生活の全てである墓所から脱出することになります。
ここでようやくテナーは自分の名前を取り戻すのです。
(ここまではアルハと呼ばれていたわけですが、
混乱しそうなので私の文中はすべてテナーとしました。)


しかし、解き放たれたテナーの最初の行動は、
両腕に顔を埋めて泣くことでした。

「彼女が今知り始めたのは、自由の重さだった。
自由はそれをになおうとする者にとって、実に重い荷物である。
それは決して、気楽なものではない。
自由は与えられるものではなくて、選択すべきものであり、
しかもその選択は、必ずしも容易ではないのだ。
坂道を登った先に光があることはわかっていても、
重い荷を負った旅人は、ついにその坂道を登りきれずに終わるかもしれない。」

解き放たれたことで、手放しで喜ぶわけにはいかない、
そうした重みの感じられる素晴らしい結末でした。


この後、テナーがどのように女の物語を紡いでゆくのか。
彼女は今後も登場するようなので楽しみにしています。

「ゲド戦記Ⅱ こわれた腕環」ル=グウィン 岩波書店
満足度★★★★☆



最新の画像もっと見る

コメントを投稿