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「柚子は九年で」 葉室麟

2014年09月13日 | 本(エッセイ)
諦めずに続けること

随筆集 柚子は九年で (文春文庫)
葉室 麟
文藝春秋


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「自分の残り時間を考えた。
十年、二十年あるだろうか。
そう思った時から歴史時代小説を書き始めた。
老いを前にした焦りかと思ったが、二度とあきらめたくなかった」
――50歳で創作活動を始め、第146回直木賞を『蜩ノ記』で受賞した、
いま最も中高年に支持されている作家・葉室麟、
初めての随筆集。
若き日々への回想や出会った人々や書物、直木賞受賞後のあれやこれや。
江戸時代の博多を舞台にした短篇小説「夏芝居」も収録。


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葉室麟さんの随筆集。
「柚子は九年で」というのは、
「桃栗3年柿8年」という言葉があるのはご存知かと思いますが、
その続きが「柚子は9年で花が咲く」というのだそうです。
葉室麟氏は50歳になってから、かねてからの夢であった創作活動に入ったわけですが、
直木賞候補に何度も名前が上がりながら受賞には至らない、という経験を繰り返されています。
そんな時に氏は「柚子は9年で花が咲く」という言葉を思い出し、
柚子でさえ花開くのに9年もかかるのだから、簡単に諦めてはいけない、
と自分に言い聞かせていたのだといいます。
そしてついに「蜩ノ記」で直木賞を受賞。
長年耐えて見事花開いた葉室麟さんだからこその、心に響く言葉です。
で、氏には「柚子の花咲く」という本もありますね。
ぜひ読みたくなってしまいました。


さて、本作、随筆部分の表題が「たそがれ官兵衛」なんです。
もちろん、「黒田官兵衛」と「たそがれ清兵衛」をもじったんですね。
今ちょうどNHKの大河ドラマでもやっていますが、
葉室麟作品にも黒田官兵衛を題材にした作品があります。
氏が中学生の時に、
吉川英治の「黒田如水」を読んでから、彼に興味をもったとのこと。

「才能があるにもかかわらず、見果てぬ夢を追い、
しかも頂上に上り詰めるには何かが足りない2流の人」
・・・これまでの黒田官兵衛というのは、そういうイメージだったようなのですね。
けれどここのところへ来て脚光を浴びているのは、
「軍師」としての才能を改めて見直されていることと、
その才能がありすぎるがゆえに、逆に疎まれてしまった・・・という悲哀が
なんだか庶民感情に訴えるものがあるのかも知れません。
だから、たそがれ官兵衛。
気に入りました。


氏のそれぞれの著作への思いなども綴られていて、
葉室ファンは必読の本です。
直木賞受賞後のことなども日記風に描かれていますが、
それも大変そう・・・。
パーティーやら各方面からの取材やら・・・。
同じ小説家でもこのような大きな賞を取るととらないとでは扱いが全く違う
ということがよくわかりますし、
だからこそ、ものを描く人なら受賞したいわけなのでしょう。
これまで以上に葉室麟さんに親しみを感じてしまいました。

「柚子は九年で」葉室麟 文春文庫
満足度★★★★☆



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