映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「いのちなりけり」 葉室麟

2013年03月05日 | 本(その他)
無骨で豪放そして純情

いのちなりけり (文春文庫)
葉室 麟
文藝春秋


            * * * * * * * * *

あの時桜の下で出会った少年は一体誰だったのか
―鍋島と龍造寺の因縁がひと組の夫婦を数奇な運命へと導く。
"天地に仕える"と次期藩主に衒いもなく言う好漢・雨宮蔵人と咲弥は、
一つの和歌をめぐり、命をかけて再会を期すのだが、
幕府・朝廷が絡んだ大きな渦に巻き込まれていってしまう。
その結末は…。

            * * * * * * * * *

本作の咲弥は水戸藩の奥女中。
あの水戸光圀に仕えているのですが、周りも一目置く美しき才女。
でもこの咲弥は結婚していて夫がいます。
その夫が雨宮蔵人という武士。
しかしこの夫婦関係にはびっくりさせられます。
そもそも二人の国元は肥前。
咲弥の親が決めた縁談で、蔵人は婿に入ったのです。
その初夜、咲弥は書も読まず歌の一つも解さない蔵人にさっそく失望してしまった。
そこで、
「これこそが自分の心のだと思われる和歌を教えて下さい。」
という。
蔵人は全く答えることができません。
「今宵でなくても結構です。
これぞと思う和歌を思い出されるまで、寝所をともにしません」
と、さっさと出て行ってしまう咲弥。
そんな訳で、実際の夫婦関係がないままに十数年が過ぎてしまうのです。
何しろ無骨な大男の蔵人。
力に任せようと思えばいくらでも出来るはず。
でもそうしないところがいかにも"はむりん"ワールドの武士なのですねえ・・・。


蔵人は「天地に仕えている」と公言します。

「命でござる。
人の命、米の命、みな天地の間に満ちております。
天地は命を育むもの、されば命に仕えればようござる」


なんとも考え方が広くおおらかです。
物語は幕府と朝廷が絡みあい、いくつかの事件を経て進んでいくのですが、
女の小説読みとしては、やはりこの二人の関係を中心に追っていく事になりました。
咲弥は本当の蔵人を全然見ていなかったことに気づいていきます。
そしてまた、実は二人の関係はもっと遠い昔に端を発していた
・・・というあたりもロマンなのです。
「わしの生きた証は咲弥殿に何かを伝えることだ」
作品中に「愛」などと言う言葉はどこにも出て来ませんが、
行間にひしひしとそれを感じる、そういう作品だと思います。
蔵人とは友情で結ばれていく清厳さんもまたステキなんですよね~。
蔵人が見つけた歌。

春ごとに花のさかりはありなめどあひ見むことはいのちなりけり

「いのちなりけり」葉室麟 文春文庫(Kindle版)
満足度★★★★☆


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4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (ひでくんママ)
2013-03-05 21:58:28
古今集の歌ですね。私も地域の歌会に、参加させていただいております。最近サボリ気味で、ますます足が遠のいています。

他の作家でも『命なりけり』という小説がありました。読んではいませんが。

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歌会ですか! (たんぽぽ)
2013-03-06 20:09:11
>ひでくんママさま
素敵な趣味ですね。
私はいっとき、俳句に挑戦していたことがありますが、やっぱり和歌の方が、気持ちを織り込むのにはいいなあ・・・などと思っているうちに遠のいてしまいました。
今作の続き「花や散るらん」も、近日中にUPします。
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続編も (こに)
2013-08-29 22:04:25
早く読みたいです。
蔵人と咲弥、素敵なカップルですね♪
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赤穂浪士 (たんぽぽ)
2013-08-30 19:43:13
>こにさま
続編は、赤穂浪士の討ち入り事件も絡んで、面白いですよ―。
そういえばここのところ葉室麟を読んでいないので、又何か読んでみたくなりました。
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