映画と本の『たんぽぽ館』

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「13・67」陳浩基

2021年05月31日 | 本(ミステリ)

逆年代記!

 

 

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華文(中国語)ミステリーの到達点を示す記念碑的傑作が、ついに日本上陸!

現在(2013年)から1967年へ、1人の名刑事の警察人生を遡りながら、
香港社会の変化(アイデンティティ、生活・風景、警察=権力)をたどる
逆年代記(リバース・クロノロジー)形式の本格ミステリー。
どの作品も結末に意外性があり、犯人との論戦やアクションもスピーディで迫力満点。

本格ミステリーとしても傑作だが、雨傘革命(14年)を経た今、
67年の左派勢力(中国側)による反英暴動から中国返還など、
香港社会の節目ごとに物語を配する構成により、
市民と権力のあいだで揺れ動く香港警察のアイデンティティを問う
社会派ミステリーとしても読み応え十分。

2015年の台北国際ブックフェア大賞など複数の文学賞を受賞。
世界12カ国から翻訳オファーを受け、各国で刊行中。
映画化権はウォン・カーウァイが取得した。
著者は第2回島田荘司推理小説賞を受賞。
本書は島田荘司賞受賞第1作でもある。

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私は、順不同でしたが先に「網内人」を読み、痛く感動したため、
それに先んじて出ていた本作を手に取りました。
単行本は一冊ですが、文庫は上下2巻となっているとおり、
かなりボリュームはありますが、じっくりと堪能しました。

 

そもそも、この題名。
これだけ見ると意味不明ですが、つまり1967年から2013年までの、
香港の歴史を舞台とするミステリです。
名探偵役はクワンという警察官。

2013年の彼は、なんと病院のベッドの上。
いまわの際にいます。
そんな彼が、彼を最も理解している部下、ローの手を借りて
ある事件の解決を図ります。

 

この本、連作短編なのですが、なんとここから時代を遡っていくのです。
2作目が2003年、3作目は1997年・・・という具合。
クワンは次第に若返り、階級も下がっていきます。
そして、香港の近代の歴史が次第に浮かび上がってくる、というのが興味深いところ。
「警察」というのは民衆を守るものとはいいながら、
常に権力の下にあって、必ずしも民衆の「味方」というわけではありません。
権力と民衆の狭間にある「警察」という立場で、
あくまでも正面から犯罪と向き合おうとするクワンの姿勢が心強い。
そしてクワンは、その鋭い推理力で私たちを魅了します。
周囲の多くの人が彼と同じものを見聞きしているのに、
彼だけがその鋭い洞察力で、まるで手品のように真相を突き止めます。
一篇一篇は、そうした確かな本格ミステリ。
そして全体を眺めればこれはしっかりとした社会派ミステリ。

そして、最終話1967年は、新米の警察官だったクワンが、
英国で本格的に警察のあり方を学ぶ決意をするきっかけとなる話だったのですが、
なんと第一話の登場人物に関連する人物が登場・・・。
なんて心憎い構成。
全く、うなってしまいたくなります。
拍手喝采!

 

図書館蔵書にて

「13・67」陳浩基  訳天野健太郎 文藝春秋

満足度★★★★★

 

 



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