映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

ラビング 愛という名のふたり

2017年03月18日 | 映画(ら行)
ひっそりと寄り添うふたり



* * * * * * * * * *

1958年というので、ほんの60年ばかり前のできごとです。
米バージニア州に住む大工のリチャード(ジョエル・エドガートン)は、
恋人ミルドレッド(ルース・ネッガ)に妊娠を告げられ、結婚を申し込みます。
二人はワシントンD.C.に赴き結婚手続きをしました。
そして二人の地元で生活をはじめたのです。
ところがある夜、保安官が乗り込んできて二人は逮捕されてしまいます。

このバージニア州では白人と黒人、異人種間の結婚は犯罪とされていたのです。
裁判の結果は、懲役1年、執行猶予として25年間州外退去ということでした。
つまり離婚しない限りは、この故郷の地から出ていかなくてはならないということなのです。
やむなく二人はワシントンD.C.で暮らし始めます。



町中での暮らしはそれなりに穏やかではありますが、
子どもも増え、子どもたちが安心して暮らせる環境ではないと、
ミルドレッドは思います。
そんな中で、ミルドレッドは自分たちの困った状況を綴り、
ケネディ司法長官へ手紙を出します。
そのことが、大きく歴史が動くことの始まりでした・・・。



このケネディ司法長官というのは、
あのケネディ大統領の弟、ロバート・ケネディなんですね。
たった一人の名もない黒人女性の願いを
真摯に受け止めて対応したことには拍手を贈りたい!!
アメリカ自由人権協会(ACLU)からの弁護士も付きましたが、
でも、最高裁までの道のりはそう簡単なものではないのでした。
結局このバージニア州の法律が変わったのが1967年。
今では信じられないことですが、
こんな法律がつい50年前まで当たり前のようにしてあったわけです。


本作中のラビング夫妻は、決して激昂することがありません。
権力者に向かって拳を振り上げたりすることはない。
粛々と周りの現状を受け入れながら、
その中で二人の間の信頼と愛をつなぎとめていくだけ。
あくまでもひっそりと寄り添っていくこの二人の姿が、とても印象的です。


夫のリチャードは幼い頃から黒人たちと入り混じった生活をしており、
自身は全く人種間の偏見などはない。
ひたすら実直で、自己主張することもなくて、
なんだか頼りない気がするくらいです。
けれども妻を愛し守ろうとする気持ちだけは確かなんですね。
妻がいつも微笑んでそこにいてくれれば、それが一番の幸せと思っている。


一方、妻の方はもう少し先を見ている感じがする。
多分それは子どもたちのためと思うのですが、
子どもたちの未来へ向けて、彼女は希望を見据えている。


作中にもありましたが、ある時黒人の友人がリチャードに言うのです。
「あんたも大変だろうけど嫌になったらミルドレッドと別れればいい。
だけど俺達は(黒人であることからは)逃げられない」と。
ミルドレッドには逃げられないことへの覚悟と守るべき子どもたちがいます。
そうした女の強さが感じられる。
双方素晴らしい夫妻の演技でした。



自由とか平等を声高に叫んでもいない、
そして弁護士が活躍した法廷物語になっているのでもない。
ただの慎ましい愛の物語が大きな感動を呼ぶ、
これはそういう作品なのです。

「ラビング 愛という名のふたり」
2016/イギリス・アメリカ/122分
監督:ジェフ・ニコルズ
出演:ジョエル・エルガートン、ルース・ネッガ、マートン・ソーカス、ニック・クロール、テリー・アブニー

歴史発掘度★★★★☆
満足度★★★★★


最新の画像もっと見る

コメントを投稿