映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「そして、バトンは渡された」瀬尾まいこ

2021年01月01日 | 本(その他)

愛のバトンリレー

 

 

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幼い頃に母親を亡くし、父とも海外赴任を機に別れ、継母を選んだ優子。
その後も大人の都合に振り回され、高校生の今は二十歳しか離れていない“父”と暮らす。
血の繋がらない親の間をリレーされながらも、
出逢う家族皆に愛情をいっぱい注がれてきた彼女自身が伴侶を持つとき――。

大絶賛の2019年本屋大賞受賞作。

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2019年の本屋大賞受賞作ということで、興味を持ちました。

高校生優子は父親が3人、母親が2人いるという。
家族の形態は17年間で7回も変わった。
本作はどうしてそんなことになったのかというストーリーです。
そんなにも複雑な家庭状況に育ち、
さぞかし面倒な思いをした孤独な少女なのかと思いきや、
彼女の今の悩みは悩みがないこと。
それというのも、どんな状況においても彼女は愛情いっぱいで育ったから。

 

実の母親は早くに亡くなり、父親は梨花という女性と再婚。
梨花さんは、この物語のキーパーソン的存在であります。
彼女は自由奔放で、実のところ結婚にはあまり向いていない。
でも、優子のことが大好きで、自らの「母親」という立場には大満足。
出産しないで「母」になれるなんて、超ラッキーと思うのです。
ところが父が海外赴任となってしまい、
優子は海外の生活よりもこれまでと同じ生活を選択。
梨花さんとともに日本に残りましたが、その時に2人は離婚。

その後、梨花さんは優子の新しい父親にふさわしい相手を見つけて結婚。
しかし自身はすぐに離婚していなくなってしまいます。
だから、全く血のつながらない人を「父」として、
そこで父娘として生活することが一度ならず2度・・・。

普通ならいい加減グレてしまいそう。
けれど梨花さんの人を見る目は確かで、どの父親も並以上に優子を大切にします。
特に、今一緒に住んでいる森宮さんは、20歳しか年が離れていない人。
彼も「父親」としての立場を大いに楽しんでいるのです。

 

家族というのは結局血のつながりはあまり関係ないのかもしれません。
そもそも結婚は血のつながりのない2人が一緒に暮らすことですものね。
愛を受けることはもちろんしあわせなのだけれど、
愛を注ぐことも幸せなのだなあ・・と思います。
梨花さんや優子の父親たちのように。
明らかに彼、彼女たちは義務感ではなしに、
1人の少女の心と体の健やかな成長を願い、力を尽くそうとしている。
そしてそのことを自らの幸せと思っています。

家族の形は、一つだけじゃない。
色々な形があっていい。
けれど絶対に必要なのは、そこが安心していられるところで、
信頼でむすばれていること。

そんなことを考えさせられた次第。

 

物語の後半は、優子が就職し、恋人と結婚するまでのストーリー。
そんな時、優子の3人の父親たちの反応は・・・?

ここもまた、さらに楽しめます。
本屋大賞というのにも納得。

 

「そして、バトンは渡された」瀬尾まいこ 文春文庫

満足度★★★★★

 



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