元気で無秩序で生きるエネルギーに満ちた男の子
私の息子はサルだった (新潮文庫) | |
佐野 洋子 | |
新潮社 |
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何でもやってくれ。
子供時代を充分子供として過ごしてくれたらそれでいい―。
本を読んで、お話をして、とせがんだ幼い息子。
好きな女の子が「何考えていたのかなあ」と想像する小学生の息子。
中学生になり、父親を亡くした親友に接する息子…。
著者は自らの子を不思議な生き物のように観察し、成長していく姿に驚きつつ慈しむ。
没後発見された原稿を集めた、心あたたまる物語エッセイ。
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佐野洋子さん没後に発見された原稿だそうです。
というのも、著者が息子さんのことを書いて発表することを実の息子さんが拒否したので、
発表には至らなかったと推察されます。
ご子息は巻末の「あとがきのかわりに」の中で
「すべての行にうっすらと大袈裟と嘘が見え隠れする」・・・と、手厳しい言葉を書いています。
確かに、自分自身のことをこんなふうにあからさまに書かれるのは
楽しいことではないだろうとは思います。
でも、本人にとって欺瞞に満ちているとしても、
母の立場では真実なのだろうと、そのことは確かだと思いました。
そこには、元気で無秩序で生きるエネルギーに満ちた男の子の姿がくっきりとあるのです。
私は女の子しか育てたことがないので、私の体験した子育てとはずいぶん違う。
けれど男の子もいいもんだなあ・・・と思いました。
本作は、ケンという少年と、友情を育んでいく2人の少年、
そしてこの3人の共通の想い人である少女のことが描かれます。
無邪気な少年少女の交流の様子がなんとも楽しい。
息子たちの様子を呆れながらも楽しんでいた母親の姿も思い浮かびます。
加えて、遠い日の夏休みを思わせるようなノスタルジーすらも感じます。
しかしそんな少年少女たちも、親の事情とは無関係ではいられず、
散り散りになっていって、少しずつ成長していく。
これは一人の少年の成長記録ではなくて、
誰の中にもある「物語」なのだと思いました。
「私の息子はサルだった」佐野洋子 新潮文庫
満足度★★★★☆
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