映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

花腐し

2024年07月05日 | 映画(は行)

文学の香り

* * * * * * * * * * * *

綾野剛さんと柄本佑さん出演ということで気になっていたのですが、
R18+にびびって見逃していました。
いえ、当方立派な大人なのですが、あまり激しいシーンがあるのは
身の置き場がなくなってしまうので苦手なのです。

廃れつつあるピンク映画界で生きる監督・栩谷(綾野剛)は、もう5年も映画を撮っていません。
そんなある日、大家に家賃の支払いを待ってもらうことと引き換えに、
とあるアパート住人を立ち退きさせてほしいと頼まれます。

気が進まないながらアパートに出向いた栩谷。
そこで、かつて脚本家を目指していた伊関(柄本佑)と対面しますが、
意外と話があって、退去の話はそっちのけで話し込んでしまいます。
そして互いに過去に愛した女のことを話すうちに、
それが同一人物であることに気がつきます。

本作の最も特徴的なのは、この2人が生きる現在パートがモノクロ画面。
そして2人が語る、女優志望の女・祥子との過去パートがカラー画面となっているところ。

そして、作中で引用されるのが万葉集の中の一首(読み人知らず)。

春されば卯の花腐し我が越えし妹が垣間は荒れにけるかも

そもそも本作の題名をきちんと読むにはこの万葉集の教養が必要。
花腐(くた)しですね。
恥ずかしながら、私は読めませんでした。

「卯の花腐し」は、5月下旬の長雨、ウツギの花を腐らせるほどの雨、とWikipediaにあります。
そんなわけで、本作、いつも雨が降っています。

栩谷も伊関もかつては映画監督として、あるいは脚本家として、
いつかは何者かになろうと思っていた。
少なくとも、祥子と出会った頃はそうでした。
(時系列でいうと、先に伊関と付き合っていて、
彼と別れた後に、栩谷と付き合うようになったのです。)

しかし彼らは、日々の現実の中でその思いもうやむやになり、
まともにシナリオを書くことも、映画を撮ることもなくなっていく。

だからといってきっぱりやめるでもなく、新たな道を探すでもない。
ただただ過去の夢の残滓の中でぼんやりと漂っている。
ひたすらに怠惰。
・・・そんな状態を、腐り腐臭を放っていると、祥子は思ったのかも知れません。
彼女自身はやはり女優への夢は持ち続けていたのですが・・・。
だから、祥子がその夢を持っている間は、画面はカラーなのですが、
その存在がなくなった現在はモノクロ。
しかも雨。

さすが、芥川賞受賞の原作。
文学の香りのある印象深い作品でした。

<WOWOW視聴にて>

「花腐し(はなくたし)」

2023年/日本/137分

監督:荒井晴彦

原作:松浦寿輝

脚本:荒井晴彦、中野太

出演:綾野剛、柄本佑、さとうほなみ、マキタスポーツ、赤座美代子、奥田瑛二

文学性★★★★★

満足度★★★★☆



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